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第75話 敵視

 敵視状態に備えて力を温存するため英雄叙事詩(ウルト)は使わない。


 しかし、一か月前の負傷から今に至るまでの間、長光の指示で本番当日の作戦を見越して、英雄叙事詩(ウルト)を使わずにボスと戦っていた。


 だから、決して無理な話ではない。


 特に、崩壊の兆し(デッドリービジョン)が発動しなかったのが後押しとなってる。


 二か月間、戦い続けて目に焼き付いた老体(ボス)


 当初は畏怖の念を抱いてたが、今は違う。


「刃機、抜刀!」


 刃機を剣モードで構える秀矢。


 荒川はボスに詰め寄り、日下部は魔法攻撃に備えハンマー型刃機を担ぐ。


 ボスに牽制を仕掛ける三人の青侍。


 練習(いままで)と違い、秀矢と同じラインまで上る長光。


 発砲音が鳴り響く。


 青侍達が口火を切ったようだ。


 同時に、ボスが同時多発的に魔法攻撃を繰り出した。


 ボスも学習してるのか、回を重ねる事に攻撃に苛烈さが増してる。


 しかし、それは秀矢たちの実力も同じ。


 《体調はバッチリ、ゲージは満タン。うん、今の私達なら英雄叙事詩(ウルト)を使うまでもないわ》


 推しの言葉が頼もしい。


 羽が生えたかように体が軽くなった気がする。


「この二か月間、ずっと痛い目にあったからな。今までの借りも合わせて、倍にして返してやる!」







 同僚並びに青侍達との協力で、ボスを相手に善戦を繰り広げた。


 四方八方から迫りくる魔法攻撃を難なく回避し、機会をうかがい、攻勢に転じる。


 踏み外せば一巻の終わりを迎える綱渡りを、何度も何度も繰り返すかのような所業の果て、とうとうボスの振る舞いが鈍化。


 対して、こちらはゲージはほぼ満タン、青侍達も含め損害は軽微、わずかに疲労が蓄積しただけで戦闘に支障はない。


 戦いの主導権を完全に掌握した。


 現状の戦力と戦術で負ける要素は皆無だった。


 しかし、ボスとの戦闘が始まって5分が経過する頃、それは訪れた。


 視界がモノクロに染まる。


 それは、崩壊の兆し(デッドリービジョン)の発動を意味する。


 モノクロの映像には、荒川の死の様子が流れた。


(ついに来たか!)


 視界が総天然色に戻り、荒川の存命を目視する。


《秀矢、何が見えた?》


 急な脈拍の上昇で大筋を察したと思われる、亜由美が声をかけてきた。


「荒川さんが死ぬところ」


《長光先輩の筋書き通りってわけね》


「ボスの異常な再生能力を打破するには、どうしても荒川さんのウルトが頼りだからな」


《本当は自分が何とかしたかったー、とか思ってない?》


「全然。俺が望むのはチームの勝利であって、MVPじゃない。自我を出さないことが勝ち筋に繋がるなら、喜んで裏方に回るよ」


《……まあ今日のところは、それがいいかもね》


「何だよ、その意味深な言い回しは……いつも俺の命を案じてるくせに」


《ちゃんと反省してるんだなって関心してた》


「おいおい」


《わかってると思うけど、ボス戦はここからが本番よ。今まで温厚だったけど、ガチギレモードになったんだから》


 亜由美の言う通り、ここまでは長光の作戦通りに事が進んでる。


 そもそも番人状態でウルトが発動しなくなって、初めてボスと対等であることは予め聞かされてた事。


 但し、この場合の対等は、あくまでこちらの主観でしかなく、信憑性が低いことを留意しなければならない。


 つまり、番人状態を難なく乗り切る実力がなければ、敵視状態に勝つことは絶対に不可能というレベルの話に過ぎないだけ。


 秀矢は、崩壊の兆し(デッドリービジョン)発動後の動きについて振り返った。

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