第36話 第1階層 再調査
「第一階層A地点の転送が完了しました。ご武運をお祈りします」
初任務と全く同じ音声と言葉で目を覚ます。転送が完了したようだ。
辺りを見回す。
機材が並ぶ光景を見ても何とも思わなくなったが、日常ではお目にかかれない規格外のサイズのハンマーとサイコアームズが視界に映ると心臓が高鳴る。
全員、揃ってるみたいだ。
無言で転送装置から降りる最中、荒川が口を開いた。
「リーダー、まずは1階の探索だろ? 今のメンツなら2手に分かれても大丈夫だと思うが――」
「今回の任務は、4四人組んで遂行する。そもそも安全確認の主旨は、死神のようなイレギュラーなモンスターの存否確認だからね。万が一、イレギュラーに遭遇した場合を考慮すると、戦力の分散はリスクが高い」
「なるほど」
「それに新人育成も兼ねてる。だから、1階の戦闘は時田くんに一任して、僕らはフォローに徹する。こうすれば荒川くんは、彼の実力を測る事もできるしね」
「わかった。異論はねえよ」
「時田くんも、それでいいかな? 僕の見立てでは、1階なら君一人でも役不足だと思うけど」
「俺なら大丈夫です。雑魚だろうが死神だろうが何でも倒しますよ」
秀矢は自分に言い聞かせるように言った。
今、秀矢を突き動かしてるものは、金ではない。
推しであり、命の恩人である空閑亜由美の復活。
だから1秒でも早く、1つでも深い階層に進むため、足踏みをするつもりはなかった。
《こらっ、秀矢!》
視界の右上に、ふくれっ面の亜由美が映ってる。
「何だよ、突然――」
《昨日も言ったでしょ? 私のために無茶をしたらダメだって》
「そのつもりは――」
《顔にそう書いてある》
「見えるのかよ」
《思いつめた顔がハッキリと見えるわよ》
秀矢は、他の三人の様子をうかがった。
長光と日下部は、亜由美に同意するように「うんうん」と頷いてる。
荒川は、何とも言い難い微妙な表情だが、少なくとも視線は秀矢を捉えてる。
「時田くん。とても頼りがいはあるんだけど、まずは肩慣らしに、1階のモンスターの相手をする方がよさそうだね」
ベースキャンプを出た四人は、最初の任務である第1階層の探索を開始した。
第1階層は攻略済みのため、マップは既に完成してる。
後は、現在地から第1階層を踏破するための最短ルートをアイボーが導き出すので、それに沿って歩くだけ。
先陣は秀矢。後に長光、日下部、荒川がついて行く形となっている。
後はルートに従って歩き、道を阻むモンスターを倒すだけ。
《さっすが秀矢。1階じゃ、もう敵なしだね》
「死神討伐とエルフ遭遇の特別報酬のおかげさ」
特別報酬には、大きく分けて2種類ある。
一つは、特別手当。平たく言えば、お金だ。
特別手当は主に新しい発見、情報の更新、採掘までのルート開拓等、ダンジョンの解明や資源確保の貢献度合で得られることが多い。
もう一つは、強化。つまりスキルポイントと経験値である。
こちらは単純に強敵を倒した時に得られる報酬で、彼我の戦力差に比例して支給されるスキルポイントと経験値も増加する。
《特別報酬には私もビックリしたわ。死神を倒しただけで、ステータスとスキルポイントが生前の私と同等になってるんだもん》
「おかげで戦闘が捗るよ」
その後も順調に、第1階層を探索し続けた。
モンスターを倒しつつ、3時間が経過するころ第1階層を踏破した。
第1階層A地点の入口まで戻ると長光の提案で、小休止を取る事になった。
ベースキャンプに入るやいなや長光が口を開いた。
「安全確認の任務達成だ。みんな、お疲れ様」
「俺達は、ただ歩いてただけだがな」
「そうね~。師匠が想像より何倍も強かったから、私達の出る幕はなかったわね」
「時田のステータスを見た時は目を疑ったぜ。先日、サムライになったばかりの新人なのに、レベルとステータスが俺とほぼ同等だもんな」
「この調子なら時田くんを連れて、第4階層に行っても良さそうだね」
「異論はねえ。スペックだけなら十分だ。新人連れて4階でモンスター退治してこいって、最初は会長が耄碌したのかと思ったけどよ」
長光、日下部、荒川の三人の好意的な会話を聞いて気持ちが高まる。




