第52話 青侍(あおし)
「返すよ。底辺ストリーマー」
久理田がスマホを差し出してきた。
画面には、亜由美が映ってる。
秀矢はスマホを受け取ると、亜由美の様子をうかがった。
「亜由美、大丈夫か? 何か、されなかったか?」
《うん。ジロジロ見られたけど、それだけ。一人で考えて悩んで、勝手に納得してた。ある意味、不気味だったわ》
「そうか。無事なら、よかったよ」
「ご苦労だったな、超能力少年。ここからは、私が自己紹介も兼ねて、法龍院家のクローンの何たるかをお前達に指南してやるよ」
その場にいるサムライ達の視線が久理田に集まる。
「私の名前は、久理田凛。クローン技術の第一人者で、法龍院家お抱えの一研究員だ。ちなみに生物学と遺伝学を修めてる。……あ、私の研究分野については、くれぐれも口外禁止な。日本は、クローン技術を法律で禁止されてるからさ」
誰一人として、久理田に口を挟む様子がない。
「クローン技術、と言っても、悲しいかな……未だに、肝心の魂がクローニングできないんだ。――実際にうちのクローン人間は、脳みそ、神経、脈拍に異常はない。新陳代謝もするし成長ホルモンは基準値を維持してる。――にも関わらず、クローン人間は、魂が――自我がないから意志表示ができない。自らの意思で声を上げることも、能動的に手足を動かすことも、何等かの刺激に対する反応もできない。――だから当初の目的である、怪異空間の対処に当たる人材確保が頓挫しかけた。まあ、それでも医療分野には使い道があったから、決して無駄ではないんだけどね」
医療分野――何となく、日下部の方を見やる。
「いい例が、そこのドスケベボディの腕の治療だな」
久理田の視線が日下部に向く。
日下部は「ドスケベ!?」と驚愕すると、顔が真っ赤になった。
「実際はクローン技術だけでなく、iPS細胞に法龍院家の医療技術その他もろもろある。普通の医療じゃ、1週間で完治は不可能だからな。しかし、ここなら出来る。現に去年……そこの……空手バカの腕も移植したからな。――あの時は、大変だったなぁ。サムライの年間活動が前期育成、後期攻略になってるのはな、前期の半年の内に、本人のクローンをお前達の年齢まで育成する時間も含まれてるんだ。――にも関わらず、4月の内にドジ踏みやがって。お前に適合するスマートロイドを見つけるの、苦労したんだぞ」
久理田の視線が荒川に向く。
荒川は申し訳なさそうに「すんません」と小さな声で言った。
(前期育成、後期攻略か)
この言葉は、マニュアルで見覚えがあった。
あくまで言葉通りの意味で、前期の4月から9月にかけてパーティメンバーの戦力増強に費やし、後期の10月から翌年の2月の間に未踏エリアの探索に挑む。
尚、3月はまるまる1か月休暇となる。
理由は、3年目の方の新生活準備期間にあてるためだ。
だからサムライの任期は3年と言いつつ、実質2年11か月が正確な任期となる。
「おっと、話が反れたな。まあ、そんなこんなで、プロジェクトの継続が危ぶまれたクローンの研究は、ある技術の完成により、思わぬ展開を迎えた。それは工学技術班が生み出した、人体の強化ならびに戦闘のアシストが主体のスマートナノテクノロジーと人工知能さ。サムライ衆のお前達には、お馴染みのナノマシンとアイボーだな。――で、そいつを物言わぬクローン人間用にチューニングし、専用のウェアラブルデバイス――この全身ぴっちりスーツと厳ついマスクも合わせて運用してるのが、超能力少年が言ったスマートロイド。その中から戦闘に特化したAIを有するスマートロイドが私の後ろにいる青侍ということさ」
話し終えてスッキリしたのか、久理田は晴れやかな表情を浮かべてる。
対して、長光、日下部、荒川の三人は、やや伏し目がちになってる。
タブーに対して、それぞれ何か思うところがあるのだろう。
それは秀矢も例外ではない。
何とも言い難い、腹の中のわだかまりをうまく処理できず困惑していた。




