第35話 サイコアームズ
「はいはい、二人とも落ち着いて。あみちゃんの誘いを断ったのは、私も同じだからね~。私の場合、弟達の面倒を見るためだけど――」
《奈央姉は、お気になさらずに。今の私は、荒川に八つ当たりしてるだけだから》
「それはそれでどうかと思うけど――」
《いいじゃん。あいつが先に仕掛けてきたんだから》
日下部が割って入ったのもあってか、二人の会話はそこで止まった。
ただ荒川は今も明後日の方を睨みつけており、亜由美も負けじと凄まじい形相をしてる。
おそらく二人は睨み合ってるのだろう。
二人が意味もなく睨み合ってるのを尻目に、日下部はこれから刃機のセットアップを行うようだ。
「アイボー、刃機をお願い」
日下部が穏やかな口調で言った。
《かしこまりました。お嬢様》
続けて日下部のスマホから、艶っぽい男性の合成音声が流れる。
その直後、日下部が「しまった!?」と言いながら、あたふたする。
「し、師匠!? これは、その……私の生活にもたまには彩が、というか癒しが必要だから……いつもは違うのよ!」
日下部は、あからさまに動揺してる。
顔が真っ赤になっており、スマホを抱きかかえてる。
どうやら聞かれてはまずいものを聞いてしまったようで、その慌てぶりに居た堪れなくなり、目を背けたくなる。
こういう時は、そっとしておくのが最善。
本来なら、知らぬ存ぜぬで通すべきだが、本人にバレてしまっては致し方ないというもの。
《お嬢様、刃機の手配が完了しました。間もなく到着しますので、ご準備の程お願いします》
当のお嬢様が取り乱してる中、それらしきものが忽然と姿を現した。
ニーハイブーツと……とてつもなく大きいハンマー。
ハンマーは柄がナギナタのように長くシンプルな意匠だが、頭部はサンドバックのような大きい機械の塊で両口とも平たい。
素人目にも工具としては、あまりに大きく扱い辛い代物と言える。
(ハンマー、か)
秀矢は規格外のハンマーを見て、サクナらしい、と思った。
その理由は、ペイントゥーンでの彼女の立ち回りにある。
一言で言うと、位置取りがうまいのだ。
敵の死角に潜り込み、隙を見計らって奇襲をかけて、敵陣を荒らすのが得意なプレイヤー。
当然、小学生の時に一緒に出場した大会では何度も助けられてる。
サムライでも似たような立ち回りをしてるのだろうと思ったが、一つ気になる点があったので訊ねることにした。
「サクナ、武器はともかくとして、その靴は一体――」
「私の刃機は、ハンマーとブーツ、2つあるの」
「2つも!?」
日下部はブーツ型の刃機を慣れた所作で履いた。
その後、左大腿部の外側にあるホルダーらしきソケットにスマホを差し込み、ハンマーを軽々と持ち上げる。
涼しい顔をして重いものを持ち上げること自体、ここでは珍しくない。
問題は、1つだけでもしんどい刃機を2つ所持してるところだ。
1つの刃機を3時間、振り回しただけでも、任務終了後には凄まじい疲労感と倦怠感に見舞われるのに、それが2つとなれば、使用後の反動は想像を絶するに違いない。
考えただけで、だるくなりそうだ。
《二人の特徴を簡単に言うと、荒川は筋肉おばけ。奈央姉は体力おばけよ》
「あみちゃんなんて、本物のおばけじゃん」
《そうだ!? 私、死んでるんだった!?》
「日下部さん、空閑さん……話に花を咲かせてるところ悪いけど、そろそろいいかな?」
「うん。私は大丈夫だよ、そうちゃん」
《私もオッケーです。こんなんだから準備も何もないけど》
「それじゃ行こうか」
秀矢も後に付いて行こうと長光の方を見る。
すると、視界に映る長光の姿に驚愕した。
思わず足を止める。靴底を強くこする音が鳴り響く。
「時田くん。何かあったかい?」
「ええ……長光さんの……刃機、ですか? 何か腕っぽいものが沢山ありますけど」
今の長光のシルエットは、まるで背中に巨大な蜘蛛が張り付いてるかのように、六本の機械の臂が生えてる。
阿修羅とでも言えばいいのだろうか。
仏像の方は、3つの顔と6つの腕を持ち、三面六臂の語源となった神様。
長光の方は、生身の顔1つと2本の腕、そこに機械の腕が6つの一面八臂。
その出で立ちは、今日一番の衝撃を受けた。
「そっか、君はこれを見るのは初めてだったね。これはサイコアームズ。僕専用の兵装で、サイコキネシスが動力源の重機みたいなものだよ」
「はぁ……」
「今は時間が惜しい。詳細は任務中に、こいつを使う機会があれば、その時に説明するよ」




