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第37話 休憩時間

 正午を過ぎてたため小休止の最中、軽食を取る事になった。


 ベースキャンプには、栄養補給用の食料と水に、気分転換のための各種お茶類に保存が効く嗜好品が保管されてる。


 またマニュアルによれば、有名どころの市販薬からサムライの持病に合わせた薬も適宜、補充されるみたいだ。


 秀矢は、栄養補給用のチョコレートバーにかじりついた。


「甘ッ……きついな、これ」


《私は、そのくらいの甘さが丁度いいんだけどね》


「俺の舌には重すぎる」


 口の中をさっぱりさせるため、無糖の紅茶を一口飲む。


《はは。仕事だと思って割り切って食べるしかないわね。三大栄養素だけは完ぺきだから》


「ああ。我慢して食うよ」


《一応、アイスとか菓子折り向けの高級な菓子類もあるけどね》


「甘いのは、これ一つで十分だ」


《ちなみに、私が好きなケーキのはモンブランよ》


「覚えておくよ」


《へへ。楽しみにしてるわね》


 秀矢は胸やけを堪えながら、やっとの思いでチョコレートバーを完食した。


「なあ、亜由美、ちょっと聞いていいか?」


《なあに?》


「ダンジョン攻略の進捗って今、どんな感じなんだ?」


《第6階層のマッピングは完了。第7階層突入前って感じよ。――但し、去年はフルパだったからね。今年はどうなるんだろ》


「フルパということは、六人ってことだよな?」


《そうよ。去年は、殉職者いないし……そう考えると、先輩方が二人抜けた上に、私がいないのに4月の時点で第4階層なんて、凄いわよ》


「亜由美は何時頃、第4階層に行ったんだ?」


《私が初めて4階に足を踏み入れたのは8月。これでも例年より進捗が早いって言われたんだけどね》


「それを聞いて少しだけ安心したよ」


 安心した――これはダンジョンの探索領域が着実に、そして早く拡大してることに対する言葉である。


 本音を言えば、今すぐにでも第7階層に行きたい。


 秀矢の考えでは踏破済みの第1階層から第6階層の間に、アスクレピオスの杖はない。


 その根拠として『蛇が巻き付いてる杖』と聞いて、長光と亜由美の二人が思い当たる素振りを見せなかったから。だから未発見の代物であると推察。


 サムライの手引書を読む限り、任務中に見つけた宝は極力、地上に持ち帰る事が推奨されてるし、そうする事でサムライは特別手当がもらえる。


 そしてサムライは、金のために任務を遂行する。だから、わざわざ宝の存在を隠す理由がない。


 念のため任務開始前に、歴代のサムライが発見した宝の調査を亜由美に依頼したが、蛇が巻き付いてる杖、または蛇が絡む宝の存在は確認できなかった。


 今回の場合、実は過去に入手済みだけどデータベースから削除されてる、または既に当主である法龍院蛟牙が隠し持ってる、という可能性は考慮しなくていい。


 何故ならフローラと名乗るエルフの様子を見る限り、杖は複数存在することを示唆してる。


 だから、誰かが隠し持ってるかもしれない、という状況を考えるよりも、先に進む事を優先した方が可能性は広がる。


 秀矢はそのように考えていた。


 もとから蜘蛛の糸より儚く、か細い希望。


 奇跡と呼ぶことすら烏滸がましい願い。


 今はとにかく、目的を達成するために信頼を勝ち取り、1日でも早く1つでも深い階層に潜れるよう尽力する他ない。


「師匠、大丈夫? 疲れてない?」


「サクナ。俺は、大丈夫だよ」


「いきなり4階に潜るから緊張してるのかな? って思ったんだけど――」


「緊張はしてるよ。1階より手強いモンスターと戦うことになるからさ」


 日下部は、覗き込むような仕草で秀矢を見つめる。


 大人の女性の覗き込むような上目遣いに思わず心臓がドキリとする。


「……うん。その様子なら大丈夫そうね」


「どうも」


 日下部は「うーん」と言いながら伸びをした。


《セクハラよ》


「何もしてねえだろ」


《視線だけでアウトよアウト。セクハラとはそういうものなの》


 亜由美にセクハラと指摘され押し黙る。


「あみちゃ~ん。意識しないようにしてるのに、そういうこと言われると変に意識しちゃうから止めてよ~。余計に恥ずかしくなるから……こんなんだけど作業着みたいなものだし……」


 様子は見えないが聞いただけで、羞恥心で語気が弱々しくなってるのがわかる。


「みんな。休憩時間はお終いだ」


 秀矢を含む皆の視線が一斉に長光に集まる。


「そうちゃん。一気に4階に行くの?」


「徒歩で行くよ。4階に転移しても大丈夫だとは思うけど、今日の主題は新人育成だからね。時田くんの力は先ほど拝見した。――となると次は、僕たちの番だろ?」


「2階、3階の連中なら準備運動には丁度いいな」


 荒川は、右肩を回しながら言った。


「時田くんと空閑さんもいいかな?」


《いいんじゃない? 仮に、私が生きてたとしても同意するわよ》


「異論は、ありません」

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