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第42話 掃討開始

 四人は、目的地である第4階層に到着した。


 4階の風景は、3階とさして変わらない。あえて差分をあげるとするならレンガの色が3階よりも黒ずんでるくらいだ。


 ここからは、四人固まっての探索となる。


 第4階層の敵対勢力を一定数駆除、という任務のためだ。


 秀矢は探索の最中、4階のモンスターについて調べた。


 未討伐のモンスターを見る限り、3階以上に危険なのは容易に想像できた。


 ジャイアントスパイダーにワーベア、オーガ、ワーラットと脳の発達が著しいモンスターが3体、生息してるようだ。


 ここに先ほど遭遇したナイト、メイジ、プリーストの人間型モンスターが加わる。


 当然だが3階よりも難易度が上がり、戦闘が激化するのは明白。


 しかし、4階に関しては、これまでとは大きく違う。


 それは、4人協力プレイになったこと。


 しかも内3人は、6階の探索経験者。


 戦闘能力も道中に拝見した。実力もさることながら『実戦経験』が比じゃない。


 たまたま死神を倒した程度の実戦経験なんて比較にならない。


 だからこそ、これほど心強い味方はいない。


「リーダー、ノルマはあるのか?」


「無いよ」


「マジかよ……精神にくるんだよなぁ。ノルマが定まってねえ任務は――」


「メインは、新人育成だからね。任務を切り上げるタイミングは、アイボーから連絡が入るはず……あれ? そうなると空閑さん、その辺り、わからない?」


《今、探ってるんだけど……ダメね。それっぽいものはあったけど、アイボーの権限だと閲覧ができないわ》


「そもそも任務は、お館様が決めてるからね。――でも、去年と同じなら、時田くんのレベルがお館様の定めた数値に達したら完了とみていいんじゃないかな」


「しゃあねえな」


 荒川は渋々、と言った感じではあるが、任務には前向きのようだ。


「でも、そうちゃん。師匠はレベルだけなら、だいちゃんとあみちゃん、二人と同じなのに、わざわざ新人育成をすることが、どうも引っかかるのよね」


「言われてみれば、確かに……うーん、お館様の思惑はともかくとして、今回の任務、新人育成と銘打ってるけど、長期戦を覚悟した方がいいかもね」


「ううっ、帰りにスーパー寄ろうと思ってたのに」


 日下部がシュンとなる。


「その代わり、今日は安全第一で任務にあたるつもりだ。二人とも疲れたらすぐに教えてくれ」


「はーい」

「わかった」


 日下部と荒川がそれぞれ返事をする。


「時田くんもそれでいいかな?」


「わかりました」


 それから間を置かずに、4階での戦闘が始まった。


 戦闘自体は楽勝とまではいかないものの、苦戦することはなく、誰一人として大きな怪我をしないまま、いくつものモンスターの群れを討伐する。


(経験者だからと言って、張り切りすぎてないか?)


 秀矢が3人に抱いた印象である。


 日下部と荒川は傍目から見ても、雑魚相手に余計な動きをして過剰なダメージを与えてる節がある。


 つまり燃費の悪い戦い方をしてるように見えるのだ。


 長光は燃費をよくする兵装(サイコアームズ)があるため消耗は予測できないが、時折、襲い掛かってくるモンスターの動きがピタッと止まる瞬間があるので、超能力を併せて行使してることがわかる。


