第48話 ワンポイント・ヒーローモード
《何、言ってんの!? いや、秀矢のことを信じてないわけじゃないけど。でも、ゲージはほぼ空だし、根本的に人手が足りないのよ!》
暗闇からモンスターの群れが姿を現す。
4階に生息するモンスター達に混じって、ガーゴイルの姿が散見される。
モンスター達は、サムライ達の姿を見て警戒してるのか、敵意は向けてくるが何かを仕掛けてくる様子がない。
《なかなか動かないわね。――ったく、こいつら何しに来たのよ》
「亜由美、犯人は現場に戻るって奴だ。こいつらの中では、さっきの魔法で俺達を倒したつもりだったんだろ」
《はは~ん。それで、私たちの死体を拝みに、のこのことやってきたのね》
「――で、実際に来てみたら、俺達が生きてたもんで、驚いて足が止まったんだろうな」
モンスターの動く気配がない。このまま時間が過ぎるのを待って、三人で戦うという手も悪くない。
そう考えてた時、荒川が一歩前に出た。
「いいか? 俺は、前しか見ねえぞ」
荒川は、こちらを見ずに言うと、勢いよく敵陣に飛び込んだ。
後を追うように、秀矢も飛び出す。
基本戦術は、荒川がヘイトをコントロールし、秀矢が各個撃破する。
懸念点は日下部の戦線離脱、それに伴い長光の参戦が遅延したことによる数的不利の深刻化。
その中で唯一の救いは、この戦闘が終われば、ベースキャンプに退避できること。
被害状況を考慮すると、帰還の可能性も十分にあり得る。
つまり、この戦闘は後先を考えず、全力を出し切っても良いのだ。
秀矢は、耐久力が比較的に低いメイジ、プリースト、ワーラット辺りを優先で倒した。
次いで、ジャイアントスパイダー、オーガと的が大きく、動きが緩慢で戦いやすいモンスターを狙った。
近接戦闘が強いナイトと耐久力が高いガーゴイルは先送りにする。
《秀矢の狙いは、わかったけど……やっぱり、あれくらいじゃゲージは稼げないわ》
亜由美のいう通り、秀矢はゲージの回収に注力した。
耐久力の低いモンスターは一刀で斬り伏せることでリスクを減らしつつ、ジャイアントスパイダーとオーガには、できるだけ多くの斬撃を浴びせた。
秀矢の刃機は、近接戦闘によって生み出された衝撃や反動等の力をエネルギーに変換してる。
だから効率よくゲージを稼ぐために、1回でも多くモンスターに攻撃することは合理的と言える。
ゲージを確認する。微量しかない。ウルトの稼働時間に換算すれば約1秒。
とてもじゃないが命を賭けるには、心許ない。
ゲージ回収の最中、秀矢は狙いをガーゴイルに切り替えた。
大きく飛び退いてオーガと距離を置いてから、ガーゴイルに切りかかる。
戦意を察知したのか、ガーゴイルが振り向く。
間合いに入る。
「降魔斬!!」
魔を断ち切る強力無比の剣技でもって、ガーゴイルを両断した。
《え!? 何で、降魔斬を使えるの!?》
亜由美が驚きの声をあげた。
秀矢のスキルポイント配分を把握してるからこそ、衝撃を受けたのだろう。
「ゲージを見てみな」
《ん? あれ? 空になってる。――っ、まさか!? 勝ち筋って、攻撃の時だけ英雄叙事詩を使ったの!?》
「ああ。こいつらは死神と違って、倒すだけなら1秒であれば十分だからな」
秀矢は、英雄叙事詩を攻撃時のみ発動させることで、火力不足を補った。
同時に、先ほど挙がった問題点もクリアした。
死神のような難敵と戦う場合、火力とフィジカル、どちらも必要なので稼働時間が攻略の要となる。
しかし、雑魚戦なら話は変わる。
火力かフィジカル、どちらか片方で凌げるなら、力が必要なタイミングを見計らい、必要な時間だけ発動させれば良いのだ。
さらに稼働時間が短くなることで、ヘイトを分散させることなく、遠くにいるモンスターに察知される危険性も減る。
つまり、適切なタイミングでウルトを使うことによって、基本戦術に影響を与えず、リスクを減らした状態で格上のモンスターを素早く倒すことを可能にした。
《おお~、頼もしさすら感じる不敵な笑顔。いいね~》
頬が吊り上がってるのを自覚した。
自分でも驚くほど、思惑通りに事が進んだので、笑みが零れたのだろう。
もはや、今の秀矢にとって目の前のモンスターの群れは、烏合の衆も同然。
ゲージの回収とウルトの発動を適宜切り替える戦法を用いて、無事、難局を乗り切った。
長光が秀矢たちと合流する頃に、ようやく任務達成の通知が来た。




