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第33話 死の映像

 屋敷を出てダンジョンに向かう四人。


 前方には、秀矢と日下部が並んで歩いてる。


 長光と荒川は、秀矢たちの後方にいる。


 長光は、荒川の様子が気掛かりだったので屋敷を出る時「道すがら少し話がある」と声をかけた。


 前の二人に、話声が伝わらない距離を取ってから荒川が口を開いた。


「あんたがいながら、何で空閑が死んだんだ?」


 感情を押し殺したような口調。


 それは、長光の想定内の言葉だった。


 故に、動揺することもなく、事実のみを伝えることにした。


「実は、死神戦の報告に書いてない事がある」


「空閑が死んで新人が仇討ちをした。それ以外にあるのかよ」


「僕のウルトには……彼が死神に殺される映像が流れた」


「それ、本当かよ!?」


 荒川は、信じられない、と言わんばかりの表情を見せた。


「それが要因かどうかは定かじゃないけど、空閑さんは躊躇う事なく、身を挺して時田くんを守って、命を落とした」


「……」


「そうそう。今日の僕は、ウルトが使えるまで回復してないから、そのつもりで任務に当たってほしい」


「何で今、言うんだよ!? そういう大事なことは全員、集まってる時に言えよ!」


「空閑さんがいないとは言え、僕たち三人なら4階でも何とか戦えるはずだ。そこに、死神を撃破した期待の新人が加わる。むしろウルトが発動する事態になるとは思えないよ」


時田(あいつ)は、そんなに信頼できるのか?」


「実力は確かだよ。それに、報告書に添付した動画が信じられないなら、今日の任務を通じて、君自身の目で確かめてみるといい」


「どうだかな」


「それとも空閑さんの誘いを断ったことを後悔してるのかい?」


「……」


「そこに関しては、気に病む必要はない。1階なら新人一人のフォローは、僕と空閑さんの二人でも十分。僕もそう思ったし、何よりお館様が判断したことだ。誰かに、落ち度があるわけでもない。そもそも1階で、ボスクラスの敵と遭遇すること自体が想定外さ。もし僕が、君の立場なら、同じように断ってたよ」


「リーダーは今年、大学受験だろ? 貴重な春休みに勉強しなくていいのかよ」


「1日くらいなら問題ないさ」


「そうかい。まあ俺は、春休みとは無縁だからな」


 二人の間に静寂がおとずれる。


 しばらくの間、黙って歩く。


 遠い目をする荒川に対し、まだ憂いがあるのだろうと思い、声をかけることにした。


 長光が危惧してるのは、秀矢と荒川の間にある不穏な空気が任務に悪い影響をもたらすこと。


「空閑さんが亡くなったこと、そんなにショックだったかい?」


「リーダーは、どうなんだよ」


「彼女の場合、死んでも尚、人のスマホに取り憑いては、あの調子だからね。おかげで死んだ気がしない。今にも化けて出てくるんじゃないかと思ってるよ」


「化けてるようなもんだろ」


「それにしても『人死に』という点においては、君の方が慣れてると思ってたんだけどね」


 荒川の眼光が鋭くなる。


「おい……わかってて言ってんのか?」


 それは、怒りや憎しみといった激しい負の感情を無理矢理抑えつけるような、低くて凄味のある声だった。


 しかし、長光は怯む事なく毅然としている。


「4月に入って名実共にリーダーになったからね。。君達がサムライになった経緯(いきさつ)は把握してる。もっとも僕が閲覧できるのは、シノビ衆の報告書くらいだけどね」


「俺は、あいつが死ぬのをこの目で見たわけじゃない。だから余計にムカつくんだよ。覚悟が決まってねえのに、いきなり死んだって聞かされてよ。これなら任務中に、目の前で死なれた方がマシかもしれねえな」


「恐ろしい事を言うな、君は――」


「こっちの仕事は、そういう時もあるんだろ?」


「まあ実際、空閑さんは僕の目の前で亡くなったからね」


 荒川は「ふぅ」と短い嘆息を吐いた。


 眉間のしわが消え、目つきが穏やかになる。


「俺からしてみれば、リーダーの方が怖えよ。リーダーの任期中に出た殉職者。空閑で二人目だろ? なのに、ケロっとしてるからさ。……もしかして、サイコパスって奴か?」


「な、何を言う! そんなわけないだろ!」


 長光は、サイコパスという単語に動揺し、声がどもる。


 その反応に何を思ったのか、荒川が怪訝な顔をする。


「しかし、君の言い分はもっともだ。僕自身、知人の死をあっさりと受け入れ、それを引きずらない自分を疑った事もある」


「そうなのか」


「敵を知り己を知れば百戦危うからず、という言葉もあるからね」


「何で孫子が出てくるんだ?」


「ちゃんと検査したんだよ。自分がサイコパスなのかどうか」


「……そういうの気にするキャラだったのか。意外だな」


「僕だって、人の死に直面したら少なからず動揺する。空閑さんの時もそうだった」


「ふーん」


「でも、死を認識して数日経過した後は違う。どうしても他のサムライ達と温度差が気になった。知人の死を長期にわたって引きずるのが続けるのが普通で、僕みたいなのは異常者なのかって。だから護衛のシノビ衆に頼んで、僕がサイコパスなのか、確認してもらおうと相談した。そしたら『安心しろ。お前は歴代のサムライの中でも屈指の常識人だ。何故なら勧誘時に行ったアンケートの千を越える質問の選択肢に忍ばせた禁忌肢(きんきし)を一つも選ばなかったからな』と言われた」


 この話には続きがあるが、意味がないので伏せることにした。


 ただ当時、電話越しに聞いたシノビ衆の話だけを思い返した。


(『もしくは自分自身が異常者であることを自覚してるが故、常人を装ってる可能性……が、さっきまではあったが、電話越しでも笑えるほどのお前の慌てぶりを聞いて、その線は消えた。もし演じてるなら、わざわざ、僕はまともな人間でしょうか? なんてバカな事をシノビ衆に聞くわけがない。何故なら、自分自身の事を正しく認識する知能があるなら、異常者であることを周囲に隠すからだ。だから、こんな足が付きそうな真似をするわけがない』)


 褒められてるのか貶されてるのか、はたまた両方なのか。


 その真意は、定かではない。


 ただ思い返す度に、穴に入りたくなる。


「リーダー、キンキシって何だ?」


「別名ドボン問題とも呼ばれてて、その選択肢を選んだら最後。仮に点数が合格基準を満たしてても、不合格になる特別な選択肢のことさ。例のアンケートの場合、質問の数が多いし、何より精神が成熟してない若者なら、無意識にいくつかの禁忌肢(きんきし)を選んで当然らしい。そもそもアンケートに禁忌肢(きんきし)を用いること自体、普通はあり得ないけどさ」


「その割には、やけに嬉しそうじゃねえか」


「うっ! そ、そういうわけで……僕は、決してサイコパスではない! いいね?」


「あ、ああ……ちょっとした話のタネに、と思った程度だったんだが――」


「確かに僕は、超能力者だ。パイロキネシスも使えるし、サイコキネシスだって使える。でもな……サイコがかぶるからと言って、僕は断じてサイコパスではないからな!」


「……地雷ってのは、思いもよらないところにあるもんだな」

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