第38話 第2階層
ベースキャンプを出た四人は、そのまま第二階層に下りた。
2階の雰囲気は1階と全く同じ。土と石で作られた洞穴で、かびと土の臭いが鼻をつく。
道幅は広く、天井までは優に10メートルはある。大抵の球技はできそうだし、日下部がハンマーを振り回すのに十分な余白がある。
秀矢は、2階で遭遇するモンスターの一覧を呼び出してから歩き出した。
《ああ!? そういうのは私がやるのに》
「ゴメン。でも、情報をざっと確認するなら視覚の方が早いからさ」
《ちなみに2階で一番危険なのはウサギよ》
「そういうアドバイスは助かるよ」
《なんたって私は、経験者だからね~》
改めて視界に映るモンスター図鑑に目を通す。
条件は2階で絞り込んでる。数は7体。内、未討伐のモンスターは3体。
その3体の中に、亜由美が言ったウサギも含まれてる。
未討伐のモンスターはガスクラウド、ゾンビ、ウサギと呼んでるヴォーパルバニー。
その3体の特記事項をささっと目を通す。
ガスクラウドは、単純な物理攻撃が効かない。魔法、超能力、陰陽師、その他属性付与スキルを有するサムライが当たるべし。
ゾンビは、毒に注意。
もし体内に毒が入ったら、速やかに生命維持優先モードに切り替え、解毒が完了するまでベースキャンプで待機することを推奨。
ヴォーパルバニーは、見た目に反して獰猛で執拗に急所を狙ってくるため、不慣れな内は過信せずにアイボーを活用すること。
過去に数多くのサムライの首を跳ね飛ばしたことから、2階の鬼門と称されたこともある。
現在は、先人の戦闘経験とそれを活用する技術の発展に伴い、昔ほどの脅威はない。
ガスクラウドについては、問題無い。
スキルで、刃機から射出される弾そのものに属性を付与することが出来るから。
加えて、死神討伐報酬で聖属性付与スキルを習得してる。
だからガスクラウドは、遠近両方で応戦できる。
ゾンビの毒については、特記事項を見る限り、任務の妨げるほどの障害ではなさそうだ。
秀矢は、サムライの手引書に記載されてた一文を思い返す。
――解析済みのデバフと状態異常はナノマシンが適切に処置します。詳しい対応については、各モンスターの特記事項を参照してください。
サムライに投与されてるナノマシンは、身体の強化だけでなく医療行為もする万能デバイス。
ヴォーパルバニーについては、アイボーのサポートに従えば対処可能、と言ったところだろう。
「そういやアイボーが亜由美になった場合、サポート機能はどうなるんだ?」
《どうなるもなにも、さっきまでのバトルは、ちゃんとサポートしてたわよ》
「そうなの!? 俺、全然、気づかなかった。そういうの得意だっけ? 亜由美は確かストラテジー系、苦手だったよな」
《そういうのとは勝手が違うわ。アイボーになったおかげだと思うけど、体の一部を動かすように物事を処理できるようになってるの。だから、アイボーの機能は使えるし、バトルのサポートもバッチリよ》
「ふーん。まあ戦闘に違和感はなかったし、今後ともよろしく頼むよ」
《まっかせなさい! でも……私がストラテジー系、苦手なのは忘れてほしいなぁ》
「ちなみに俺も苦手だ」
《おお! 私達、気が会うわね!》
一通り欲しい情報を仕入れた直後、図鑑を覆い隠すようにモンスター情報が映し出された。
モンスターと遭遇したようだ。
臨戦態勢を取る。
遭遇したモンスターの確認をする。
1階で見かけたモンスターもいるが、先ほど図鑑で確認した未討伐のモンスターの姿も散見される。
数だけなら、こちらの倍。
一人で倒すことは可能かもしれないが、一人で全てのモンスターを抑えるのは不可能。
そう判断した秀矢は、モンスターの群れを蹴散らすため、一歩踏み出す。
「止まれ、時田」
そう呼び止めたのは荒川だった。
「奴らは、俺一人で相手する。手出し無用だ」
「でも、あんなに数がいたら、何体かはこっちに来るじゃないですか。それなのに――」
《大丈夫よ、秀矢。荒川がやるなら、私達は何もしなくていいわよ。ほら、長光先輩も奈央姉も、そのつもりよ》
二人に目をやる。長光は涼しい顔をしており、日下部に至ってはハンマーを地面に置いてる。
荒川の言葉に、相当な信頼を寄せてることがうかがえる。
「空閑が、ああ言ってんだ。お前も刃機を置いて休んでろ」
「……わかりました」
秀矢は、亜由美の言葉を信じたため、大人しく荒川の言葉に従うことにした。
「刃機、抜刀ッ!」
気合の入った荒川の声に呼応して、両腕に装着した籠手型の刃機が淡い光を放つ。
モンスターの群れに真っ向から挑む背中が大きく頼もしく見える。
群れの側に近寄ると足音が消えた。
《秀矢。荒川の戦いぶり、よく見ておいて》
「言われなくても、そうするつもりだよ」




