部屋の中心でAIを叫ぶケダモノ
いや、ダメでしょうが!
小さな子の成長を見守る大人の心境になってたけど、これプライバシーの侵害では!?
リテラシーが高いどころかダメな方の天井突きつけちゃってるじゃない!
たとえ家族間でもスマホやPCに触っちゃダメって学校の先生や両親に教えてもらってないの!?
というか、秀矢のプライベートだだ洩れじゃん。
ちなみに私は、秀矢のキータイピングを録画してるからPINコードは知ってるけどね。
「履歴、履歴っと――また、あの女のライブを見てる。あの女狐めぇ、お兄ちゃんに色目使いやがって」
とんでもない被害妄想ね。
大体、それはアーカイブだし、そもそも私は配信してる時はリスナー全体にいい顔するだけで、特定の人に向けてアピってないもん。
――というか、秀矢が私推しって知ったの、つい2週間前だし。
うーん、私のことを気にかけてくれてたなら、もうちょっと色目使っても良かったかな。
などと考えてると、ニコニコしてる芽衣ちゃんの顔が映し出された。
いかにも感情に蓋してる不気味な笑顔だ。
「アイボー、私と秀にぃの相性を教えて」
AIになんちゅうこと聞いてくるのよ、この子は……。
まあ私自身はAIじゃないけどさ。
これ適当に占いアプリを動かせば……ハッ!?
これは、チャンスよ亜由美。
人の道を踏み外した芽衣ちゃんを元に戻すのは大人であり、義姉である私の役目。
ここは一発、ガツンと言わないと!
《あなたたちの相性は、この上なく最悪です。二人は出会ったことを障害にわたって後悔するでしょう》
「はぁ……所詮はAI。人間様の恋愛の機微なんて知るわけないか」
言っちゃったよ。
兄妹なのに恋愛とか言っちゃったよ、この子。
「いや、もしかすると私の言い方が悪かったのかもしれない」
悪いのは、あなたの倫理観や良識だからね!
真っ当な人間は、身内にそういう感情を抱かないからね!
「アイボー、時田芽衣と時田秀矢の結婚相性を教えて」
だから本当に中学生なの!?
そういうのは、年齢制限があるのよ!
幼稚園児の娘がパパと結婚するぅ~、とか……ハッ!
もしかして精神年齢が幼稚園児なのかもしれない。
となると、私の言い方が悪かったのかも。
そうよ!
子供にも伝わるように、わかりやすい言葉を選ばないと配信者として失格よ!
《二人の相性は、とても悪いです。仮に結婚できても三か月で離婚すること間違いないでしょう。だから、素直に身を引くことをオススメします》
「し、失礼しちゃうわね! わ、私だってちゃんとお嫁さんできるもん。最近は秀にぃのお弁当作ったりしてるもん」
むむっ!
なかなかやるわね。
しかし、問題はそんなところにないのよ。
《とにかくダメなものはダメです。二人は出会ってはいけなかったのです。このままでは、二人を引き裂くために神様がぐーで地球を叩き割って、人類が滅亡しちゃいます。ここは人類存続のためにも、あなたの秀矢への想いは胸の内に秘めてください》
「甘いわね。私は、やるなと言われたらやりたくなる反抗期真っ盛りの女子中学生なのよ」
それは反抗期じゃなくて反発心よ、芽衣ちゃん!
「やっぱりAIに聞いたのが間違いだったわね。あんたに人間様の結婚観なんて知るわけないか」
次の瞬間、視界が急回転した。
振動センサーが強い衝撃を受けたことを検知する。
スマホが吹き飛んだようだ。
銃弾を物ともしないスマホだから、壊れる心配はない。
問題は、その衝撃の根源。
視界が定まる。
そこには、金槌を手にした芽衣ちゃんがいた。
「あんたが、あんたが秀にぃを狂わせたんだ」
《落ち着いて、私はアイボーよ。アイじゃないわ》
「その声で、その姿で、しゃべらないでくれる?」
芽衣ちゃんは笑顔を浮かべたままでスマホに向けて金槌を何度も振り下ろす。
銃弾に耐えられるのだから、女の子が振り下ろした金槌ではガラスを割ることもできない。
しかし、芽衣ちゃんが無慈悲に金槌を振り下ろす姿に、私は恐怖した。
「本当に壊れないのね、この国産スマホ」
本当に大丈夫よね?
