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第67話 生体研究室……視点変更

 4月第3週の土曜日。


 一足早く屋敷に着いた長光は、明美にいつもの広い和室から遠く離れた、ある部屋の入口に案内された。


(ここに来るのは、2年ぶりだな……。二度と来ないように心掛けてたつもりだったけど)


 入口は、厳つい金属製の引きドア。


 プレートには『生体研究室』という文字があり、ドアの側らには読み取り機が設置してある。


 長光は、読み取り機にスマホをかざす。


 金属製のドアがゆっくりと開いた。


 部屋の設備は、ラウンジとほぼ同じで椅子とテーブルが備えられており、装飾は簡素だがリラックスの妨げにはならない。


 ラウンジと違うのは、奧にもう一つ金属製の引きドアがあること。


 長光は椅子に座ると、スマホをカバンにしまい、代わりに1冊の文庫本を取り出す。


 電子書籍が浸透してる世の中で、あえてアナログの本を開くのは事情がある。


 それは、脳の負担を和らげるため。


 超能力を有する長光は普段の生活において、アスリートが食事に気を配るように、サムライに就任した直後から極力デジタルデバイスを避ける生活を心掛けてる。


 ゲームや電子書籍は言わずもがな、老若男女に親しまれてるSNSと動画すら能動的に触れることはない。


 日常で調べものをするとき、オンライン学習サービスの利用、知人に催促された時になんかにしぶしぶ使う程度。


 支払いは、画面を見ずに支払いが可能な非接触型決済か現金。


 長光が文庫本を4ページほど目を通した時、カバンから通知音が鳴った。


 嘆息をついてから、文庫本とスマホを取り替える。


 画面には、久理田が映っている。


 長光はスマホをテーブルの上に置いた。


 長光と久理田が向かい合う構図となる。


「面倒かけるな、超能力少年……っと、随分と機嫌が悪そうじゃないか。何かあったのか?」


「あなたの顔を見たからです」


「開口一番でルッキズムとは、手厳しいね」


 久理田の口調には、反省や後悔は感じられない。


「今日の青侍は、先週と同じタイプですか?」


「ああ。人種、刃機、AI、いずれも寸分の狂いもない同型の青侍さ。AIは、先週の戦闘データを元にアップデートしてるけどね」


「人種、ですか」


「もしかして、顔を見たのか?」


「白々しいですね。全て、ご存じでしょうに」


「サムライ衆の活躍は、ゲームのPVというお題目で動画化されてるからね。部下の話によると、青侍が機能不全になったシーンがもっとも再生回数が多いみたいだ。世も末だね」


「……そうですか」


「気に病むことはない。そもそも青侍は人間じゃない。創られた時から自意識がないんだからね――」


「そういう問題じゃないんだ!」


 長光の怒声がラウンジに響き渡る。


 久理田は、意に介さない、と言った感じで平然としてる。


「あなたはまた僕に、人を犠牲にしろ、とでも言うのか!」


「嫌なら、さっさと強くなればいい。それがサムライ衆(きみたち)の仕事だろう」


「……ぐっ!」


「私は私の職務を全うしてるだけ。それは、加入が遅れてる新人と殉職した空閑の代わりとなる戦力の提供。……そうそう、青侍(ストック)は十分に用意してあるから気兼ねなく使うがいい」


 激昂する長光に対し、冷淡に返す久理田。


「難儀してるな少年……仲間を死なせたくない。立派だ。しかし一方で、自分の命は何よりも大事にしてる。当然だ。君の命は一つしかないからな。恥じることはない。だがリーダーという立場上、不用意に公言することはオススメしないけどね」


「……承知、してます」


「それより私はてっきり、空閑の事を探られるかと思ったんだけどね」


 長光は頭を冷やすため、時間をかけて深呼吸をした。


「僕は、他人のプライバシーは詮索しない主義です。それに彼女の事は、彼女自身の問題です。……もっとも、その事を新人に伝えたら怒られましたけどね」


「私は今さっき、お前に怒られたばかりだけどね」


「吐き出さなければ、やってられませんよ」


「はっはっはっ! 溜まりに溜まって、モンスター相手では満足できなかったか。若いって、いいなぁ」


「……ハァ」


「まあ愚痴は、いくらでも聞いてやる。君に青侍を託してる以上、私には、その責務があるからね。それに……研究所に籠りっぱなしだと、刺激が欲しくなってね。たまには、若い子との会話しないと死にそうだ」


「そうですか」


「あーあ、これで直接面会できりゃあ、言う事ないんだけどね。空手バカ、底辺ストリーマー、ドスケベボディ……ああ、若い子と同じ空気吸わないと老けそうだ」


 奧にある金属製の引きドアが開いた。


 そこから三人の青侍が入ってきた。


 手には銃型刃機を携えてる。


 三人がラウンジに入ると同時に引きドアが閉じる。


「クローン人間を扱う以上、雑菌を避けるため、業務中はうかつに外に出れないのが難点だよ。超能力少年」


「無菌室の方が羨ましいですよ。ダンジョンの空気より人体に有益ですからね」


「しばらくの間、毎週、青侍を提供するため、ここに来てもらうから、そのつもりでな。それじゃ任務に行ってきな」


「はい……任務を滞りなく遂行するためにはまず、久理田さんのセクハラの件でコンプライアンス窓口に通報、ですかね」


「え!?」

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