第55話 ボス戦のセオリー
秀矢たちは今、ダンジョンに入ってすぐのベースキャンプにいる。
青侍たちを含む各人は刃機を携え、ダンジョン探索の準備を終えたところだ。
心なしか長光、日下部、荒川の表情が硬い。
番人討伐――ボス戦のせいで緊張してるのだろう。
秀矢は緊張を少しでもほぐすため、長光に声をかけた。
「長光さん、この前とは違う兵装になってますね」
「うん。今日のは、近接戦闘に寄せたタイプなんだ」
現在、長光が装着してるサイコアームズは、さしずめ2本の巨腕。
だらりとぶら下がる腕は、丸太のように太く、その長さは膝の辺りまである。
伸びた指先は地面に擦れそうだ。
左前腕部の外側には、盾と言わんばかりの分厚い装甲が張り付いてる。
あんなので殴られたら、ひとたまりもないことは想像に難くない外観をしてる。
「これはサイコアームズG型。見た目通り、殴打と防御を得意とする反面、精密さを要求される細やかな作業や敵の拘束には不向きだ」
2本の剛腕がスムーズに動く。
サイコアームズを解説してる時の長光は、どこか楽しそうに見えた。
「その代わり、ダンジョンで発見された新種の金属――プラチナよりも重い金属で加工された巨腕なら、既知のモンスター相手なら一撃で仕留めることができるし、大抵の攻撃を防ぐことができる」
「そんな凄い武器があるなら、最初から使ってくださいよ」
「重量は燃料の消耗に直結するからね。それに、重すぎるから取り回しが悪い」
「……何で、そんなものを――」
「こいつの真価は、防御で発揮する」
「防御ですか……こんなオーバーなもの引っ提げてくるくらいだし、何かいい作戦でもあるんですか?」
「ないよ」
長光は落ち着いた口調で即答した。
何か言い返そうと思ったが、他二人が異を唱える様子がないので止めた。
《秀矢。ボス戦はね、セオリーがあるのよ。ほら、じっちゃんがさ『今日中に倒せ、と言ってるわけではない』って言ってたでしょ?》
「後、『第5階層の時と同じように』とも言ってな」
《うん。だからね、最初は探りを入れるの》
「探り?」
《普通のゲームだと、ボス戦で逃げることはできないでしょ? でも、私たちの任務はゲームじゃない。それはつまり、ボス戦から撤退してもオッケーってことなの》
「つまり、戦ってみて、やばくなったら逃走を繰り返して、経験と情報を集めるのか。でも、そんな簡単に逃げられるのか……」
亜由美が嘘を言ってるようには聞こえないが、これまで倒してきた数々の敵が、敵である自分達を見逃してくれるとは思えなかった。
「大丈夫だよ、時田くん。お館様が『番人』と呼んでる理由は、正にそこなんだ」
番人という言葉の意味について、検索した。
見張りをする人。番をする人。――別の言葉に置き換えると、門番。
《何で、私に聞かないのよ》
「辞書を開くだけなら、脳波の方が早いから、つい――」
《ぶーぶー》
「長光さん、番人――つまりボスは、階段の前で陣取ってて、そこから動かないってことですか?」
「そうだよ。だから、距離を置くと、ボスはこちらに手を出さなくなる。後、普通のモンスターみたいに、フロアを徘徊しないから、別の敵と戦ってる時に増援で来ることもない。番人という仕事への責任感が強いんだろうね」
(逃走可能で、階段の前を動かない……か)
秀矢の頭には今、2つの関心事がある。
1つは、ボスを無視して、先に進む事が可能なのか。
もう1つは、フローラと名乗ったエルフのこと。
1階の出入口に陣取られたベースキャンプに、フローラの入出記録は、無い。
地上に出るのも、地上からダンジョンに潜るのも、ここのベースキャンプを避けて通ることは不可能。
それはつまり、フローラは下の階から1階まで上ってきたことになる。
この仮説を正とするなら、フローラは一人で、どうやって1階まで来たのか?
1階の戦闘記録を見る限りでは、戦闘能力はサムライ衆より数段劣る。
戦闘が得意でないなら、残された選択肢はただ一つ……モンスターとの戦いを回避した、ということだ。
(ボス討伐に、時間を取られるようなら――)
「時田くん、妙な気を起こさないようにね」
長光が釘を刺すような強めの口調で言った。
「くっ……これだから超能力者は――」
《いや、もろ顔に出てたわよ。いかにも悪いことを考えてる、にやけ顔》




