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第43話 アドバイス

 荒川は「ああっ!」と言いながら、羞恥を誤魔化すように頭を掻き毟る。


「こういうのはキャラじゃねえんだけど、そうも言ってられないからな。……いいか? 時田。俺達はな、互いに命を預けて任務にあたってる」


「……」


「この世には、人の命の助けるために、自分の人生をかけてる連中がごまんといる。そいつらは有事の備え、毎日毎日、血が滲むような訓練を積んでいる。何故だか変わるか?」


「任務を……確実に達成するためですか?」


「こういう連中にとって、任務達成は当たり前。前提に過ぎない」


 話が見えてこない。


 一体、何を伝えたいのか。自分のやり方に落ち度があったのか。答えがわからず、やきもきする。


 口答えをしようとするも、荒川の真剣な表情を見て、まだ何かあるのだろう、と考え、思い止まる。


「それはな、危機的状況を圧倒的なリソースで払い除け、絶望に瀕した人達を安心させるためだ。――時田、空閑の助言は覚えてるか?」


 今日、聞いた亜由美の言葉を思い出す。


 しかし、亜由美と交わした言葉が多すぎて、何時の事を指してるのか見当がつかない。


「ピンとこねえって顔してるな」


「すみません。亜由美とは四六時中、話してるもので――」


「わからない事を素直に認めただけでも上出来だ」


 荒川の一言が癪に障る。


 厄介なのは本人が真面目に言ってる分、感情の捌け口に困る。


「ダンジョンの探索。とりわけ化け物との戦いは、死んでもやり直しがきくゲームでもなければ、ルールが定められたスポーツでもない。――もっと原始的な、リソースの奪い合いだ。気力、体力、時間に怪我はねえか、毒にかかってねえか、マンパワーが不足してねえか。俺達は十分なリソースをもって任務に当たる。任務の最中に僅かでも懸念があれば作戦を改め、それでも任務続行不可能と判断したなら、躊躇なく撤退する。命あっての物種だからな」


 無理はしない、ということだろう。


 それは、秀矢にとっても都合がよかった。


「時田……俺達と組んで戦った時、力をセーブしてただろ」


 図星だった。しかし、力を抑えて戦ったことへの罪悪感は一切ない。


 だから、理由を包み隠さず伝えることにした。


「はい。1匹でも多く倒して、少しでも早く強くなりたかったからです」


 秀矢は物怖じせず、堂々と言った。


 荒川は「はぁ」と深いため息をついた。


「時田の言い分は理解した。一理あると思う。でもな……お前ひとりの都合で、俺達の命を危険に晒すな」


 ――俺達はな、互いに命を預けて任務にあたってる。


 先刻、荒川が口にした言葉が脳裏に浮かぶ。


「化け物どもをぶっ倒すってのはな、確実に致命傷を与える力でもって情け容赦なく叩きのめすってことだ」


 ――とにかくモンスターにトドメを刺すチャンスがあったら確実に仕留めるのよ。


 亜由美の言葉を思い出す。


 直後、死神の魔の手によって亜由美が落命したシーンが鮮明に浮かび上がる。


 やり場の無い感情を押し殺すために奥歯を噛み締めた。


「そうね、だいちゃんの言う通りだと思う」


 日下部が言った。それは温厚でありながら、生真面目さが滲み出てる声だった。


「師匠。私はね、こんな仕事で死にたくないの」


 任務の最中、誰もが思う当たり前の言葉。


 面識のある知り合いが口にすると、より一層、重く圧し掛かる。


「俺だって、死にたくねえよ……亜由美を生き返らせるまではな」


「それ、そうちゃんの報告にあった人を蘇らせる杖のお話ね」


「ああ」


「……ゴメン、あみちゃん、師匠。冷たいって思われるかもしれないけど、私にとってサムライはあくまで仕事なの。うちはね、弟が二人いるし、あまり裕福じゃないの。だから、自分が生き延びてでもお金がほしいの。……師匠からしたら自分勝手かもしれないけど」


「わかるよ。俺だって、サムライになったのは金のためだ。――だから、亜由美の件は、俺の願望だ。任務とは違う。サクナは気にしなくていい」


「はは、ダメね。こういう時、人生の先輩として、死んだ人がどうとか、倫理がー、とかそれっぽいこと言わないといけないのに」


 日下部が見え見えの作り笑顔をふりまく。


 三人の間に、気まずい空気が流れる。


《いいなぁ二人とも! 私が生きてたら、ビシっと言いたかったなぁあああああ! 秀矢に先輩風吹かせたかったなぁあああ!》


 静寂を切り裂いたのは、亜由美の芝居がかった叫び声だった。


 荒川と日下部がキョトンとする。


(何、言ってんだ。亜由美は――)


 秀矢は、今の自分は二人と同じ顔をしてる気がした。


 ダンジョンに響き渡る亜由美の声によって、場の雰囲気が変わる。


《もう、ダメでしょ秀矢。ごめんね、みんな。秀矢には、無理しちゃダメって再三言ってるんだけど、なかなか聞いてくれなくて》


「俺は駄々っ子かよ」


《秀矢には、私から言い聞かせるから。今日のところは私に免じて、ね》


 亜由美がウインクをする。


 ノリが合わないのか、荒川の顔が引きつる。


《確かに『もし生き返れるなら』って暇な時によく考えるわ。何か知らないけど、こうして、みんなとお話できるしね。でも、みんなの命を犠牲にしてまで、ってなると、それは違うと思ってる。だからさ、私のことは気にしないで、みんなは自分の命を大事にしてね》


「あはは。おばけに慰められるなんてね」


《長生きするもんでしょ? 奈央姉》


 女性二人が笑顔を浮かべる。


 対する荒川は、伏し目がちになる。


 こういう空気が苦手なのかは定かではないが、うつむく直前、表情が曇るのを秀矢の目がとらえた。


 程なくして、長光の足が止まった。


「どうやら空閑さんの言ったことは本当のようだ。この先から嫌な空気を感じるよ」

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