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第76話 三千世界無双拳(フィニッシュブロー)

 先週のボス戦後、屋敷の帰還する直前のベースキャンプにて、長光からボス討伐の作戦を周知する事となった。


「今回は時田くんが初めてのボス戦だから、復習も兼ねて前半からざっくりと説明するよ」


「前半というと毎週戦ってる番人状態のことですか?」


 さっそく秀矢は質問を投げた。


「そう。――と、言っても大した話じゃない。要するに、後半の敵視状態に向けて、力を温存して戦おうってだけさ」


「力を温存するのはわかりますが、相手が敵視状態――つまり、俺達を倒すべき敵と認識したかどうかって、どうやって判別するんですか?」


「僕の崩壊の兆し(ウルト)の発動が、切り替わった合図だと思ってほしい」


「ああ、なるほど! 今まで手加減してたけど、俺達を倒すために本気を出すことになる。だから、発動するんですね」


「うん。まあ何もないのが一番いいんだけど、前回は発動したから、今回も同じ展開になると予測してる」


 自分達の実力が伴ってるかはさておき、前半の運びは非常に理に適ってる、と思った。


「問題は後半――敵視状態になった後。以前から危惧してるボスの異常なまでの再生能力。一応、ダメージは蓄積してるみたいだけど、深手を負わせることで敵のペースを乱すことは叶わないと考えた方が良い」


《喉を潰したり、オブジェクトを破壊すれば魔法が止まる、というような感じで弱点や欠点を突いて、敵の択を削れない、という事ね》


「うん。そこで今回は、相手の再生能力ごとねじ伏せる圧倒的な火力。文字通り、一撃必殺に委ねようと思う」


 長光の視線が荒川に向く。


 感づいたのか荒川が目をそらす。


《荒川がああなるのも無理ないわね》


「亜由美、それはどういう意味だ?」


 秀矢は負傷した日以降、毎週、同僚の戦闘ログを確認してた。


 数あるログの内、ボス戦の荒川は、1度の戦闘で何度もウルトを使ってた記録が残ってる。


 気掛かりなのは、ウルトの発動前と後で、大きな変化がないこと。


 一撃必殺と言うからには、目に見える効果があってもいいはず。


《使う事と当てる事は、別問題ということ。雑に言えば、荒川のウルトは、男の子が大好きなロマンの塊》


「つまり、高火力の代償に汎用性と命中精度を度外視してる必殺技ってことか」


《そうそう。私も調べてみたんだけど、最大火力の条件がクソゲーのソレよ》


「チッ……つまんねえ事、探りやがって」


 荒川が亜由美を睨みつける。


 ウルトの扱いに難儀してるのが見て取れる。


《いいでしょ別に……私には、その権限があるんだし。――で、荒川のウルトなんだけど、名前は、三千世界無双拳(フィニッシュブロー)


「名前は知ってる。ログに出てたから。……使った後に、失敗の文字が続いてたけど」


《有効範囲は、拳が届く間合い。タイミングよくヒットしたら、ウロボロスゲージを全て消費すると共に、凄まじい破壊力を叩きつける一撃必殺のウルト。しかし、これまで100回以上、使ったにも関わらずまともにタイミングよくヒットしたことがない》


「マジかよ、てっきりボスの動きが早くて当てられないものだと思ってたのに――」


《こればっかりは仕方ないわよ。ほら、ミニゲーム的な奴で威力調整を、自動で伸縮するゲージで満タンになるタイミングを狙ってボタン押す奴あるでしょ?》


「ああ、俺があまり好きじゃないシステムな」


《そのシステムに加えて、動いてる敵の、しかも弱点に当てるための洞察力と運が必要なの》


「運まで!?」


《だって、このウルト、スピードとインパクトが完全に噛み合った渾身の右ストレートを敵の弱点にヒットして、初めてウルトの効果が発揮されるのよ。しかも、条件が一つでも欠けたら、ただのパンチに成り下がるの。敵が棒立ちならいいんだけど、そう甘くはないよね。ただクリーンヒットしない限りゲージを消費しないのが救いね》


 敵のヘイトを集めるタンクと相性のいいウルトには違いない。


 問題は、今回のボスは中遠距離の波状攻撃がメインで、魔法攻撃を掻い潜って詰め寄ってきた敵に対し、厄介払いもしくは自衛するため仕方がなく接近戦に応じる程度。


 お互い、待ちの姿勢なので相性は最悪という他はない。


「それでもボスの再生能力を考えたら、荒川くんのウルトを頼らざるを得ない。だから後半戦は、僕と日下部さんと時田くんの三人で、ボスを荒川くんの元に誘導すること。そして、荒川くんのウルトでボスを撃破、という流れになる。異論はあるかい?」


「私は、ないかな」


 日下部が言った。


「俺も異論はありません。何せ、あいつは俺の属性攻撃スキルが一切、効きませんからね」


 秀矢も後に続いた。


 しかし、荒川は浮かない顔で口をつぐむ。


《こらー、ここは嘘でも良いから格好つけるところでしょうが》


 亜由美に発破をかけられても尚、荒川は固く口を閉ざす。


 何か思い詰めてるようだ。


 今更、戦うのが怖い、という風には見えない。


 ただただ真剣に何かに向き合ってる、そんな感じがした。


 秀矢は荒川に対し、ある懸念があった。


 最初に違和感を覚えたのは、ボス戦での荒川の戦いぶりを見た時。


 それが確信に変わったは、ベッドに伏せてた時に閲覧した、初めて荒川が帯同した任務から戦闘ログを見返した時。


 言うべきか否か、今まで決めかねていた。


 何故なら秀矢が抱いてた懸念は、ボス戦の回数を重ねる毎に改善されてたから。


 しかし、今の荒川を見て、それを言葉にすることを決断した。


 気が重い。


 だが、チームメイトとの確執を恐れるあまり、勝機を逃すことなどあってはならない。


 公式、非公式問わず、多くのゲーム大会で優勝を手にした経験と実績が後押しする。


「荒川さん、もしかして人間と戦うのが怖いんですか?」

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