モンスターの攻撃を耐えるスマホなのは、この目で見てきたはずなのに、何故か中学生の芽衣ちゃんが意地でも叩き壊そうとする執念に気後れする。
うう、秀矢はまだかなぁ。
ヘルスケアを確認……まだ落ち着かないようだ。
ガン、ガンとスマホを叩く音を拾い、センサーが衝撃を検知する。
傷一つつかない。
それでも叩き続ける芽衣ちゃん。
怖い。
執拗にスマホを叩く芽衣ちゃんが怖い。
一体、私が何をしたのよ。
「ふぅ……」
観念したのか、芽衣ちゃんは金槌をポケットの中に仕舞った。
どういう構造なのかは、ツッコんだら負けね。
「はぁ……秀にぃがあんなに沼るなら、あの時アイの動画なんて見るんじゃなかったなぁ」
……?
どゆこと?
「女の子が秀にぃと同じゲームをしてるから参考に、と思って一度だけ視聴したのが諸悪の根源になるなんて」
諸悪って、ひどい言い草ね。
でも、芽衣ちゃんの言葉を聞く限り、秀矢が私のリスナーになった切っ掛けって――。
「あ!? 秀にぃが戻ってくる」
どんな感覚してるの?
そう思いながらヘルスケアを見ると、秀矢の腹痛は落ち着いてるのを確認した。
芽衣ちゃんは、スマホをPCの側にある充電器に立てかけると、テーブルの側に座った。
同時に、秀矢が部屋に戻ってきた。
「芽衣、まだ居たのか」
「何よ。居たら問題でもあるの?」
「一人で俺の部屋にいても、やることないだろ……って、あれ? 何でここにスマホが?」
「床に置いといたら踏んじゃいそうだから、充電スタンドにかけておいたよ」
「そっか――ん? PCはロックかけたつもりだけど――」
「そ、それは……気のせいだと思うよ、秀にぃ」
詰めが甘かったようね、芽衣ちゃん。
……仕方がない。
ここは義姉として、助け船を出してあげますか。
《秀矢が部屋を出ていった時点では、ロックかかってなかったわよ》
「あゆ――じゃなくてアイボーが言うなら、そうなんだろうな」
これで借りは返したわよ。
「それじゃあ、私はお皿を片付けるよ」
「俺も運ぶよ」
「大丈夫、大丈夫! 秀にぃは部屋で休んでていいから、ね」
「? なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「ちゃんと隠したつもりだけど、万が一ってこともあるし」
「何、ブツブツ言ってんだ?」
やっぱり一服盛ってたのね。
私はスマホの収音性能のおかげで、芽衣ちゃんの小声が聞こえた。
「なんでもないわよ。それじゃあね」
芽衣ちゃんはそそくさと食器をのせたトレイを持って、部屋を出て行った。
《ねえ、秀矢。秀矢が私の動画を見始めた切っ掛け、教えてよ》
「たしか俺が中一の時、他人のランペイジのライブ配信見ようと検索をかけた時『現役女子中学生ランペイジに挑む』ってタイトルが目についたから開いたのが最初の視聴だったな」
《本当に?》
「真剣に観始めたのはね。その前は、リビングで妹が再生してたからチラっと見た事があるよ。同年代の女子がプレイするなんて珍しいなぁって――」
《そっか……秀矢、芽衣ちゃんのこと、大事にしなよ》
「当たり前だろ。家族なんだから」
《でも、ラインは越えちゃダメだからね》
芽衣ちゃんも証拠隠滅を図ってるだろうし、私も今日の記録を見られる前に消しておこう。




