第46話 鎚消滅(デストラクション・ゼロ)
増援――無軌道とも思えるモンスターにも、侵入者との戦いに加勢する者達がいることを知った。
それが仇討ちなのか、闘争を求める本能なのかは定かではない。
問題は、一度加勢すると決めた後、足を止めたことだ。
――何故、動いてないのか。
視線をマップから、第三陣がいる方の通路の暗がりに移す。
暗闇の中心部に見たこともない、白とも赤とも言える、ごく小さな粒があった。
粒は瞬く間に大きくなり、野球ボールまで膨れる。それは、つい先ほども目にしたばかりの現象と酷似してる。
そう思った時、予感から確信へと変わった。
対戦ゲーム――特にシューターゲームのセオリーは、自分が有利な状況を作る事。
いち早く強い武器を集め、アーマーを拾って耐久力を高め、有利なポジションを取る。
相手よりも高い位置に、有利を取れる遮蔽物のある場所を、それが相手の死角なら尚よし。
仕掛けるのは、その後でいい。
考えなしに有利状況を捨てて、対面勝負に挑むのは、愚の骨頂。
シューターゲームにおいて、撃ち合いに負ける要因の大部分は、自分が不利な状況で戦ってるためといっても過言ではない。
基本的に不利な状況を覆すには、自分の腕前が相手より上回ってる他に、相手が致命的なミスを犯すことが必須。
そして、もっともシンプルな有利状況とは、相手に射程の差を押し付けられるポジションを取る事。
つまり敵は、こちらの射程外から間接攻撃を仕掛けてるのだ。
暗闇に見える光る球は、ガーゴイルの魔法攻撃。
増援に駆けつけるほどの協調性があるなら、一群の魔法を束ねて攻撃する可能性を考慮するべきだった。
それ以前に、ダンジョンはモンスターの巣窟。
地の利はモンスター側にあり、こちらは常に不利な状況を押し付けられてる事を失念していた。
光の球は、さらに大きくなる。
膨張した光の球は、周辺を明るく照らし、天井、床、壁の色を映し出す。
そして、熟考してる間に、秀矢のウルトの効果時間が切れた。
《秀矢! 向こうで何か光ってるよ!》
「射程外からの攻撃だろうな」
《え!? そんなことって――》
「モンスター共に増援という戦術を使う知能があるなら、何等かの理由で俺達を脅威と見なした上で、有利な位置から仕掛けてくることも考えられる」
「仮に、あの光が時田くんのいう通りだと、非常にまずいね」
長光が割って入る。
「リーダー、どういうことだ? 来るとわかってるなら、避ければいいだろ」
「それができないんだ。今、僕たちは通路にいる。後ろの分かれ道までは、かなりの距離があるから回避には使えない。そして、モンスターと僕らの間にも分かれ道はない。加えて、ここから見える、あの球の大きさ。おそらく、この通路の高さと横幅をギリギリ埋まると見た」
「何、呑気に言ってんだよ。つまり、俺達に逃げ場はねえってことか」
長光と荒川、二人とも口調は落ち着いてるが、表情はぎこちない。
そんな時、キュイーン、と機械が稼働する音が聞こえた。
「こういう時のための、私でしょ」
日下部は穏やかな口調で言いながら、暗闇に灯る光に向かって歩いた。担いでるハンマーの頭が光り輝いてる。
迫りくる脅威を前に、物怖じせず胸を張って、堂々と目の前を横切る日下部の姿に、尊敬の念を抱く。
日下部が足を止めた時、心奪われてた秀矢は我に返った。
「サクナ、何か策でもあるのか?」
「私の刃機がこんな形してるのは、見掛け倒しじゃないのよ」
日下部はハンマーを振りかぶる。
《大丈夫よ、秀矢。これが奈央姉の本領だから》
「本領って?」
《もう察してると思うけど、奈央姉は回避型タンクよ》
「見ればわかるよ」
《それはつまり、防御が本分ってこと。攻撃は、おまけね》
「あんなデカいハンマーで?」
《うん。あのハンマーで叩くのは、何もモンスターだけじゃないってことよ》
「壁を破壊するとか?」
《それは違うかな。どういうわけかダンジョンの地形は、スキルはおろか現代兵器でも傷一つ付けられないの》
「だとすると――」
日下部は暗闇の中で輝く光と対峙してる。
それを見て、亜由美の言いたい事を察した。
同時に、光の球が急速に膨れ上がった――否、魔法が放たれた。
疾風の如く迫りくる灼熱の球は、瞬く間に秀矢たちの目の前に到達した。
球から放たれる熱が顔を触れる。
顔に火傷しそうな熱を感じた瞬間、目の前が真っ白になった。
「鎚消滅!!」
覇気が込められた日下部の声と共に、暴風とも飛行機のエンジンとも言える騒音が鳴り響く。
程なくして、目蓋で感じた光が無くなり、静かになる。
皮膚に冷たい風が触れた時、秀矢は目を開けた。
ダメージも衝撃もない。それは、サクナが敵の攻撃を防いだことを意味する。
「サクナ! すげえ、な――ッ!?」
いの一番に賞賛と感謝の言葉を口に出した直後、視界に入った光景を見て、言葉を失った。
「へへ、みんな。後、お願いね」
喜色を浮かべる日下部を直視できなかった。
やるせない気持ちがこみ上げてくる。
地面に横たわるハンマー。
ブーツと足元は赤黒く染まってる。
「日下部さん、今すぐ止血を!」
長光が日下部の元に駆け寄る。
「うっ」と日下部が小さく呻くと同時に、両腕から溢れる血が止まった。
傷口の先端部がキュッと絞らた。
長光のサイコキネシスで止血したのだろう。
秀矢が目を背けた理由。
それは、日下部の両腕が欠損していたからだ。
日下部の両腕は今、指先から肘の辺りまで無い。
断面はぐちゃぐちゃで、止血する直前まで蛇口を開けた水のように血を垂れ流してた。




