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閑話:師匠とサクナ

 屋敷を出てダンジョンに向かう四人。長光と荒川は、後方の離れたところにいる。


 明確な距離の差は不明だが、少なくともお互いの会話は耳を傍立てても聞こえないくらいは離れてる。


 秀矢と日下部は横並びで歩いて、ダンジョンに向かってる最中だ。


《まさか秀矢と奈央姉が知り合いとは思わなかったわ》


「私も、まさか師匠が来るなんて思ってなかったわ。名前を聞かされた時は、確かに聞き覚えのある名前だし、年齢も合ってたけど、まさか師匠本人だなんて」


《奈央姉、それはどういう意味ですか?》


 亜由美が急に凄味をきかせた真面目な口調になる。


「リアルの知り合いの前で、こんなはしたない格好、普通できないわよ。今までは職場の同僚だけだったから耐えられたのに……」


《はしたないのは、体つきだろうが》


「好きで、こんな体してないもん。大体、大きいのだって良い事ばかりじゃないのよ! 服はなかなか売ってないし、売ってたとしても高いし――」


《ふーん、へー》


「それに、サイズにピッタリ合うものをやっと見つけたと思ったら、すぐ合わなくなるのよ!」


《最後は聞き捨てならないわ! どういう意味!?》


「……まだまだ成長が止まらないのよ」


《へえ~。そんなことで悩んだことないから、私、全然共感できませんね》


「あみちゃん、酷い。私は真剣に悩んでるのに……」


(そっか、まだまだ成長し続けてるのか)


 秀矢は目線を上げて、日下部の顔を見た。


(そういや大会の時も、彼女と話をするときは、こんな感じで見上げてたっけ)


 ふと小学4四年の時に出場したゲーム大会のある出来事を思い出した。


 それは、メンバー全員が揃った後、大会の受付に行った時のこと。


 当時から彼女の身長は頭抜けていて、傍目からすれば高校生と遜色のない出で立ち。


 顔立ちは年齢相応なのに、彼女の恵体のおかげで受付係の方に呼び止められたこと。


 同時に、小学生大会なのに大人が混じってるのでは? と他の選手たちから白い目で見られた。


 ただ幸いにも彼女はそれを見越してたため、|顔写真付きの身分証明書マイナンバーカードを係の方に提示して、事なきを得た。


 その時の係の方と彼女が平謝りしてたのは、今でも鮮明に覚えてる。


「師匠~、あみちゃんが酷いんだよ~。師匠のアイボーでしょ? 何とか言ってよ~。好きで大きくなったわけじゃないのに~……って、何でだんまりなの?」


「何か大会の時も、体の大きさでトラブルがあったなぁって――」


「し、師匠まで……」


「あの時のサクナも……ってゴメン、つい昔のクセでハンドルネームで呼んじゃった」


「ううん。私も師匠って呼んじゃってたし」


「日下部さんは何か、久しぶりにリアルで対面したネットの知り合い、って感じだから本名で呼ぶのに変な抵抗感が――」


「だったら『サクナ』でいいよ。そのかわり私も『師匠』って呼ぶから」


《ふーん》


 亜由美が当て付けるように不機嫌そうな声を出す。


「そういえば、あみちゃんと師匠も何か、元から知り合いって感じよね。あみちゃんが有名配信者なのは知ってるけど、師匠の方は――」


「あの、俺もこう見えて、一応プロゲーマーでストリーマーなんだけど――」


「――そうだったんだ!? ごめん、私、普段はお料理動画しか見ないから」


(実際、これが俺と亜由美の差だよな)


 秀矢は、自分の知名度の低さを突きつけられ落胆する。


《大丈夫よ、秀矢。傷口は浅いわ》


「そうか。よくわからないけど、ありがと」


《大抵ブレイクする前は、その筋で有名な配信者と比較されるものよ。あることない事、SNS上で書き散らされるの。私もそうだったし》


 亜由美なりに慰めてるつもりなのだろう。


 ただ、その声音には悪気を感じなかったので、素直に受け止めることにした。


「そういえばサクナ――」


 もうゲームはやってないの? と言葉を口にする前に止めた。


 小中とゲームが日常に浸透しており、さらに収入源にもなってた秀矢と違い、普通の人は時が経つにつれて他の事に興味が移り、ゲームから離れる方が当然と言っても過言ではない。


 さらに言葉に躊躇した理由はもう一つある。


 それは大会終了してから数か月後、サクナはSNS上でゲームの引退を表明したからだ。


『突然ですが諸事情により引退します。今まで仲良くしてくださったフレンドの皆様、ありがとうございました』と短く、素っ気無い挨拶文が投稿された日を境に、チャットサーバーはオフラインのまま、SNSで新しい投稿を見かけることもなかった。


 ゲームは、数ある娯楽のうちの一つに過ぎない。


 そして娯楽を初めるのも止めるのも、わざわざ誰かに伝えたり、許可を頂く必要はない。


「ん? 師匠、どうしたの?」


「こうみえてもアイとは、何度かコラボしたんだよ」


「そうなんだ~。でも、私がアイの存在を知ったのは、動画を見たわけじゃなくて、クラスの男子にアイのファンがいて、その人のお喋りがたまたま耳に入っただけなの。だから名前だけは聞いたことがあるくらいで……」


 この様子だと、完全にゲームから離れた生活を送ってるみたいだ。


 こうなると、いくら面識があってもゲームの話題を振るのは控えた方がいいだろう。


《そうそう。顔出しで登録者100万人って思ったより認知度が低いって思ったわ。だから自己紹介した時の温度差は凄かったわよ。長光先輩と任期満了でいなくなった二人は驚いてたけど、奈央姉と荒川は『何、言ってんだコイツ』って顔してたし――》


「それは認知度というより、場の空気にそぐわない発言をしたから、ちょっと引いただけよ」


《だってほら、最初が肝心って言うじゃない?》


「だからって小学生時代に蔓延ってた動画の冒頭みたいなノリをリアルでやるのは、見てる方が心苦しいというか痛々しいというか」


(一昔前のやり方となると、きっと捲し立てるような挨拶と自己アピールをしたんだろなぁ)


「そういえばさ。師匠とあみちゃんの二人は、サムライになる前に、リアルで会った事あるの?」


「無いよ」


 秀矢は即答した。


《……確かにそうだけどさ。無理があるのはわかるけど、そんなにハッキリ言われると全否定されたようでムカつくわね》


 亜由美は小言で呪詛のようにブツブツとつぶやいてる。


「あみちゃん、何で怒ってるの?」


「さあ……?」


 秀矢からみたら、紛れもない事実を口にしただけで機嫌を損ねるのは、理不尽としか考えられなかった。

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