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第63話 クローンの実態

 長光の憂さ晴らし以降、モンスターとエンカウントせず、一同は屋敷に帰還した。


 蛟牙への報告も滞りなく終わり、その日は解散となった。


 和室を抜け、転移装置のある部屋に向かおうとした時、スマホから通知を知らせる音が鳴った。


《……長光先輩からだ》


 いつもに比べてテンションが低い声で、亜由美が言った。


 スマホを取り出し、メッセージを確認する。


『お疲れのところ申し訳ないけど、少し話があるからラウンジに来て欲しい』


 クローン体のせいで亜由美が気落ちしてることもあり一秒でも早く帰宅したかったが、メッセージの末尾に『追伸:リーダー権限で時田くんの転移装置使用権限を無効にしてます』と記載があったので、不本意ながらラウンジに足を運ぶ。


 ラウンジに到着し、長光と軽く挨拶を交わしてから席に着く。


 テーブルの上には、長光のスマホしかない。


「長光さん、話は何ですか?」


「ちょっと待って――」


 長光はテーブルの上にあるスマホに目を向ける。


 数秒後「お待たせ」と言った。


「何を見てるんですか?」


「日下部さんと荒川くんが屋敷から転移したかどうかをね」


「二人が居たらマズい話なんですか?」


「ああ。今から話すことは、空閑さんのプライバシーに関わるからね」


「亜由美の、ですか?」


「うん」


 長光はテーブルの上にあるスマホをカバンに仕舞った。


「これは、僕から空閑さんへの依頼だ」


《……今、お取込み中だから後日というわけには、いきませんか?》


 亜由美のテンションは依然、低いようだ。


「悪いがそういうわけにはいかない。放っておけば、僕たちの今後の活動に支障が出るからね」


《……話だけは聞きます。秀矢も疲れてると思いますので、手短にお願いします》


「空閑さん。君は……君自身が何者であるかを、一刻も早く知る必要がある。それだけさ」


 長光は真剣な面持ちで言った。


 その言葉は抽象的だが、それは亜由美の事情を知らなければ絶対に出てこない。


 秀矢はスマホを取り出し、テーブルに置いた。


 画面に映る亜由美の顔は、憂いを帯びてる。


 その様子に、違和感を覚える。


 クローンと亜由美が瓜二つだからか?


「長光さん、今日の青侍が亜由美とそっくりな事と何か関係があるんですか?」


「もちろんだ。時田くん、青侍が歴代のサムライのクローンであることは覚えてるかな?」


「はい。6階のベースキャンプで長光さんが、そんな事を言ってるのを覚えてます」


「では質問。クローンとは、何なのか?」


「……本人――つまりコピー元と見た目が瓜二つの人間、でしょうか」


「うん。フィクションでよく見かけるクローン人間はそんな感じだね。でも、それは、半分正解で半分不正解だ」


「半分不正解とは、どういう事ですか? だって、クローンですよね?」


「SFの一要素としか考えてない人は大抵、クローンを誤解してるんだ」


 誤解……そこに、亜由美が気落ちしてる理由に繋がるのだろうか?


 勿体つけるような長光の言い回しに焦燥感が募る。


「クローンは厳密に言うと、遺伝子的には同じ人間だが、指紋をはじめとする外観まではコピーした人間とそっくりにはならないんだ。少しでも年が離れた兄弟姉妹のようにね」


「でも、今日の青侍は、亜由美とそっくりでしたよ。少なくとも顔認証は亜由美と認識されました」


「それは僕も確認した。青侍の三人は全員、空閑さんと認識されたよ。……時田くん、青侍の三人と空閑さんが全く同じ顔をしてる。体格もね。それが何を意味するのか、わかるかい?」


「……」


「結論を言おう。空閑さんは、法龍院家で生まれた……いや『創られた』と言うべきだろう」


《……》


 亜由美は否定も肯定もしない。


 暗い顔のまま押し黙ってる。


 返す言葉が見つからない秀矢を尻目に、長光が口を開いた。


「一卵性双生児の兄弟または姉妹が何故、同じ見た目なのか。それは種、母体、時間が一致した環境下で、複数の同じ性別の胎児が同時に育つから外観が同じになるんだ。反対に、年の離れた兄弟姉妹の顔が不一致な理由は、時間経過と新陳代謝によって種と母体にズレが生じるからだ」


「整形手術という線は――』


「論外だ。青侍の運用は、捨て石が前提。顔が要らないのは、黒い仮面を被せてるのが何よりの証拠。法龍院家は決して、自分で掘った穴を埋める行為はしない」


(仮に亜由美が、法龍院家によって創られたクローンの内の一人だとして……それで一体、何が変わるのだろうか)


「それに僕はリーダーの特権で、空閑さんがサムライになった経緯を知ってる。……だから今、空閑さんが激しく動揺してる理由は察してるつもりだ」


(そういう事か……)


「空閑さんには、酷かもしれない。だからといって、空閑さんの機嫌一つで、僕たちの命を危険に晒すことは許容できない」


 秀矢は、長光の言いたいことをそれとなく察する。


 長光の懸念は故意か過失かに関わらず、秀矢と亜由美の不和による任務への悪影響だろう。


 コンディションの振れ幅の大きさは、そのまま任務遂行の不確実性に直結する。


 リスクを極力排除し、安全に確実に任務を遂行するスタンスと極めて相性が悪いのは明白。


「申し訳ないが僕自身は、空閑さんの出生には一切興味がない。だから、取り返しのつかない事態を引き起こす前に、さっさと気持ちを整理してほしい」

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