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第68話 ラーニング

 秀矢たちは、6階でゲージ回収を兼ねたレベル上げからのボス戦へのルーティンを開始してから2か月が経過していた。


 その間、サムライ衆の戦力とボス戦の練度は、着実に高まってる。


 その中でも特に、青侍の成長速度には目を見張るものがある。


 それは期待値がマイナススタートという点を考慮しても、凄まじい成長ぶりと言う他ない。


 とりわけ関心したのは、学習した攻撃は紙一重で避けられるようになったこと。


 最初期の棒立ちでカマイタチを一身に受けてたのが、今ではマシンガンの如く飛来する無数のカマイタチに自ら飛び込み、傷一つ負わずにボスに攻撃を仕掛るほど。


 初週は1分も持たなかったのに、今では5分以上の継戦能力を有してる。


 そんな常軌を逸する青侍達の動きを見て、秀矢はふと思い出した。


 ゲームのCPUの強さは、良質なゲームほど最高難易度でも、人間――つまりプレイヤーがクリアできるように忖度を受けて調整されてること。


 反対に、プレイヤーが攻略不可能なCPUを作り上げることは、容易であることを。


 何故なら、プレイヤーへの配慮が要らないので、思いつく限りの理不尽な挙動を盛り込むだけで良いからだ。


 シューティングゲームなら、不可避の弾幕を。


 FPSとTPSなら、人智を超えた索敵能力と精密射撃を繰り出すだけ。


 格闘ゲームなら、人間の反射神経を軽々と凌駕する超反応と状況に応じた正確無比のコンボで叩きのめせばいい。


 忖度のないCPUは、ゲームを根底から覆す害悪。


 だが、任務となれば頼もしい味方へと変貌する。


 ただ青侍はAIなので未習熟の攻撃への対応力は皆無。


 ボスが新しい手札を切るだけで、あっけなく機能不全に陥る。


 AIでは及ばない対応力については、サムライ衆がフォロー。


 荒川は、完ぺきではないが戦闘経験を重ねるにつれ、ボスの動きを少しずつ捉えられるようになっていた。


 日下部は、ボスの魔法攻撃をほぼノーリスクで相殺できるように。


 長光は、青侍の管理だけでなく、卓越した観察眼と洞察力でもって、予兆を感知し、いくつかの魔法は発動する前に超能力で封殺することが可能に。


 秀矢は、ボス戦に効果のある無属性の剣技とパッシブにスキルポイントを振り分けることで、英雄叙事詩(ウルト)を使わなくても、ある程度ボスと渡り合う技術を身に着けた。


 未だ崩壊の兆し(デッドリービジョン)は発動するものの、ボスの攻略は着実に進行していた。


 部屋の中央に憮然と佇む老魔道士(ボス)


 秀矢たちは、ボスの真正面にいる。


 両者の間は、おおよそ20メートル。


 ボスのいる場所は、正方形の広大な一室。


 秀矢たちの数的有利ではあるが、包囲はしない。


 理由は、ボスの戦闘スタイルと戦場が、数で取り囲む戦術が実効性をもたないため。


 ボスの基本行動は、防戦と反撃――要するに、待ちの姿勢である。


 そして距離に応じて、魔法を使い分ける。


 体が触れる位置まで詰め寄ることで、回避行動のために身体を動かし、稀に徒手空拳で反撃をする。


 老体から繰り出される体術は見た目に反して、速度も威力も桁外れ。


 まるで巨人から、ぶん殴られたような衝撃を備えてる。


 遠距離から中距離は魔法攻撃。


 至近距離でも油断ならない体術。


 間合いで有利を取ることは至難。


 ボスと向かい合った瞬間、長光からチャットが送られてきた。


『打合せ通り、今日の戦闘時間は3分30秒。時田くんのウルトが切れてから30秒後に撤退。青侍が仕掛けると同時に僕がアラームをセットする。各人、健闘を祈る』


 青侍は今、長光の側にいる。


 長光、日下部、荒川の順に様子をうかがう。


 三人とも真剣な面持ちだが、初日とは違い過度な緊張はしてないようだ。


 秀矢は、心臓の脈拍を感じるほどに緊張はしてるものの、身体はリラックスしてる。


 まるで公式大会の試合開始直前、機材の前に着席した時のような、程よい緊張感に包まれてる。


 6階の強力なモンスターと戦って得た経験値がレベルとスキルになり、ボスとの戦いで得た実戦経験は、確固たる自信となっていた。


《秀矢! 今日も張り切っていくわよ!》


「ああ」


 秀矢は刃機を構える。


「「「「刃機抜刀!」」」」


 刀身が鈍い光を放つ。


 三人の青侍が銃型刃機を手に駆け出した。


《秀矢! アラームがセットされたわ》


「よし!」


 ――英雄叙事詩(ヒーローモード)、起動。


 満タンだったゲージの減少と共に、戦闘時間のカウントダウンが始まった。

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