第58話 青侍の性能テスト
秀矢たちは3階のベースキャンプを後にした。
現在、前方には青侍を引きつれた長光。
秀矢たちは、長光から約20メートルほど後ろにいる。
歩き始めてから数分後、長光達がモンスターと接敵した。
画面には、BATTLE STARTの文字が映し出される。
この文字はWARNINGと違い格下相手の場合に出てくる文字。
つまり、今の秀矢にとって、3階のモンスターは取るに足らない相手である。
《それじゃあ、青侍達のお手並み拝見といきますか》
三人の足が止まる。
秀矢は敵影を確認する。
力士よりも二回りほど大きい巨大な蛙を筆頭にスケルトン、ゾンビ、ガスクラウドが群れを成してる。
《――といっても私、青侍のこと、よくわからないんだよね。奈央姉は、知ってる?》
「うん。一昨年、あみちゃん達が入ってくるまでの間、一緒してたから」
「サクナ、青侍達と俺達の違いは何かあるの?」
「そうねえ……まず本能が無いことかしら」
「本能?」
「そうちゃんの方をよく見て」
日下部に言われた通りにする。
今、三人の青侍達は、刃機の銃口をモンスター達に向けてる。
《秀矢、拡大しようか?》
「頼む」
目の前に、ウィンドウが現れた。
そこには、遠くにいる長光達とモンスターの姿が鮮明に映されてる。
臨場感あふれる映像に緊張が高まる。
「師匠。青侍達は今、モンスターと向き合ってるでしょ」
「そうだな。でけえ蛙にスケルトン、ゾンビ、ガスクラウドと壮絶な景観だ」
「うん。酷い光景でしょ。戦い慣れてる敵でも正直、目に入れたくないわよね」
《そうね。あんな気持ち悪い敵は、さっさとヘッドショット決めて終わらせたいわね》
「でも、青侍達は今回が初の戦闘で、しかもあんな気持ち悪いのと向き合ってるのに堂々としてるでしょ?」
《普通なら顔が青くなって、唇が紫色になって、手足がガタガタ震えるわね》
「まあ、普通の人なら命がけの戦いに恐怖を覚え、体が震えることはあるな。後、気持ち悪い見た目したモンスターには嫌悪感を示すのも当然だと思う」
「そういうこと」
話に一区切りつくと同時に、バァン、と発砲音が耳に突き刺さる。
戦いの火蓋が切って落とされたようだ。
三人の青侍が一斉に刃機の引き金を引いたみたいだ。
その証拠に、ジャイアントトードの肉体が3箇所、ごっそりと欠けてる。
そして、三人が同時にジャイアントトードに詰め寄る。
一人目が頭部、二人目が中央腹部、三人目が横腹に近づくと同時に、蛙の体がいびつな形となった。
三か所から同時に強い衝撃を受けたためだ。
頭部に飛んだものは刃機で殴りつけ、中央腹部に潜んだ者は柔そうな腹を蹴り上げ、横腹に移った者は横腹を両の拳で殴打した。
「これも1つの強みね。今みたいに集団で行動を起こす時、1ミリのズレもなく全員が作戦通りの動きをするの。うーん……あの様子だと、そうちゃんが指揮をとってるみたいね」
「それは凄いな」
それは、本心から出た言葉だ。
一つの意志の下で集団が寸分の狂いもなく作戦を遂行することの難しさは、チーム戦が主である対戦型シューターゲームを通じて、嫌と言うほど身に染みてるからだ。
どんなに単純明快な作戦でも人間がやる以上、必ず誤差が生じる。
その大きな要因は、立案者と実行者、それぞれの頭の中で描いた絵、作戦の行間が完全に一致しないからだ。
さらに作戦を遂行するプレイヤーの能力にも著しい個人差がある。
目標の確認、攻撃を仕掛けるタイミング、状況に適した攻撃手段の選択、プレイヤーの練度等々……如何なるパラメータ一つとっても、自分と全く同じ能力を備えた他人は存在しないといっても過言ではない。
だからこそ、映像に映された青侍達の完ぺきに統率が取れた集団戦闘に感銘を覚える。
程なくして、凄惨な肉塊と化したジャイアントトードが地に伏せた。
青侍達に出鼻をくじかれたのか、モンスター達が一歩後ずさる。
青侍達は散開した。
一人目はスケルトンの群れに、二人目はゾンビの群れに、三人目はガスクラウドの群れに、それぞれ飛び込む。
機敏な動作。
しかし、それは人間とは思えなかった。
一挙手一投足、人間の体なのは間違いないことは理解してるのに、顔が黒い鉄板に覆われてるのも相まって、血と心が通ってない機械の印象を受ける。
長光は微動だしない。
青侍達の戦いぶりを見守るようだ。
「今度は、バラけたな。あれだけの集団戦闘能力があるなら、三人でまとまって各個撃破するのが無難だと思うけど――」
「大丈夫よ、師匠」
「戦闘能力自体は、疑ってないけど――」
