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第34話 ロール

 四人はダンジョンの入口に入り、ベースキャンプに到着した。


 ここを通るのは3度目。ようやく見慣れない機材を目の当たりにしても、怯むことはなくなった。


 代わりに、緊張感で心拍数が上昇する。


 秀矢は初日と同じように刃機をセットアップした。


 すると、亜由美のバストショットが視界の右上に映し出された。


 それはさながらSF映画のようにコクピットのような狭い空間で、モニターに映し出されたオペレーターと通話する感じだ。


 実際はスマホがナノマシンを経由して、網膜に映し出してるだけに過ぎない。自分にしか見えない拡張現実である。


《どう? 秀矢、見えてる?》


 亜由美の口の動きと表情は滑らかに動くが、音声は刃機から流れてるため、耳が遠くなったように思えてしまう。


「見えてるよ。つうか、こんな機能あったのかよ」


《うん。ダンジョン探索で暇になった時とか、単独行動してる時、アイボーと会話するための機能なんだけどね》


「スマホを刃機に差したら画面が見えなくなるから、どうなるのかなとは思ってたけど、まさか映像として出てくるとはな」


《しゃべる剣というのも楽しそうだけど、みんながいるから、こっちの方がいいでしょ》


「俺としては亜由美の姿が見える方がありがたいけど、みんなには見えないだろ?」


《近距離なら映像の共有できるわよ。長光先輩、ちょっといいですか?》


 長光は既に、刃機を装着していた。


 どうやらセットアップは済んでるようだ。


「空閑さん、何かあるのかい?」


《リーダーの権限で私の姿をみんなに共有してもらえませんか? チャット欄とかは無しで、あくまで秀矢のアイボーの姿だけを映す感じで》


「たしかに今後の事を考えたら、任務中に空閑さんと会話する時もあるだろうし、その方がいいかもね」


 秀矢の視界に『リーダー権限により、あなたのアイボーを周囲のスマホと共有しました』という通知が映し出された。


「うん。任務中は、こっちの方がいいね。音声が剣から流れるのは仕方ないけど」


《そればっかりは、慣れてくださいよ》


 長光の口振りからして亜由美の姿が他の人達の視界にも映ってるようだ。


 一通りセットアップが落ち着いたので、日下部と荒川の方に目を向ける。


 二人はまだ着の身着のまま。これから刃機のセットアップをするようだ。


「アイボー、刃機をよこせ」


 荒川が命令口調で言う。


《司令官の許しが出た。直に来るよ》


 続けて荒川の方から、ぶっきらぼうな若い女性の合成音声が流れる。


 秀矢は、アイボーの性格に姉御肌があったのを思い出した。


 同時に、荒川にはお似合いだな、とも思った。


 そして荒川の目の前に、2つの小手がでてきた。


 意匠は秀矢の刃機と同様の、映画のセットを思わせる未来の世界。


 如何にも、機械の小手という感じだ。


 荒川は小手型の刃機を装着した。


 指抜きではあるが、肘関節の手前まで機械で覆われた腕に心を惹かれる。


 その後、左腕の外側にスマホを差し込む。


《秀矢。荒川の戦闘スタイルは見ての通り、超近距離特化型でサムライ随一の耐久力があるから、アーマーが強いタンクって覚えておけばいいわ》


「了解」


 しかし、今は別の問題がある。


 刃機のセットアップを終えた荒川は再び、秀矢に鋭い視線を向けたからだ。


(やり辛いなぁ)


 秀矢は、ギスギスした空気が苦手だ。


 緊張に敵意が加わる事で、息が詰まるような圧迫感と過剰なストレスによって、ゲームのプレイに支障が出るためだ。


 もっと強く言えば、険悪なムードに百害あって一利なし、とすら考えてる。


 約6年の配信活動の中で度々、チームの雰囲気が悪くなることは度々あった。


 フラストレーションが貯まってる時のゲームプレイは、必ずと言っていいほど粗雑で精彩を欠く。


 そんな状態で負けが込むと、さらに悪影響が増して、不毛な敗北を重ねる悪循環に陥る。


 最悪だ。


 しかも厄介なことに、これはゲームではなく、本当の命を賭けた仕事。


 それなのに、仲間内で足を引っ張り合う行為はデメリットしか見出せない。


《荒川、いつまでカリカリしてんのよ。これから仕事だってのに》


 不穏な空気を察したのか、亜由美が語気を強めてる。


「悪いな、空閑。俺はまだ新人の実力を知らないんでな」


《動画は見たでしょ? 私と長光先輩では手も足も出なかった死神を一方的にボコしてたじゃん》


「それは、必殺技を使ったからだろ? 必殺技は『ここぞ』という時のために温存しておくものだ。悪いが必殺技以外、ポンコツなら意味ねえんだよ。平常時でも強ければ、お前だって殉職しなくて済んだだろうによ」


《死んじゃったものは、仕方ないじゃない》


「死人がそれを言ったら世話ねえな」


《そう思うなら、あんたもくればよかったじゃん。そしたらワンチャン私が死なずにすんだかもよ》


「悪いが、平日は暇じゃないからな」


《どうせジムで筋トレしてるだけでしょ》


 その瞬間、そんなわけねえだろ、と言わんばかりに荒川が明後日の方を睨みつける。


 矛先は、亜由美に向いてるようだ。

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