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第40話 第3階層

 四人は、第3階層に下りた。


 3階はこれまでの階層とは趣が異なり、壁、床、天井がレンガで敷き詰められたような幾何学模様で埋まってる。


 ほのかに肌寒いが気になる臭いはない。空気が澄んでるようだ。


 道幅と高さは一階と大差ないように見える。


 先頭は荒川から日下部に変わる。日下部の隣には、長光が並ぶ。


 荒川は一応、秀矢と横並びにはいるが、物理的に少し距離が離れてる。


 3階のモンスターについては、2階の道中で履修を済ませた。


 他の階層と大きく異なる点としては、人間型のモンスターが複数おり、サムライと同様に連携をとること。


《いい? 秀矢。さっきも言ったけど、もしメイジ、プリースト、ナイトの人間型モンスターのパーティに出くわしたら躊躇わずに急所を狙うのよ。特に3階と4階は、奴らのコンビネーションで多くのサムライが返り討ちにあったという話だからね》


「わかってるよ。……ったく何度、言えば気が済むんだよ」


《私の悩み、その7。私のアドバイスを真面目に聞いてくれないこと》


「ちゃんと聞いてるって」


《まあ人間型に限らないけど、3階から下は生前の私でもソロプレイは無理ゲーだから、とにかくモンスターにトドメを刺すチャンスがあったら確実に仕留めるのよ》


「ああ。ちゃんと経験値にしてやるよ」


《でも、クリーピングオーレは癒し枠よ》


「宝石の原石とか鉱物が浮いてる奴だけだっけ?」


《そうそう。弱っちいくせに死体……石ころみたいなもんだけど、地上に持ち帰れば換金してくれるしね。どれくらい弱いかというと、奴らの精一杯の体当たりが全力投球したゴムボールなのよ。唯一の難点は、エンカウント率が低いことね。私は、2回しかあったことないし》


「レアモンスターあるあるだな」


 亜由美と会話しながら歩いてると、WARNINGの英字が視界に飛び込んできた。


《ほら、こんな感じに、ステータスが私と同じくらいでも、この辺りの敵は強いのよ》


「その割に、音は静かだな」


《音量がそのままモンスターとの格差だからね。文字だけなら、油断しなければ死なない感じかな。ちなみに音が気になる場合は、文字の色で危険度を示すオプションがあるわよ》


