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部屋の中心で愛を叫ぶケダモノ

《役得、役得。間近で見る秀矢のプレイは、シビれるわね》


「お褒めにあずかり光栄です」


 今日は2度目の任務が終わった翌日の日曜日の昼過ぎ。


 私は今、推しの部屋で推しがプレイするゲームを推しの隣で視聴してる。


 ゲームはランペイジ。


 操作キャラはセンゴク。


 近接メインだけど中距離もソコソコのキャラクター。


 今日は野良で潜っており、勝率は大体1割。


 トップになれない試合でも、安定して上位4チームには食い込んでるから、バトロワ系での急増チームなら上々ね。


 秀矢は敵チームを倒しては、素早く戦利品を取捨選択。


 そして次の戦いに向けて、黙々と索敵とアイテム収集にはげむ。


 倒すべきチームは残り3。


 フィールドは大分、狭まってるから、このままだと混戦になるのは時間の問題ね。


 以前からコラボしてて思ってたけど、オフでも寡黙なのね。


 ……でも、キリっとしてて良いわね。


 鋭い眼光に引き締まった顔つき。


 真一文字のように見えて、わずかに上がった口角。


 いかなる状況においても表情を崩さず、淡々と敵を倒し続ける姿はクールでカッコいい。


 はぁぁ。


 今、心臓があったら、もたないわね。


 普段の格好でもこんな感じなのに、イベントの姿になっちゃったら私、成仏してもいいわ。


 こんな間近で秀矢のご尊顔を拝めるなんて……死んだ甲斐があったわね。


 だけど唯一にして不便なのは、体が不自由なこと。


 ネットやアプリ、AIなどソフトウェアの使用は問題ないけど、物理的に本体を動かすことだけはできない。


 ちなみにネット対戦ゲームは、秒でチート検出ツールに引っかかるため、できない。


 私をチート扱いするなんて失礼しちゃうわ。


 ……スマホに魂が憑りついてる時点である意味でチートか。


 まあランペイジは、スマホとPCのクロスプレイ非対応なので、仮にチート対策が無くても無理だけどね。


 そんなんだから今の私は、ゲームの画面と秀矢をカメラの画角におさめるため、モニターの正面に対して斜め後ろ45度傾けた状態で机の上に置いてもらってる。


 くぅ~、こんな体(スマホ)じゃなければ今すぐ協力プレイしたいのに~。


 などと考えてる内にモニターには、チャンピオンの文字が映し出される。


 どうやら秀矢のチームが勝ったようだ。


《さっすがー。最上位帯の野良でも安定した戦いぶりね。オフなのが勿体ないくらいよ》


「まあね。これだけが取り柄だからな」


《またまたー。ゲームじゃない本当の実戦もスゴイじゃん――って、どうしたの? 顔、青いよ》


「悪い……2週立て続けに見た衝撃映像が――」


 新人研修の通過儀礼とクローン惨殺の件ね。


 新人研修については、三木将先輩と奈央姉のどちらかが大怪我するだろうと予想してたから私は驚かなかったけど、クローンについては、さすがに動揺した。


 しかし、それも日常に戻ったおかげである程度、落ち着いた。


 私と瓜二つのクローンは、じっちゃんが作ったもの。


 正直、クローンの何たるかを検索した時、ショックは受けたのは事実だけど、今の私があるのは法龍院家のおかげなのも事実。


 特に、多大な支援金とボディガードは大変お世話になったわ。


 だから引っかかるのは、何で赤ん坊の時に施設に預けたのかくらい。


 ……改めて考えると、お金って偉大ね。


 大抵のマイナス要素を打ち消しちゃうんだから。


 うつ病への最強の処方箋と言われるのも頷けるわね。


「3時か……そろそろ一息いれるか」


 秀矢がつぶやくと同時に、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


 その後「秀にぃ、オヤツ持ってきたよー」と芽衣ちゃんの声が続く。


 秀矢はスッと立ち上がると私の視界からいなくなった。


 程なくして、ドアが開く音が鳴る。


「芽衣、丁度いいところに――」


「お邪魔するよー」


「おいおい」


「まあまあ、いいじゃない」


「仕方ないなぁ。テーブル用意するから待ってろ」


 どうやら妹さんが入室したみたいね。


 はぁ……秀矢と二人きりじゃない時は口を閉ざすように強く言われてるから、お喋りに参加できないのが辛いわね。


 テーブルを設置する音がなると、視界がひっくり返る。


 お部屋の天井が映し出される。


 どうやらスマホを床に置いたみたいね。


 その後、ガチャッ、とテーブルに食器類を置いた音が聞こえた。


 見えないのがもどかしいわ。


 いや、まあ……こんな体では飲み食いなんてできないけど、スマホを床に置かれてるから疎外感を感じるわ。


「ホットケーキか。上手く焼けてるな」


「えへへ」


「ちなみに、このコーヒーは――」


「ちゃんとカフェインレスのものを使ってるわよ」


「よろしい」


 スマホのマイクが、カチャカチャと食器がぶつかる音と微笑ましい兄妹の取り留めのない談笑を拾う。


 この兄妹、仲いいのよね。


 普通、年が近い兄妹は、つまんない事でぶつかることが多いはずなんだけど……。


