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第44話 第1陣

 3人も合わせて、足を止める。


《でしょ? でしょ? さっすが私》と亜由美が胸を張る。


「あみちゃん。それはつまり、さっさと片付けないと挟み撃ち、って、ことよね」


《まあね》


 日下部は「ふぅ」と長い呼気を吐き出してから、ハンマーを担いだ。


 荒川は、両の手をぐっと握りしめる。


「時田、のんびりしてる余裕はねえぞ」


「わかってます」


 秀矢は、両手で刃機を構える。


 マップに視線を映す。現在地は一本道の通路。マップに映る、赤い円が中央部に触れる。


 同時に、暗がりの向こうから、モンスターの群れが姿を現す。


 巨大な蜘蛛、獣人型の熊とネズミ、オーガ、人型のナイト、メイジ、プリースト。


 いずれも先の戦闘で討伐済みのモンスター。


 しかし、問題は数だ。


 視界に映ってるだけでも優に10は越えてるだろう。もしかして、暗闇の先にもまだ控えてるかもしれない。


 そんなモンスター達は、秀矢たちに剥き身の殺意を容赦なく叩きつけてくる。


 秀矢は臆することなく、モンスターの群れを視界に捉える。


「行くぜ、亜由美」


《オーケー、こっちは何時でもいいよ。秀矢》


「刃機、抜刀!」


 刃機の刀身が淡い光を放つ。


 荒川、日下部の二人が先陣を切る。


 モンスター達の視線が二人に集まる。


 敵のヘイトを圧倒的な存在感と頑強さで引き付ける荒川。


 モンスターの群れの中を縦横無尽に駆け回り、攪乱することで、モンスターを足止めする日下部。


 荒川がヘイトと攻撃を一身に受ける一般的なタンクであることに対し、日下部は圧倒的なスピードとそれに裏打ちされた高い回避性能でもって敵の攻撃を避け続けて、ヘイトを管理する回避型のタンク。


 そのため二人は、敵への攻撃よりも敵からの攻撃に耐える事を優先する。


 二人が敵を引き付けてる間、長光と秀矢の火力でねじ伏せる。


 これが現在のパーティで行える最善の戦術である。


(みんな、自分の命を賭けて、戦いに臨んでるんだ!)


 秀矢の意識は、先の戦いから変わっていた。


 身勝手な行動で、味方の命を少しでも危険から遠ざけること。


 そのためには、速やかにモンスターを排除すること。


 秀矢はモンスターに向けて、大きく出力を上げた斬撃を放った。


 ジャイアントスパイダーの頭部が竹を割ったように真っ二つとなり、甲高い虫の声が鳴り響く。


 直後、背筋に悪寒が走る。断末魔によって、いくらかのヘイトがこちらに向けられたためだ。


 ワーベア、ワーラット――獣人型モンスターの瞳が妖しげに光る。


 獣人型モンスターは、普通の人型とは異なり有機物。


 そのため、体格が人間よりも二回り大きいワーベアは、まさに筋肉の塊であり、膂力もさることながらスピードも桁違いで、リミッターを解除したサムライを凌ぐ身体能力を有してる。


 しかし、それはサムライがワーベアに劣るという意味ではない。


 サムライには身体能力だけでなくスキル、刃機、そして戦闘経験がある。


 それらはフィジカルのハンデを埋めるに足るアドバンテージだ。


 現に、荒川はワーベアの力任せの攻撃を両腕で防ぎ、時には軌道を逸らして、受け流す。


 長光はサイコアームズで応戦。


 ワーベアの二本の剛腕を、4本の腕で抑え込んでから、首を180度にねじる。


 秀矢の場合は、射撃モードで遠くから牽制し、怯んだところで一気に間合いを詰めて切りかかる。


 先の戦闘で、ワーベアの攻略法は確立した。どんな恵体でも所詮は本能で動くモンスター。殺意は大きな気配で、攻撃の予兆に過ぎない。


 秀矢にとって、攻撃力が高いだけモンスターは、1階のモンスターと大差ない。


 フィジカルで開けられた差は、スキル、刃機、戦闘経験――そして、天性のバトルセンスで埋めて、ワーベアを撃破する。


《やるねえ、秀矢》


「一対一なら、こんなものさ」


 次のターゲットを探す。


 その時、微かな風圧を感じた。何者かが側を通り抜けたようだ。


 即座に射撃モードに切り替え、反対方向に振り向く。


ネズミ(ワーラット)が逃げたのね》


 モンスターに照準を合わせて、引き金を引く。


 刃機の先端からエーテル弾が射出された。


 右腕が意思とは無関係に微妙に動く。再度、引き金を引く。右腕が無意識に動く。引き金を引く。


 遠くからピギィィィと生き物の苦悶と思しき声が聞こえた。


「助かったよ、亜由美」


《へへん。射撃は得意だからね。あれくらいのエイム、どってことないわよ》


英雄叙事詩(ウルト)の稼働時間がもっと長ければな」


《そうねえ。死神戦で発動した時のゲージと稼働時間の関連性を調べたんだけど、完全に短期決戦用ね》


 ゲージは8割ほど埋まっている。


 ただ亜由美のいう通り、ウルトの稼働時間は非常に短い。


 調べによると、ゲージが満タンで3分間。現時点では、稼働時間の延長方法は不明。


 加えて、ゲージ自体もなかなか貯まらない。


 刃機による近接で攻撃をすれば貯まるが、特定のスキルを使用またはエーテル弾を発射すると減る。


 今日は、1階探索時にゲージを稼いだが、4階の戦闘でややマイナスという有様。


《でも、今のメンツで四階のモンスター相手なら英雄叙事詩(ウルト)は必要なさそうだから、今の調子でガンガン行っちゃって》


 亜由美の言葉に背中を押されたような気がした。


 勢いづいた秀矢は、モンスターの群れに切り込んだ。


 二人が引き付けたモンスターの群れを一体ずつ、確実に始末し続けて数分後、第一陣のモンスターを全て倒した。


 モンスターの遺体がそこかしこに散らばってる。


 長光はサイコアームズの全ての腕を下ろした。


「第二陣は間近に迫ってるから、一息ついたら、気を引き締めてくれ」


《あれ? 何か、おかしい》


「空閑さん、おかしいって何が? マーキングの精度は実用性あると思うけど――」


《そうじゃなくて、今、こっちに向かってるモンスター達から、只ならぬ気配がするっていうか、4階のモンスターらしからぬ圧を感じるわ》


 亜由美の緊迫した声が場の雰囲気を引き締める。


「下の階からも増援が来てるのか」


 長光のサイコアームズが臨戦態勢になる。

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