第54話 第6階層ボス討伐指令
聞き覚えのある声だった。
そこには秀矢の刃機を運んだ、侍女のお仕着せをまとう女性がいた。
側らには、以前と同様、ジュラルミンケースが置いてある。
「相変わらず仕事熱心だねぇ、明美は――」
「職務ですので」
侍女のお仕着せをまとう女性――明美は、以前と寸分たがわぬ所作で巨大なジュラルミンケースを持ち上げてから、敷居を跨いだ。
そして、青侍たちに近づくと、ジュラルミンケースを畳の上に置いた。
「ご要望のものとなります」と言いながら明美はケースを開けた。
ケースの中には、亜由美と同系統の銃型刃機が三つ入ってる。
青侍たちは微動だにしない。
刃機が側にあることを認識してないのだろうか。
明美は、ケースの中の刃機を一つずつ取り出し、畳の上に置いた。
すると、三つの刃機が取り出されたケースの中に、黒い板状のものが見えた。
黒い縁にマットな質感のパネル――モニターみたいだ。
「悪いね、遊んでる時に」
「構いません、久理田様。ご用命の時は、いつでも遠慮なく、お申し付けください」
明美は淀みない所作でジュラルミンケースを閉じると、そそくさと部屋を出て行った。
心なしか、足運びに落ち着きがないように見えた。
《へぇ、私と同じ刃機だ》
亜由美が声を上げると、久理田が口を開く。
「今回の青侍は、空閑の代役だからね」
《それなら、私に操作させてくださいよ~。青侍にもスマホあるんでしょ? 私に権限くれれば――》
「それはダメだ。君は、底辺ストリーマーとコラボした方が戦力の強化になる。アイボーになった君なら、わかるだろ?」
《……仕方ないか。それに、私と秀矢が組めば、向かうところ敵なしだからね》
「だから青侍の指揮権は、超能力少年にしてる。せいぜい有効活用するんだな」
久理田は、身を反転させると、広大な和室を後にした。
そして、タイミングを見計らうように、蛟牙がやってきた。
蛟牙はサムライ達を一瞥してから、上段に腰を下ろす。
足を崩した姿勢にも関わらず、射竦めるような眼光と高齢を感じさせない体躯に、畏怖の念を抱く。
秀矢たちは、蛟牙の近くに移動した。
「日下部、腕の調子はどうだ?」
「この通り、完治しました。任務に支障は無いかと」
蛟牙の問いに、日下部は両腕を軽く振りながら答えた。
「そいつは、よかった。ここでの生活は快適だったか?」
「はい。おかげさまで、両腕が無くても不自由しませんでした。ただ、明美さんに、多大なご迷惑をおかけしたことが心苦しい限りですが――」
「はっはっは、日下部が気にすることではない。ここでの生活の全てを面倒見るのが明美の仕事。重症を負ったサムライは、怪我を治すのが仕事。二人とも、己の職務を真っ当しただけにすぎん。――お前達も、屋敷にいる時に困り事があったら、アプリもしくはアイボーから遠慮なく明美に申し付けな。24時間365日、年中無休、1杯の水から受け付けておる」
(うーん、あの人にか……)
再び、廊下で耳にした怨嗟が再生される。
「さて、サムライ衆の諸君。今回の任務は、第6層の番人討伐。手段は、リーダーに一任。以上だ」
蛟牙の口から任務の内容が告げられた。
番人討伐――秀矢が言葉の意味を察すると同時に、長光の顔が険しくなる。
「お館様……僭越ながら申し上げます。今、ボスに挑むには、時期尚早かと思われますが――」
「時田は既に、例年の新人を遥かに凌ぐ力を有しておることは、貴様も承知だろう。この通り、青侍も用意した。何より第6層は、既に開拓が済んでおる。つまり、新人育成を終えた今、優先事項は番人討伐しかないのだ」
「……わかりました」
「そんな顔をするな。何も『今日中に倒せ』と言ってるわけではない。第5階層の時と同じように当たってくれればいい」
「それを聞いて、安心しました」
「――にしても、わしはそんなに信用がないか? 2年も一緒に仕事したというのに――」
「申し訳ありません。ここ最近、立て続けに想定外の事態に見舞われてるため、ナーバスになってるみたいです」
「そうか。まあ、人の上に立つと気疲れするものよ。やり方は貴様に一任する。期限は、今はあえて設けない。――話は、以上だ。諸君らの武運を祈る」




