第51話 クローン
想定外の来訪者の登場で、場の空気が一変する。
4人は、秀矢たちの側まで来た。
先頭にいる女性は、近寄りがたい暗いオーラをまとってる。
目についたのは、パリっとした白衣にスラックス。猫背で目尻が切れ上がった三白眼。背丈は、秀矢よりも一回り小さい。
黒い髪は、アップで雑にまとめており、薄い唇に薄いほうれい線、首元には張りが見られない。
姿勢と目つきが悪いため、威圧めいた近寄りがたい雰囲気を漂わせてる。
その後ろにいる三人の人間らしき――というのも、そもそも顔が溶接マスクを彷彿とさせる、黒い鉄板で覆われてるため表情が見えないのだ。
そして首から下は、ウェットスーツのような体のラインがくっきりと浮かび上がる装いを身に着けてる。
肩幅は狭く、胸部から大腿部にかける流線的なフォルムが女性であることを示してる。
白衣の女性とサムライ達が向き合う形となる。
「久理田さん、やっとですか」
長光が切り出す。
白衣の女性と面識があるようだ。
「そういうな、超能力少年。これでもクソジジイのプランと青侍の調整に手間取ったんだよ」
白衣の女性――久理田は、けだる気に言った。
《へえ、これが青侍かぁ。話には聞いたことがあったけど……》
亜由美が言うと、久理田が目を見開いた。
「おお、どこからともなく空閑の声がしたぞ。これかぁ、クソジジイが言ってたのは……えっと、君は――」
「時田秀矢です」
久理田から人差し指を突きつけられたので、自分の名前を告げた。
「そう! 底辺ストリーマー! 彼女は、君のスマホにいるんだろ? 後学のために、ちょっと見せてくれないか?」
コンプレックスを無遠慮に刺激されショックを受ける。
しかし、相手の事をよく知りもしない内に角を立てたくない、という想いから、何も言わずにスマホを差し出した。
「へえ、本当に空閑が映ってるなぁ。クソジジイが言ってた通りだ」
久理田は、しげしげと秀矢のスマホを眺めてる。
「リーダー。青侍ってのは、何なんだ? 俺達と何か違うのか?」
「そっか、荒川くんは初めてか。確かに、去年は殉職者が出なかったから、見る機会はなかったね。僕もある程度は知ってるけど――せっかくだし、生みの親である久理田さんに、ご教授を――」
「あー、今はそういうのパス。私は、空閑の様子を観察するのに忙しいんだ。超能力少年に任せるよ。講釈垂れるの、好きそうな顔してるし」
久理田はスマホを直視したまま言った。
長光の顔が引きつる。
直後、取り繕うように、咳払いをした。
「それじゃ、僕がわかる範囲で説明するよ。青侍……字は、青い侍と書いて、そう読む。本来は『あおさむらい』が正しいルビだけど、読みづらいという理由で、法龍院家では青侍と呼んでる。侍という字がある通り、僕たちと同様、戦闘能力を有しており、専用の刃機もある。普段は、兵站の確保と資源の回収がメイン。――僕たちサムライが開拓したルートを元にベースキャンプの設営、メンテナンス、サムライの活動に必要な各種備品に食料と水の補充、鉱脈の採掘等を土曜日以外で活動してる。そして、殉職者が出た時のための予備戦力でもある」
「そうなのか」
荒川は、青侍たちの前に移動した。
「俺の名前は、荒川大樹だ。今後ともよろしくな」
三人の青侍たちは微動だにしない。
顔は、黒い鉄板で隠れてるせいか、表情も読み取れない。
「リーダー。こいつら一体、何なんだ? 無視されてるってより、人間って感じがしねえぞ」
「だろうね。人間って感じがしない――その言葉は、的を射てるよ」
「それは、どういう意味だ?」
「青侍は、姿形は人間だけど、僕たちと違って自我を持ってない」
「ん? 自我はないって? でも、こいつら、自分の足でこの部屋に入ってきたぜ?」
「青侍たちは、自我の代わりに、アイボーが人体を操作してるからさ。例のナノマシンとスマホでね。――ちなみに法龍院家では、青侍のように、AIが操作する人体の事をスマートロイドと呼ぶらしい」
荒川の顔が少し青くなる。
「何で、こいつらは、自我が無いんだ?」
「法龍院家が造った、クローン人間だからさ」
「クローン!? そんなのSF映画の話とかだろ!?」
「1年以上在籍してるのに今更、何を驚く事があるんだい?」
「そりゃあ、まあ……でも、人間のコピーってなると、なぁ……時田」
同意を求めるかのように、荒川が話しかけてきた。
秀矢は『クローン』という言葉を聞いて、少しだけ動揺した。