「亜由美じゃ検知できないのか?」


《できるわよ。私も生前は、アイボーに通知させてたし》


「なら任せた。あの警告音は、心臓に悪い」


《そもそも危機感を煽るのが警告音の役目でしょ》


「それもそうか」


 秀矢は刃機を構えつつ、モンスターの群れを観察した。


 ジャイアントトード、スケルトン、ゾンビの群れがこちらの存在に気づいたのか、殺意を向けてきた。


「師匠、こいつらは私がぶっ飛ばすから、見ててね」


 日下部は、まるで対戦ゲームで敵陣に突っ込むかのような軽い口調で言った。


 直後、左の大腿部に装着してるスマホをポンと叩いてから「刃機、抜刀!」と覇気がこもった声を出す。


 大きなハンマーを竹刀のように両手で持つ。


「そうちゃん。あれなら私一人で大丈夫よ」


「それは、ありがたい。デモを披露するなら、もっとわかりやすいモンスターの方がいいからさ」


「あはは……あれをやるつもりなのね」


 日下部から乾いた笑い声が聞こえる。


《あー……長光先輩、今年もやるんだ》


「亜由美、どうした? 元気ないけど」


《その時が来たら、わかるわ。せいぜい楽しみにしておくことね》


「……わかった」


 亜由美の言葉と感情が噛み合ってないことだけは理解した。


 一体、何を見せるつもりなのだろうか。


 考えを巡らせながら日下部と長光のいる方に目を向ける。


 日下部は臨戦態勢のようだ。


 ハンマーを大きく振りかぶっている。


 次の瞬間、日下部の姿が消えた。


 同時に、モンスターの断末魔と硬質物の砕ける音が鳴り響く。


 日下部の姿を視認した時、モンスター達は一匹残らず無残な姿へと変わっていた。


「はい、お終い」


 日下部が秀矢たちのほうに振り向く。


 文字通り、瞬く間に戦闘を終わらせたようだ。


「全滅を確認した。みんな、先に進もうか」


 日下部と長光を先頭に、下り階段を目指して移動を再開する。


「一瞬で戦闘が終わったな。何が起こったのかさっぱりわからん」


《奈央姉は脚の刃機による、高い俊敏性を活かした攻撃と回避が得意なのよ》


「やっぱり消えたように見えたのも、超スピードで動いてモンスターを殴り倒してたのか」


《でも、奈央姉の真価は、そこじゃないけどね》


「まだ何かあるのか。それは頼もしいな」


 歩いてると再び、WARNINGの英字が視界に飛び込んできた。


 続いて、中世の鎧を身にまとった者、つばの広い帽子に杖を持つ者、薄汚れた衣を身に着けてる者が次々と姿を現す。


 他にも薄暗くてよくわからないが人影がちらほらと映る。


 画面にはナイト、メイジ、プリースト、ゾンビ、スケルトンの文字が並ぶ。


 3階の人間型モンスターは、着の身着のままのローグとは違い、名前に相応しい装備を身に着けている。


「おあつらえ向きのモンスターが来たようだ。日下部さん、ちょっといいかな?」


「ん?」


「ナイトは僕がやるから、他を頼むよ」


「わかった。ナイト以外は、先に倒した方がいいかな?」


「そうだね。今回はデモだから、邪魔者は居ない方がありがたい」


「了解。それじゃ、得物はなるべく傷つけないようにするね」


「無理はしないでくれよ。もしもの時は、アシストするから」


「ありがと。それじゃ行ってくるね」


 日下部が敵陣に切り込む。


 それはさながら敵陣に吹き荒れる嵐であった。


 先の戦闘とは違い、秀矢の目でも追える速度ではあるものの、決して遅いわけではない。


 まず日下部はゾンビとスケルトンをハンマーでなぎ倒した。


 そのまま息つく間もなく、幾度も棒切れのように軽々とハンマーを振り回し、モンスターが離れれば間合いを詰め、叩き潰す。


 大抵はハンマーだけで倒すが、それでも間に合わずに向かってくるモンスターには、蹴りをお見舞いする。


 敵陣で暴れ回る日下部の姿に、秀矢は懐かしさを覚える。


 小学生の時にチームを組んだ時もそうだった。


 普段は人当たりがよく、おっとりしてるように見えるが、ひとたび試合が始まれば、嵐の如く暴れまわり、敵をことごとく叩きのめす。


 しかし時には、凪のように息を潜めて、戦況を把握し、隙をうかがう冷静さを併せ持つプレイヤーだった。


 その証拠に、メイジが杖が光り輝き出す瞬間、またはプリーストの手にエネルギーが集束した瞬間、必ず巨大な鉄槌を振り下ろしてる。


 考えなしにハンマーを振り回してるようでいて()の実、周囲の状況を常に把握し、敵の攻撃を察知して、最善手を打つ。


 秀矢が感心してる間に、残りはナイト一体だけとなった。


「お待たせ、そうちゃん」


「ありがとう。では、これから時田くんに、僕の役割をレクチャーしようか」


 長光の背にある六本の腕が虫の足ように生々しい挙動をする。


《秀矢、とりあえず一つだけ言っておくわ》


「何だよ。その思わせぶりな物言いは」


《長光先輩は良い人だからね》


「ん? まあ、悪い人ではないことは理解してるけど」


 秀矢は、少しだけ長光に近づいた。


 レクチャーと言うのだから、受講者はなるべく側にいるのがマナーというもの。

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