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第74話 決戦

 秀矢が負傷した日から約一か月が経過。


 ボス戦開始時に崩壊の兆し(デッドリービジョン)の映像が流れなくなったことを確認。


 この日は、秀矢のウルトの時間が切れるまで戦ってから撤退。


 次週、万全の状態でボス討伐に挑む運びとなった。


 そして一週間が経過――決戦、当日。


 秀矢たちは、道中の戦闘でゲージを満タンまで貯めてから、ボスのいる部屋の手前に着いた。


 扉を開けたら最後、生きるか死ぬかの戦いが始まる。


 先週までと違い、他のサムライ達の表情にも緊張が滲み出てる。


 秀矢は、改めて作戦を振り返った。


 ボスの討伐において、対面した時に崩壊の兆し(デッドリービジョン)が出なくなることがボスとの実力差が拮抗状態である証。


 そして、未だ見ぬ敵視状態に向けて、戦い慣れた番人状態相手では力を温存すること。


《大丈夫よ。ここまでがんばった、みんななら倒せるわよ。私もいるし》


「そうだね、空閑さんの言う通りだ。ボス戦は二度とゴメンだと思ってたけど、ここまで来たからには、もう自分達の力を信じて戦うだけだ」


 亜由美の呼びかけに、最初に応じたのは長光だった。


 背にはサイコアームズG型――2本の巨腕を備えてる。


「へえ……意外。そうちゃんって、そういうキャラだったんだ」


「失礼だな。確かに僕の策は安全第一だけど、決して精神や根性論を(ないがし)ろにしてるわけじゃない。むしろ絶体絶命の状況下おいて最後に物を言うのは、自信やプライド等の不確かだけど強固な意志だと思ってるよ」


 長光は、物怖じせず堂々と言った。


 勝負どころで、戦う前から敗北を念頭に置くことは、戦いを放棄してるのと同義。


 どんな相手でも自分達の勝利を一分も疑わず、試合に臨む。


 幾度も参加したゲームの公式大会で、秀矢が心掛けてた規律。


 難敵に打ち勝つための気構えは、命をかけた戦いであっても、その本質は変わらないのだろう。


 その点、負けた時の事を口にせず、味方を鼓舞する長光には頼もしさを感じる。


「ああ、覚悟はできてる」


 真剣勝負におもむく武人を彷彿とさせる気迫を放つ荒川。


「俺も大丈夫です。何せ、生きてボスを倒さなければ先に進めませんからね」


 秀矢は緊張を表に出さぬよう、わざと余裕のある素振りをする。


 一か月前、弱点を克服するため、意図的に危険を冒したことで、人並みの恐怖に臆することはなくなった。


 しかし、それでも二度目がない戦いに挑む恐怖を払拭するまでには至らない。


 ただ秀矢自身は、その事を肯定的に捉えてる。


 理由は、プロゲーマーとして二度目がない戦い――公式大会に出場した際、適度な緊張感はパフォーマンスの向上に寄与することを身をもって体験してる。


 緊張とゆとりを内包してる状態が、ベストコンディションであることを理解してるのだ。


「それは頼もしいね、時田くん。しかし、一か月前のような、独断で突っ込んで怪我をするような無謀な行動は慎んでほしいね」


「う”っ! まだ根に持ってますか」


「当然だ。僕の任期が切れるまで一生擦るつもりだよ」


 長光に同調するように荒川、日下部もうなずく。


《そうそう普通、死んだら、それまでなんだからね》


「僕自身は、時田くんの人生に干渉するつもりは微塵もない。しかし、サムライ衆の一員である以上、君の命は、君一人だけのものではない。空閑さんが身を挺して守ってくれた命……僕の任期中の間だけでもいいから、大事にするんだ。いいね?」


《まあ長光先輩が居なくなっても、私がちゃんと見張ってるけどね》


「リーダー、余計なひと言がなければビシッと締まるんだがな」


「アレは、そうちゃん独自の照れ隠しよ」


「そこの三人、いちいちうるさい――で、時田くん、理解してくれたかな?」


「ええ、嫌と言うほど理解してます」


(俺は死なない。そして亜由美を生き返らせる。そのために、俺はここにいるんだからな)


「それならいい」


《よし! それじゃ、いってみよー》


 亜由美が緊張感のない号令をかける。


 長光がドアに手をかけてから呼吸を整える。


「行くよ、みんな」


 長光の言葉に、三人はコクリとうなずく。


 ドアが開いた。


 部屋に足を踏み入れ、ボスと対峙する。


 こうして、決戦の幕が静かに上がった。

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