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第57話 亜由美アップデート

 秀矢たちは、3階のベースキャンプに転移した。


 理由は青侍達の実力を図り、今後の活用方針を固めるため。


 今日のスケジュールは転移前に、長光から周知があった。


 最初は、3階で青侍達の実力を確認。


 次は、5階で青侍達との連携を模索しつつ、ボス戦に向けて肩慣らし。


 最後に、ボスに挑む。


 ボス討伐の任務では基本的に、一日の内に必ず一度はボスと戦うことが義務付けられてるとのこと。


 もしボス戦を翌週に先送りしたい場合は、雇用主の法龍院蛟牙に許可をもらう必要があるらしい。


 残念な事に今日は討伐任務初日のため、ボス戦を回避するための材料がないので、最後の最後にボス戦が組み込まれてる。


 青侍達の転移も問題なさそうだ。


 その手には、亜由美と同系統の刃機を携えてる。


 長光が出入口の前に立つ。


「手筈通り、僕が指示を出すまで、青侍達に何があってもサムライ衆は加勢しないこと。――いいね?」


「了解、そうちゃん」


「ああ」


 日下部、荒川がそれぞれ返答した後、「わかりました」と秀矢は答えた。


「そういえば、空閑さんの事で一つ、面白い機能が実装されたんだ」


《面白い機能って、何ですか?》


「リミッターが解除された時にしか使えないだけど――」


 長光の右手が何かを操作する所作をする。


「時田くん。君から見て、右に向いてごらん」


「はぁ……」


 秀矢は言われた通りに右側に目を向けた。


 その瞬間、心臓が飛び跳ねた。


 何故なら、原寸大の亜由美の姿がそこにあったからだ。


 あまりの衝撃に思考が固まる。


「あみちゃん……よね」


「とうとう化けて出てきたか。気配ねえし」


《ん? どういうこと? 私は今、秀矢の刃機の中にいるはずだけど》


 何故か当事者である亜由美は、事態が飲み込めて無いようだ。


「無論、空閑さんは今でも亡くなったままだ。だから今、君達の右側にいる生前の姿そのままの空閑さんはあくまで3Dモデルだよ」


 秀矢は試しに、亜由美の肩の部分に手を伸ばした。


 指が亜由美の肩にスッと入る。


 長光の言う通り、高精細の3Dモデルのようだ。


「法龍院家のソフトウェア開発部が用意してくれたんだ」


「でも長光さん、映像を出力するデバイスが無いのに一体どうやって?」


「仕組みはそんなに複雑な物じゃない。ナビゲーターウィンドウの応用だよ。時田くんのスマホを中心に、空閑さんのモデルデータと座標位置をみんなのスマホに共有。そして、空閑さんの座標位置と視野がかぶった時、ナノマシンを経由して空閑さんの姿がみんなの目に映るんだ」


 ――リミッターが解除された時にしか使えない。


 おそらく映像投影の仕組みは、ダンジョン内で解禁されるステータスやチャットの表示する技術。


 かつて風呂場でやったスマホから映像を出力してるのではなく、スマホにあるデータを体内のナノマシンを通じて見せる映像。


 VRゴーグルが頭に直接埋め込まれてるイメージだ。


「は、はぁ……とりあえず通常時には使えないことだけは理解しました。しかし、何故そんな機能を?」


「お館様からの報酬と見ていいかもね。僕だって、さっき青侍の指揮権と一緒にマニュアルを受け取ったばかりで、作った意図まではわからないよ」


「まあ俺としては、独り言に見られないという点だけでも助かりますが……」


《見て見て~みんな~、移動できるよ~》


 アバター亜由美がぱたぱたと走り回ってる。


《体を動かす、というよりゲームキャラを操作する感覚ね》


「本体は、俺のスマホにあるからな」


 アバター亜由美が無造作に動かす手が、秀矢の体を触れては通り抜ける。


「すげえな空閑。ますます幽霊に磨きがかかってんぞ」


「いつか、あみちゃんに憑りつかれそう……」


《二人とも酷くない!? そりゃまあ死んじゃってるのは間違いないけどさ……》


(しかし、本当に目の前にアイがいるみたいだ)


《これで、秀矢と一つになれるわ》


「え!? 亜由美! 何を言い出すんだ!?」


「時田の背中から腕が二本、生えてんぞ」


 現状を把握するため、自分の体に目を向ける。


 背中は見えないけど、前面はところどころ体の内側から変なパーツが飛び出してる。


 どうやら文字通り、アバター亜由美と一体化してるようだ。


(ゲームのバグみたいだなっ――!?)


 秀矢が悠長に考えてると突然、腕が強い力に引っ張られた。


 背中から倒れそうになるも、柔らかくて暖かいものに支えられたおかげで無事にすんだ。


 目の前にはアバター亜由美が立っている。


「師匠を化け物にしないで!」


 側頭部から日下部の声がする。


(それじゃ、この感触は――)


 その正体を察した秀矢は、視線をアバター亜由美に固定した。


《奈央姉!? 生きてるからって、やっていいことと悪いことがあるわよ!》


「あみちゃんが気色悪いことするからでしょ!」


《何ですって!?》


 亜由美と日下部の視線が交差し、火花を散らしてる。


「リーダー。探索中はいいけどよ、戦闘中に空閑がうろちょろしてたら、鬱陶しいんだが――」


「そこは心配無用だ。空閑さんの表示方法については、オンオフの切り替えができるよ。今回は僕の権限で、全員の表示モードを一斉にオンにしただけ」


「どうやるんだ?」


「画面にうつってるコマンドでもいいし、右コメカミを2回タップすれば、前回のナビゲーターに切り替わる。」


 荒川は右コメカミを指で2回叩いた。


「ほんとだ。表示が前と同じになった。これなら戦闘の邪魔になることは無さそうだ」


「後は、時田くんのスマホと距離が離れると通信が切れるからね」


「わかった。――にしても、どんな表示でも、空閑のやかましさは変わらねえな」


 荒川は右コメカミを叩きながら言った。


「はは。――でも任務の時、スマホは刃機にセットしてるからね。データとはいえ、本人の体が視認できるのは良い事だと思うよ。空閑さん、あんなに楽しそうじゃないか」


「ちげえねえ」

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