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第41話 情報収集

 ナイトと対峙する長光。


 一歩ずつ近づく度に、全身にかかる圧が増していくのを感じる。


 目算では、ナイトの間合いから離れてるのに、目の前にいるような感覚を覚える。


(……これが3階のモンスターか。ローグと違って、嫌な存在感があるな)


 イメージしたものは、首元に触れた刃、コメカミに突きつけられた銃口。


 それは、見た目だけで高い殺傷能力を有することを理解させ、否が応でも死を掻き立てる。


 秀矢は肌感覚で、3階のモンスターを一人で相手にするのは、至難だと判断した。


 ナイトが剣を振りかぶる。


 対峙する長光は、恐ろしいくらい平静で、とても命がけの戦いに臨む者とは思えない顔をしてる。


 物言わぬ魔物は、無慈悲に剣を振り下ろす。


「正直、僕は戦闘が得意ではない」


 そう言いながらサイコアームズの2本の手が、ナイトの両側の手首をがっちりと掴む。


 続けて、キン、と金属音が鳴る。


 それは剣が硬い地面に落ちた音だった。


 今、ナイトの両手は、サイコアームズによって無理矢理、広げられた状態になってる。


「僕の領分は、情報だ。例えば、このようにモンスターを捕らえて、調査する」


 サイコアームズの別の2本の腕がナイトの両足を掴む。


 ナイトは今、両手、両足が機械の手でがっちりと掴まれてる。


「このサイコアームズA型は、主にモンスターの情報収集に特化していてね……このように身動きが取れないように拘束し、抵抗する力を測る。こうやって大よその筋力を数値化して、図鑑を更新するのさ」


 手持無沙汰の2本の腕が動く。


「続いて、耐久力の確認だ」


 2本の腕がナイトの腹部、胸部、頭部と順番に殴りつける。


 人間型モンスターは言葉を発しないので、ダメージが通ってるのかはわからないが、サイコアームズの殴打によってナイトの鎧が窪んでることから、その威力はサムライの物理攻撃に相当するものだろう。


「一昨日も言ったけど、超能力は燃費が悪い。サイコアームズは、その問題点を解消する役割も担ってる。世の中には、小さな力で大きな物を動かす仕組みがいくつもあってね。テコの原理、滑車、歯車、パスカルの原理――そういった機械力学に地上とダンジョンの鉱物資源を加工する法龍院家の技術力によって、1のサイコキネシスを10の力に変換する兵装がサイコアームズなんだ」


 先ほどまでモンスターを殴打してた拳から人差し指が伸びる。


 その指から一本の細い棒が生えてきた。


 細い棒は、キィーンという音と共に振動――否、回転を始めた。


 回転をした細い棒――ドリルがモンスターの鎧を削る。


「制御と燃料は僕が担当してるため、サイコアームズに電子機器は、ほぼない。相手の力を測るための感知装置(センサー)と操作のサポートに脳波インターフェースを搭載してるが、それはあくまで情報収集のためであり、サイコアームズの性能とは無関係だ。この2つは壊れても戦闘に支障はない」


 ドリルの回転が止まり、指の中に引っ込む。


「これで筋力、肉体と装備の耐久力の確認が終わった。最後は生命力。ここが一番、大事だ。もし急所を発見できたら、以後の戦闘が楽になる。それは任期満了までの生存確率の向上に繋がる大事な情報だ」


 ドリルが搭載された腕とは、反対側の腕の手首がひとりでに取れた。


 続けて、手首の取れた腕から、金属の板が生えてきた。板の回りには、無数の鋭い突起物がついてる。


 板は、ギュイーンとけたたましい音を鳴らしながら、無数の鋭い突起物が目にも止まらない速さで、板に沿って動き出した。


(チェーンソーか)


 長光は顔色一つ変えずに、チェーンソーでナイトの右腕を木材のように切断した。


 拘束が一つ解けたためか、ナイトは激しく体を動かす。


 声にも表情にも出ないが、痛覚はあるようだ。


「こんな感じで急所を探すんだ」


 淡々とした口調で言いながら、長光はナイトの左足を切断した。


 ナイトの身動ぎに激しさが増す。


 モンスターとはいえ姿形が人である分、観てるほうも痛い。


「手と足を切っても死なない事がわかったら、次は――」


 今まで手と足を抑えていたサイコアームズの腕がナイトの鼻と口を塞ぐ。


「呼吸を止めたらどうなるのか? そもそもモンスターの生命活動には、僕たち人間と同じように呼吸を要するのか?」


 授業中の教師のように、感情と抑揚が乏しい長光の語り口。


 対称的に、鼻と口を塞がれても尚、サイコアームズの束縛から逃れるため懸命に藻掻くモンスター。


 亜由美と日下部の言葉と態度の意味を、嫌と言うほど思い知らされた。


 目の前の光景は、拷問と言っても過言ではない。


 しかし、生存確率を向上させるために必要な情報収集の一環であることも事実なのだ。


 呼吸器官を塞いでから、5分以上が経過した。


 ナイトの身動ぎは変わらず、ジタバタしてる。


「5分以上、呼吸を止めても衰弱する気配はない。この事から人間型モンスターは、呼吸を必要としないことがわかる。そもそも僕たちと違って臓器がないから、生命活動に呼吸を必要としないのだろう」


 チェーンソーがナイトの首を切断する。


 先ほどまで暴れてたナイトの胴体が大人しくなった。


「こうして首と胴体を切り離すと、このように人間型モンスターの生命活動が停止する。これは、ナイト以外にも有効だから覚えておくといい。つまるところ失血と窒息以外は、人間と同じってことさ……おや? 顔色が優れないね、時田くん」


「気にしないでください。長光さんの講義は、これでもかというほど身に沁みましたので」


「別にいいけどね。でも、モンスターはこちらの都合なんてお構いなしに襲い掛かってくるし、今はダンジョンで大人しくしてるけど何時地上に出てきてもおかしくない。だから、こういう仕事は、早い内に誰かがやらなければならない。その役目がたまたま僕だっただけさ」


「……」


「今日はちょっと刺激が強い映像だったけど、他にもサイコアームズ(こいつ)を活用する場面はいくらでもある。例えば新種の鉱物を見つけた時、毒の沼地や溶岩等の生身では触れることを躊躇う場面では重宝する。これがダンジョン探索における情報収集さ」


 長光のサイコアームズがナイトの胴体を手放す。


 支えを失ったナイトの遺体は、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。


「レクチャーは以上だ。大変申し訳ないが戦闘面では、今後も君達に負担をかける場面が数多くあると思う。代わりに、戦闘以外の部分は僕に任せてくれ。収集した情報は全てデータベースに反映し、アイボーを通じて、必ず君達の力になる」


 長光の表情はとても誇らしげに見えた。自信に満ちた声音は、耳に心地よく一字一句はっきりと聞こえた。


「寄り道は、ここまでだ。早く4階に行って、今日の任務を終わらせよう」

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