第49話 自責の念
秀矢は、法龍院家の屋敷に通じる転移装置のあるマンションに向かっていた。
しかし、その足取りは重く、意欲は喪失してる。
理由は、先週の任務で起こったサクナ――日下部奈央の両腕の欠損。
なまじ幼少期に面識がある分、その事実は重く、深く、大きなトラウマとなって良心を苛む。
先週の任務達成後、すぐ帰還した。
それから日下部は屋敷に留まることとなり、他三人は蛟牙に挨拶を済ませてから各々、帰宅した。
帰宅後から今日に至るまでの1週間。
秀矢は、沈痛な思いを抱きながら日常を過ごした。
亜由美との会話も必要最小限に止めた。
スマホでは笑顔を見せてくれたが、秀矢の心中を察するかのように亜由美から話しかけてくることはなかった。
話をすれば気が紛れたのか?
そうだとしても、俺一人だけ楽になってもいいのか?
自責の念に囚われ、日常生活ではごく当たり前の行動一つ一つに罪悪感を抱いては躊躇する。
今、秀矢を任務に向かわせてるのは『死にたくない』という思いだ。
もし欠席した場合、機密保持のため生命活動を停止することもあり得る、という一文があるためだ。
稼働日は何においても任務を第一優先とし、如何なる理由でも欠席は認められない。
こんな時でも、自分の命が惜しいのか、と自己嫌悪する。
転移装置に乗り、法龍院家の屋敷に転移した。
日下部と対面することを意識した途端、緊張で鼓動が早くなり、胃が痙攣する。
亜由美は、だんまりの様子。
部屋を出て、廊下を歩く。
「何で私の味方は、いつも弱ええんだよおおおおおお! 利敵か、こらああああああああああああ! 通報すんぞ、てめええ!」
突如、大人の女性の悲痛な叫び声が廊下に響き渡る。
続けて、ガシャン、と大きな物音が鳴った。
荘厳な屋敷に相応しくない下品な音声に一瞬、肩をすくめる。
何があったのだろうと思い、立ち止まる。
しかし、いの一番に声を上げそうな亜由美が、何も言わないことに不安を覚える。
秀矢は、不安から逃れるように、その場を後にした。
そして、広大な和室の前に着いた。
心臓の鼓動で、ふすま越しの声が聞こえなくなった時、ふすまを開けた。
ふすまは、何一つ音を立てずにすんなりと動いた。
敷居を跨ぐ前に視線を浴びる。
おそるおそる部屋の中を見渡す。
そして、目に飛び込んできた映像に心臓がもう一段、飛び跳ねた。
先ほどまでの緊張が嘘のように吹き飛び、あっさりと敷居を跨ぐ。
気が付いたら、三人のもとに居た。
「あ、あ……」
信じられない光景を前に、言葉にならない声を出した。
反対に長光、荒川、そして日下部まで、したり顔でこちらを見てる。
堪えきれなくなったのか、荒川がふきだす。
「あっはっはっ! 信じられないって顔してるな、時田」
哄笑する荒川を前に、秀矢は固まっていた。
「荒川さん、何か悪いもんでも食ったのか?」
《荒川は元々、あんな感じよ》
「そうなんだ」
「おはよう、師匠!」
日下部が元気よく両手を振って、挨拶をする。
そう――両手を振ってるのだ。
この目で確かに日下部が両腕を欠損してるのを見たはずなのに、今の彼女は両腕があるのだ。
理解が追いつかない。
夢でも見てるのか?
《あー、やっと気兼ねなくお喋りができるわ。長光先輩、説明お願いします》
厳格な教師が退室したかのような解放感全開の亜由美の声。
事態が飲み込めてない秀矢は、ただ呆然と立ち尽くしていた。