 反面、秀矢はゲージの貯まり具合を気にかけつつ、効率の良い戦い方を模索していた。


 これには理由がある。


 初めてダンジョンに潜った日に聞いたレベリングという言葉。


 所属してる事務所で働いてる方に、オススメのゲームを訊ねた時、無理矢理聞かされたMMORPGのレベリング指南が頭によぎった。


 内容を要約すると、レベリングの効率は時給で考える事。


 時間のかかる格上の敵と戦うよりも、できるだけ労力を使わずに旨味のある敵を数多く倒し続けた方が稼げることはよくある話。


 あくまで理想なので、運営のアップデート、狩場の先客、インスタンスフィールド等々、効率のよいレベリングは刻々と変化するようだ。


 無論、理想と現実――どころかゲームと現実は大きく異なる。


 しかし、モンスターをひたすら倒し続ける作業感が強い任務において、敵に応じて効率のよい戦い方を選択することは一理あると思った。


 こうして秀矢は実戦を重ねていく内に、4階のモンスターへの対処が洗練された。


 三人の動きに合わせて、次から次へと迫りくるモンスターの群れを最小限の労力で過不足なくダメージを与えて倒し続けた。


 そして、ようやく一息つく間ができた。


「リーダー、悪い。そろそろ、きつくなってきた」


「そうちゃん。ちょっと休みたいかも」


 二人に、疲れの色は見えない。


 しかし、長時間モンスターと戦い続けたことで、目には見えない負担が蓄積してるのだろう。


「そうだね。一旦、休憩を挟もうか。ベースキャンプは……うん、少し離れてた場所にあるから、今から向かった方がよさそうだね」


《秀矢、ここがベースキャンプね》


 亜由美が4階のマップを映す。ここから歩いて十分ほどの場所に印が付いてる。


 秀矢自身は、精神的にも肉体的にも疲労があまり貯まってないので、まだまだレベリングに励みたい気持ちが強いが、ぐっと堪えた。


 言うまでも無く、4階のモンスターの経験値は一階とは比べ物にならないほど多い。


 それは、モンスターの強さも同様であること。


 秀矢一人で、4階のモンスターと戦えるのか? と言われればイエスだ。


 しかし、レベリングのために戦い続けられるか? と言われればノーと言わざるを得ない。


 英雄叙事詩(ウルト)は制限時間があるため、レベリングには不向きなのだ。


《長光先輩! こっちに向かって来てるモンスターの群れがいくつもあるわ!》


 秀矢たちが歩き出そうとした時、亜由美が強い口調で言った。


 気の抜けた体が緊張で引き締まる。


「それは本当かい? 僕の方では、何も感じなかったのに――」


《何となく、だけどね。4階から下のモンスターって他と比べて、殺意マシマシだからかな。なんか、ひしひしと圧を感じるのよね》


「空閑さん。大よその位置と接敵までの時間はわかるかな?」


《今、マーキングしたわ。みんなも確認して》


「あー、確かにこれは厄介だね」


 秀矢もマップを確認した。


 マップには、敵の大まかな位置が赤い円でマーキングされており、接敵までの予測時間が表示されてる。


 予測時間は、時分秒とミリ秒で構成されてるため、秒の右隣にあるミリ秒の数値が目にも止まらない速さでカウントダウンしてる。


(そういう事か……)


 亜由美が語気を強めた理由――それは赤い円は複数あり、今の自分達がいる場所に通じる道を全て塞いでるためだ。


「はぁ……逃げ場は無いって感じね」


 日下部は残念そうに言った。


「それじゃ、ベースキャンプに向かいがてら、進行を阻むモンスターを速やかに排除する。そして後続のモンスターを迎え撃つ」


「長光さん、一群を倒した後にベースキャンプに駆け込むのはダメなんですか?」


「出入りしてるところを見られるのは避けたいんだ」


「モンスターは、ベースキャンプを認識できるんですか?」


「恐ろしいことにね。基本的にベースキャンプは、モンスターの通りが少ない場所に設営してるし、出入口が見つからないように対策も施してる。それでも出入りしてるところを実際に見られたせいで、潰された前例があってね。だから時田くん。お疲れのところ悪いけど、もうひと頑張りしてほしい」


「大丈夫です。俺は、まだまだ戦えます」


「はは、それは頼もしいね。それじゃ、体力のある内に走って、少しでも早く最初の一群をお出迎えと行こうじゃないか」


 長光が先陣を切る。日下部、荒川が後に続いたので、秀矢も走って追いかけた。


 走り始めて、秀矢が荒川と並んだ時、荒川が神妙な面持ちで口を開いた。


「時田……何で、空閑の助言を無視してんだよ」


 それは秀矢にとって思いがけない呼びかけだった。


 一瞬、頭が真っ白になる。


「何だよ、その顔は」


「それは驚きますよ。俺、てっきり荒川さんに嫌われてるのかと思ってましたから」


「別に、職場の人間に好きも嫌いもねえよ……それ以前の問題だからな」


 後半部分の意味ありげな重い口調に、息が詰まるような圧を感じる。


 荒川の言葉から意図が汲み取れず、複雑な感情を帯びた荒川の目を見ることしかできなかった。


 程なくして、荒川は秀矢から目をそらす様に、前を向いた。


「悪いが……今の時田に、命を預ける気にはなれねえ」


 遠い目をした荒川は、諭すような口調で言った。


 秀矢は荒川の様子を見て、安易に口を挟むべきではないと考えた。


 視界の端に目をやる。亜由美も口出しするつもりはないようだ。

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