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第61話 推しの死に顔

『BB3 BREAK』という文字が映し出される。


 目を背けたくなる凄惨な光景。


 事前に周知されてなければ、気後れしていたに違いない。


 そう、青侍は最初から捨て石なのだ。


 その理由は、作戦と併せて長光から知らされてる。


 一見、人間より優秀と思われるAIが持つ欠点。


 それは不測の事態――未習熟の攻撃に対応できないこと。


 実際、先行した青侍の部隊が戦闘開始から撤退するまでの時間は、ものの数秒だった。


 3階の試運転でモンスター達を圧倒したのは、学習済みのモンスターが相手だったため。


 ゲームで言えば、事前に攻略情報を仕入れたのと同じである。


 未習熟のモンスター相手には、どう対応するのか?


 今回の場合で言えば、長光がゲームキャラを操作する感覚で指示を出す。


 そうすれば、ある程度は対応できるが、ここにも1つ問題点がある。


 それは、指示を出してから青侍の行動に反映されるまでのタイムラグ。


 青侍は人間と違い、反射と反応がないため、リモートコントロールでは未知が待ち構えるダンジョン攻略では人間より大きく劣る。


 そして、このタイムラグの存在が、亜由美がクローン体を操作することより、秀矢のアイボーの方が実益をもたらすことを示してるのだ。


 学習すれば無類の強さを発揮するが、未知の相手には何者よりも弱い。


 ――これが青侍の実態である。


 故に青侍は、サムライが命をかけて集めたデータを用いて、初めて戦力となる。


(くそっ! こんなものに慣れろってのかよ)


 心の中で毒づく。


 捨て石である以上、ボスを討伐するまで青侍達が悲惨な目にあい続けるのは確定事項と言えよう。


 胴体から離れた青侍の頭部が床の上を転がる。


 程なくして、ピタっと止まる。


 黒い鉄板は、バイザーのように上がってる。


 立ち位置を変える中、黒い鉄板に隠されてた顔を覗き見た瞬間、思考が停止した。


《え!? あれって……私?》


 亜由美の言う通り、青侍の素顔は亜由美と瓜二つ。


 推しの死に顔を目の当たりにした秀矢は、かつてない衝撃を受け、立ちすくむ。


《秀矢、落ち着いて! 私は、ここにいるから! あれは、ただのクローン。私の姿をしてるけど、私じゃないわ!》


(そうだ! 青侍は、ただのクローン。アイの姿をしてるけど、亜由美じゃない)


「悪い。助かったよ、亜由美」


《よかった。それじゃ、戦闘に集中して!》


「ああ」


 気を持ち直した秀矢は、改めて刃機を構え、ボスを見据える。


 残された時間は60秒。


 そこから1分間に及ぶボスとの攻防によって、貴重な戦闘経験を積み上げた。


 秀矢が持つ全ての属性スキル、種族特攻スキルは効果がないこと。


 荒川のヘイトスキルは、ある程度有効ではあるものの、荒川の打撃を回避する俊敏性を持つ。


 長光のサイコキネシスは、火力としては心許ないが決して効果がないわけではない。


 現在判明してるボスの攻撃手段は、無数のカマイタチ、氷塊の製造及び操作、火柱の噴出。


 それらの攻撃は解析が進めば、日下部のウルト、鎚消滅(デストラクションゼロ)で対処可能。


 そして、これまでの人間型モンスターと違い、生気を備えており、傷口から血液と思しき黒い液体が滴ること。


 カウントダウンが0になると同時に、秀矢たちはボスから撤退。


 急いでに部屋から退出し、出入口の扉から離れる。


 移動する最中、追ってくる様子が無いことを確認し、足を止めた。


 秀矢は安堵のため息を吐いた。


《周囲にモンスターの気配は……無いわね。逃走は成功みたいね。みんな、お疲れ様》


 亜由美の声は溌剌としてるように聞こえるが、どことなく沈んでるみたいだ。


 確証はないが『いつもとは違う』という事だけはわかった。


「ありがと、空閑さん」


 言葉とは裏腹に、深刻そうに返答する長光。


 日下部は、ハンマー型刃機を置いてから、伸びをした。


「うーん、今日は何とか生き延びたわね」


「そうだね、サクナ。事前に逃走できることを知らされてたとはいえ、土壇場になってダメでした、ってパターンにならずにすんでよかったよ」


「そうね」


 ボスから逃走可能な理由は、事前に長光から周知があった。


 1階から5階のボスは例外なく、番人状態と敵視状態という2つの形態がある。


 番人状態なら逃走可能で、敵視状態なら逃走不可能とのこと。


 何故、番人状態なら逃げられるのか?


 推察ではあるが、家と住人という例をつかって説明をされた。


 番人状態というのは、サムライの扱いが宗教の勧誘や訪問販売等の招かれざる者であり、住人は対応するが、素直に帰るものを追いかけたり通報はしない。


 敵視状態というのは、サムライの扱いが空き巣や強盗のような犯罪者であり、住人は自己防衛や通報などの徹底抗戦する。


 ――と、言った感じだ。


 逃走可能な事は事前に把握してたため、無闇に深手を負わせない限り、高い確率で逃走できると見込みは十分にあったと言える。


「俺、この仕事してから、ずーっと予想外の事態に巻き込まれてばっかりだったからさ」


「でも、ちゃんとピンチを乗り切ってるんだから、師匠は凄いよ」


「みんなのおかげだよ。俺なんて、ジタバタ足掻いてるだけさ」


「ふふ」


 安堵の表情を浮かべる日下部を見て、秀矢も人心地つく。


 山を超えたというのに亜由美、長光、荒川の様子が変だ。


 長光は皆に背を向けており、亜由美はウィンドウを閉ざしており、右コメカミを2回タップしてもアバターが表示されない。


 荒川は物憂げな表情で、自分自身の右拳に注視してる。


 周りの空気が暗いため、歓談してる自分が悪者みたいに思えてきた。


 長光が背を向けたまま、歩き出す。


 続けてチャットで『今日の任務は終了だ。このまま帰還する』と送られてきた。


「行こっか、師匠、あみちゃん、だいちゃん」


 秀矢は「うん」と返事をした。


 荒川は何も言わずに歩き出す。


 そんな中、亜由美の返事がないのが気掛かりだった。

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