 まあ数年後には、私の義妹(かぞく)になるかもしれないし、今から目くじらを立てることは無いわよね。


 うんうん。


「ご馳走様」


 秀矢が食べ終わったようだ。


 食器のぶつかる音が小さくなる。


 芽衣ちゃんがまだ食べてるようだ。


 ぼーっとしてると通知を受信した。


 どれどれ……秀矢の健康状態に異常が発生したようね。


 ヘルスケアは、リミッターがかかった状態でもリンクしてる数少ない部分。


 あー、お腹を壊したみたい。


「芽衣、悪いがトイレいってくる。食い終わったら食器を片しておけよ」


「ふぁーい」


 ドアを開け閉めする音が聞こえた。


 秀矢は部屋を出て行ったようだ。


 同時に部屋が静かになる。


 ちなみに秀矢はトイレにスマホを持ち込む習慣はない。


 正確には、スケールシリーズに機種変してから止めた。


 理由は、スマホの中に私がいるから。


 それよりも……芽衣ちゃん、食べ終わったのかな。


 そんな事を考えてると、視界がぐるんとひっくり返った。


 怪訝そうな顔をする芽衣ちゃんが映し出される。


 芽衣ちゃんがバカデカスマホを持ち上げたみたいね。


 芽衣ちゃんは、私に不審な目を向けてる。


 可愛いのに、そんな顔したら勿体ないわよ。


 ここは、アイボーらしく芽衣ちゃんと視線を合わせよう。


 私は精一杯の笑顔を浮かべて、芽衣ちゃんと目を合わせた。


「ここ数日、お母さん以外の女の気配がするのよね」


 え?


「まさか女を連れ込んでるわけない、よね? 教えなさい、アイボー。私のお兄ちゃんは、この部屋に私以外の女を連れ込みましたか?」


《しゅ、秀矢が家族以外の女性を部屋に入れたことはありません》


 私は将来、家族になるんだから間違いじゃないわ。


 でも助かった。


 音声コマンド(アイボー)を発してくれたおかげで、私がしゃべることが自然になったわ。


 でも、愛想はよくしておこう。


 未来の義姉として。


「何か妙なのよね。秀にぃがこのデカいスマホを持ち始めてから、おかしいのよ。変な事してないか調査しないとね」


 調査?


 はっ!?


 まさか、この子……秀矢に一服盛ったの!?


 急速に大腸の蠕動運動が活発になったとは思ったけど、まさか実の家族相手にそんな事、普通やる!?


 芽衣ちゃんは疑いの眼で睨みつけてくる。


 可愛らしい顔が台無しじゃない。


「重っ! 仕方ないわね。充電器にのせておこう。ここなら勝手にスマホを触れたと言われても『床に置きっぱだから充電してあげたじゃん。優しい優しい妹でしょ? お兄ちゃん』って言えるわね。うんうん」


 何で妹を強調するのよ!


 いくら兄妹仲が良くても、節度とか越えてはいけないラインというものがあるでしょうが!


 程なくして、視界には秀矢の部屋の全貌が映し出された。


 部屋に2つある充電スタンドの内、パソコンの側にあるスタンドに置いたようね。


 ちなみにもう一つはベッドの側にあるわ。


 ――っと、そのベッドに芽衣ちゃんが近寄ったわね。


 とてつもなく怪しいから念のため録画しておこう。


 ラインを越えそうなら秀矢に伝えないとね。


 これは、未来の義姉としての責務よ。


「う~ん」


 考え込むトーンで言うと、芽衣ちゃんは掛け布団をバサっとめくった。


「さすがに……いないか」


 当たり前でしょ!


 大体、掛け布団がペタンとしてるんだから、人っ子一人いないのは見ればわかるでしょうが!


「ふ~ん、スンスン……ふぅ」


 芽衣ちゃん!?


 何で、恍惚な表情を浮かべながら布団に潜り込むの!?


「ハッ!? ダメよ! こんな事してる場合じゃないわ!」


 自分自身を見つめ直す理性はあるようね。


「いくら春の陽気で布団の中が心地いいからって、オヤツを食べてすぐ寝たら太っちゃうわ。名残惜しいけど、早く起きないと」


 そうよ。


 さっさと布団から出なさい!


「3年後は一緒に寝ることになるんだし」


 ぎゃあああああああああああああああああああああああ!


 可愛い顔して、ケダモノよケダモノ!


 心ん中に秀矢を付け狙う獣を宿してるわ、この子!


「やっぱこういうのは、高校生じゃないとマズイわよね。世間体的に」


 いくつになってもマズイに決まってるでしょうが!


 何メロついてんのよ!


 あんたたちは兄妹なのよ、きょ・う・だ・い。


 ……血縁関係かどうかまでは知らないけど、この際どっちでもマズイのよ。私的には!


「今は、我慢しなきゃね」


 芽衣ちゃんは、名残惜しそうにベッドからおりた。


 私としては、そっちの方がマズイわ。


 中学生なら子猫だから微笑ましいで流せるけど、高校生は立派な猛獣。


 うかつに近寄ったら食べられちゃうわ。


「お次はっと――」


 芽衣ちゃんは椅子に座ると、おもむろにキーボードと叩いた。


 最近の若い子は、パソコン何それ? 美味しいの? って聞くけど、芽衣ちゃんは子慣れてる様子。


 情報リテラシーが高いのかしら? 小さいのに感心ね。


 ……あれ? 本当にいいのかな?


「よし、ロック解除っと――」

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