第53話 ブレイクスルー
サムライ衆の間に漂う、どんよりした空気を他所に、久理田は己の成果を自慢するかのように、したり顔で胸を張る。
「スマートロイドの最大の利点は、何と言っても動力源だ。人間のようなロボット――つまりアンドロイドを人間と同様に動かそうとした場合、機構もさることながら動力源が最大のネックになる。漫画のように核融合炉があればいいんだが、残念なことに法龍院家の工学技術班でも頭を抱えてる難題。メンテナンス等のランニングコストは、金と人で解決できるが、バッテリーはそうはいかない。バッテリーの小型化は活動時間が犠牲となり、巨大化は動作に深刻な影響が出る。――しかし、動力源を人体とアイボーに切り離すことで、ブレイクスルーを起こした。何故なら、人体の維持は適量の栄養素で十分だし、ナノマシンを操作するためのバッテリーはスマホの稼働に必要な電圧と容量で事足りる。――正に、人間とロボットの良いとこ取りだ。医療にも役に立つしな」
サムライ衆を取り巻く、薄暗い空気を察したのか『パン、パン』と手を叩いた。
静けさに満ちた広大な和室に、乾いた音が駆け抜ける。
音の衝撃で雰囲気が一変したためか、サムライ衆の視線が久理田に集まる。
「そんなわけで、お前達。安心して、怪我をしてこい。うちの医療技術なら死ななきゃ大抵、治せる。四肢欠損は言わずもがな、失明も脊髄損傷も脳機能障害も、な。おまけに超高性能で体内に収まる人工心臓もあるしな。だから――」
久理田から嫌らしい視線を感じる。
「陰部がちょん切れた時は、ちゃーんと移植してやるから、安心して任務に当たりな。底辺ストリーマー」
「な!? 何、言ってんですか!?」
「んふふ、何ならオプションもつけてやろうか? 長さとか、太さとか……もしくは、一つ上の男になりたいとか? 年頃の男子なら気になるだろう? ああん?」
「結構です!」
《そうです! 秀矢には、オプションは要りません。今のままでも十分です!》
亜由美の一言が好奇の眼差しを引き寄せる。
これまでの会話の流れで、亜由美の言葉がもたらす事態を想像できた秀矢は、恐る恐る三人のサムライの様子をうかがう。
三人の温度差はあれど、いずれも嫌悪、冷淡、邪険に属する目つきをしてる。
長光は、秀矢の視線に気づいたのか、知らぬ存ぜぬと言わんばかりに目蓋を閉ざした。
「あみちゃん、何でそんなこと知ってるの?」
《はは~ん》
秀矢は、自分のスマホに目を向けた。
日下部の問いに対し、亜由美は邪悪な笑みを浮かべた。
次の瞬間、日下部は『語るに落ちた』と察したのか、顔が青くなった。
《奈央姉。その言葉、そっくりそのままお返しするわ》
「あ、あはははは……」
《いやあ実は私、何となく、で秀矢に同調しちゃったから、話が良く見えてないんですよね~。ほら~、女の子にはよくあるじゃないですか、その場のノリ? みたいな~》
「そ、そうね……」
《だからあ、是非とも教えていただけませんかね~? 話の中身を》
「えっと、それは……私の答えがあってるとは限らないし――」
《何をおっしゃいますか~、私みたいな勉強が苦手で通信制に行くような落ちこぼれよりも、国内有数の進学校に通う奈央姉の答えの方が、みんな納得しますよ~》
「――!?」
日下部は、身を翻すと、そのままうずくまった。
頑として黙秘を貫くようだ。
(サクナって、その手の話は、苦手なのか)
《私には、神イベントで撮影した画像があるからね。もう、お宝よ、オ・タ・カ・ラ。秀矢のあんなところがクッキリハッキリ高画質高解像度で写ってるのよ。うらやましいでしょ? 欲しい?》
「……」
《ほほう、本能と理性の間でスケベ心が揺れてますなぁ》
「待て、亜由美! あの画像は削除したはずだぞ!?」
《私の手にかかれば復元できるに決まってるでしょ》
「お宝、画像……」
《まあ、あげるわけ無いけどね。拡散されたくないし》
(それは俺のセリフだ!)
日下部は、残念なのか安堵なのか、判別つかない微妙な表情を浮かべる。
秀矢は二人の様子を眺めてると突然、肩をポンと叩かれた。
荒川だった。
「ま、まあ……俺は、お前が良い奴なのは、わかってるからさ」
「なら、俺の目を見て、言ってくれませんか? 荒川さん」
顔はこちらを向いてるのに、視線は端に寄ってる。
片方だけ不自然に吊り上がった口角は、落胆してる事を如実に物語ってる。
「どんな趣味や趣向があっても、俺は見捨てないからな!」
「そういう気を使ってる感を出されるのが一番心にくるんですよ!」
「はっはっはっ」と大袈裟な愛想笑いをしながら、誤魔化す様に肩を叩くと、足早に離れていった。
「うーん、若いって素晴らしいね」
久理田は呑気に傍観者を決め込んでるようだ。
サムライ達は、様々な感情にがんじがらめにされたのか、殻に閉じこもってる様子。
もどかしい空気が漂う中、ふすまを勢いよく開ける音が鳴る。
「久理田様、お待たせしました」