秀矢の言葉を止めたのは、青侍達の戦いぶりだった。
なんと青侍達は、射線上に味方が居ても、お構いなしに引き金を引いてるのだ。
普通、銃を扱う時、同士討ちを避けるため、味方の現在地をリアルタイムで把握した上で、誤射に注意を払う。
(流れ弾が怖いな……)
一つの懸念が生じた時、長光からチャットが送られてきた。
『全員、怪我をしたくなければ、その場に留まる事』
文面から察するに、青侍達はあれで配慮してるみたいだ。
「サクナ……青侍達は、混戦状態でも同士討ちしないってこと?」
「そうよ。味方の位置、弾道、弾速を常に把握して確実に、味方に当たらないように銃を扱えるの」
「俺なんか同士討ちをやらかしそうになると、引き金にかけた人差し指が金縛りにあうのにな」
「師匠、私は撃たないでね」
「はい……気を付けます」
《まあ銃の刃機を扱ってた経験から言わせてもらえば、同士討ちは絶対にないわよ。だから安心して、奈央姉》
「そうなんだ」
《うん。何度か荒川に向けて、発砲しようと頑張ってみたけど、人差し指どころか引き金も動かなかったから》
「空閑、俺に恨みか何かあるのか?」
《え? 無いけど? 無かったら、銃口を向けちゃいけないの?》
「あるなし関係なくダメだろ、普通」
《いやあ、刃機がちゃんと機能してるか不安だったから、セットアップの度にやってたわよ》
「それじゃ毎週ベースキャンプで銃を構えて、俺に銃口を向けてたのって――」
《そう、それそれ》
荒川は亜由美のルーティンに戦慄したのか、顔面蒼白になった。
追いかけるように、日下部の顔が引きつってる。
《何よ、荒川。その……化け物でも見るような顔は》
「化け物だろ。現に今も、銃弾が貫通してるのにへらへらしてるし」
《失礼しちゃうわね。ただの映像じゃない》
荒川の言う通り、アバター亜由美の頭、胴体に時々、青侍が撃った流れ弾がすり抜けてる。
長光の忠告を破ったら、流れ弾が当たって怪我をしそうだ。
(弾、か……)
同じ射撃でも、自分が撃つのは、オカルトじみた体内のエネルギーを元に精製されたエーテル弾。
これは刃機の引き金を引く度に、内部機構が弾を精製して射出する。
しかし亜由美の場合は実弾。
薬莢に包まれた、雷管を叩くことで小さな爆発を起こし、それが火薬に広がり、さらなる爆発を引き起こし、その勢いで弾頭を飛ばす。
問題は、弾丸を補充してる様子がないのに、弾を撃ち続けられるのは何なのか?
手持無沙汰になったので、いい機会だと思い訊ねることにした。
「亜由美、何で弾を込めてない刃機で実弾が撃てるんだ?」
《あれね、ポンプアクションをすると、近場のベースキャンプから刃機の内部に実弾が転送されるのよ》
「考えれば、人体の転移装置が造れるなら、小さい無機物くらい、どうとにでもなるか」
《しかも弾の種類は沢山あるからゲーム感覚で弾を選択してリロードできるの。状況に応じて単発、機関銃、ライフル、バースト機構もイケるし、他にも……あ、丁度ガスクラウドと戦ってる青侍がいるから見てみて》
ガスクラウドと交戦中の青侍に目を向ける。
持ち手をスライドポンプアクションをして、すぐに引き金を引く。
すると、銃口の先から火を吐くドラゴンの如く、炎が噴き出した。
炎を浴びたガスクラウドは、苦しそうに身悶えしてる。
「火炎放射器?」
《うん。放射時間が短いから何度もリロードしなきゃいけないのと弾数に制限があるのが難点だけどね》
放射時間が短い――その言葉を聞いた途端、刃機の火炎放射が止まる。
青侍がポンプアクションをして、引き金を引くと再び炎が噴き出す。
弾数に制限というのは、ベースキャンプに保管された弾のことを指してるのだろう。
《他にも、氷、水、電気も撃てるわよ》
「へえ、てっきり物理一辺倒かと思ってたけど意外と多彩なんだな」
そうこうしてる内に、青侍が次々とガスクラウドを焼き払っていく。
気が付けば、スケルトンとゾンビの数が目に見えて減っていた。
決して同士討ちをしない青侍達の常軌を逸した連携プレーは、3階のモンスター達を軽々と打ち破った。
青侍の実力は、秀矢の想像を遥かに超えていた。
人間ではあり得ない盤石な統率力に基づく、常識外れの集団戦闘能力と作戦遂行能力に畏敬の念を感じずにはいられない。
たとえそれが、人間と呼べるか疑わしい者達でも……。
画面からモンスターの姿が消えると、長光からチャットが送られてきた。
『テストは完了した。これより6階のボスに挑む』
その文面は、秀矢たちに取り巻く緩んだ空気を引き締めた。




