第47話 崩壊の兆し(デッドリービジョン)
(俺のせいだ……)
秀矢は自分を責めた。
自分の都合で力を抑えたため、余計な戦闘を招いた事を。
――敵の注目を集めるには、条件が二つあります。一つは、目立つこと。もう一つは、他に目立つものがないこと。
亜由美の言葉が浮かぶ。
敵が自分達を脅威と見なし、警戒を強め、間接攻撃の誘発する要因。
それは、英雄叙事詩を使用したこと。
短時間だが自身の全てのスキルを解放し、飛躍的に戦闘能力を向上させるアルティメイトアビリティ。
戦闘能力の向上はすなわち、モンスターに警戒を促すこと。
日下部が両腕を失くした原因は全て自分にあると考え、自責の念に駆られる。
《第三陣の奴ら、弾切れなのかわからないけど、こっちに向かって来てるわ》
亜由美の声が聞こえる。しかし、言葉までは理解ができなかった。
《秀矢! どうしたの!?》
亜由美の言葉が頭をすり抜ける。
日下部の人生に多大な影響を及ぼす障害を引き起こした、という事実が職責と思考力を奪い、現実逃避を促す。
亜由美の声が雑音となり、アイデンティティが薄れる。
その時、バン、と背中に軽い衝撃を受けた。
弱くないけど痛くもない。気付けに丁度いい刺激だった。
「落ち着け、時田」
いつの間にか自分の左隣にいる荒川が言う。その声は、冷静だが余裕を感じる。
立ち位置的に、背中を叩いたのも荒川なのだろう。
秀矢は、荒川の顔を見た。
ショッキングな光景を前に、何事もなかったかのように顔色ひとつ変かえず、毅然としてる。
その様子に釣られて、背筋を伸ばした。
全身に暖かい血が駆け巡るのを感じる。
「すみません、俺のせいで」
やっとの思いで謝罪の言葉を絞り出す。
「新人のくせに思い上がるな。お前のせいじゃねえよ。そんな事より、あっちだ」
荒川が顎をしゃくる。
視線を移そうとしたとき、刃機が無い事に気づき、慌てて拾う。
《私らにロングレンジ攻撃、ぶっ放した連中。こっちに来てるのよ》
秀矢は刃機を構えた。
「荒川くん、時田くん。僕は一旦、日下部さんの応急処置に専念する」
「二人とも、ゴメン、ね。超能力の止血、思ったより、きつくて」
笑顔を振りまく日下部の声は、痛みかなにかで、とぎれとぎれだ。
「サクナ。君の仇は、俺が取るよ」
「もう、師匠ったら。私は、まだ生きてるわよ」
「つい、チームを組んでた時のくせが」
「うん。信じてる。し……師匠は強いもん」
日下部の膝が崩れる。立ってるのもやっとなのだろう。
倒れそうになるところを長光のサイコアームズが受け止める。
「日下部さん、地面に寝かせるよ」
「はーい」
長光はサイコアームズを巧みに使い、日下部を背中から地面に置いた。
そして、日下部の傷口をサイコアームズが塞ぐ。
「超能力を用いた止血は、僕も辛くてね」
手すきのサイコアームズが2本のベルトと包帯を取り出した。
「慣れない応急処置で痛いかもしれないけど、我慢してくれ」
長光は日下部の応急処置を始めた。
(こんなところで、死ぬわけにはいかないよな)
「その顔、吹っ切れたみたいだな」
荒川が言った。
「おかげさまで」
荒川と日下部のおかげで、秀矢は平常心を取り戻した。
「大丈夫だ。お前は強い。ただ、探索のノウハウがなかっただけだ」
「お気遣い、ありがとうございます」
「お世辞じゃねえよ。お前、死神に殺されるシーンを見たんだろ? 白黒のやつ」
「それが、どうかしましたか?」
「お前が見た映像はな。テレパシーの一種で、リーダーの必殺技が見せたものだ」
「――ということは……亜由美も、あの映像を見たのか?」
《うん。私も見たよ》
亜由美は間髪入れずに肯定した。
《ちなみに長光先輩のウルトの名称は、崩壊の兆し。発動条件は、パーティが危機的状況に追い詰める敵と対峙した時、当人の意思とは無関係に発動。効果は、パーティの最重要メンバーが死ぬ映像を全員に共有すること》
――パーティの最重要メンバーが死ぬ映像。
(それじゃ、亜由美が俺を助けたのって――だからって普通、あんなにあっさりと命を投げ出せるか?)
《秀矢、そんな顔しないで。私は、ほら。大丈夫だから》
「空閑の件は、脇に置いておくとして、だ」
《あんたに、雑に扱われるとハラ立つわね》
「要するに、死神と鉢合わせした時点で、時田はリーダーと空閑よりも強かったって話だ。リーダーのお墨付きでな」
荒川は、モンスターのいる方に向き直る。
《二人とも。第三陣は、もう目の前よ》
亜由美の声と同時に、ヒリつくような敵意を感じた。
《長光先輩は、まだ奈央姉の処置を施してる最中だから。それまで二人で何とか持ちこたえて》
「大丈夫だよ、亜由美。――勝ち筋は、見えた」




