第32話 間違いない
「昔と違って、髪をバッサリ切ったでしょ? それで思い出すのに時間かかっちゃった」
日下部の目が大きく開いた。
どうやら当時と印象がガラっと変わったことに気づいたようだ。
「確かに、うん。それなら仕方ないか……髪が長いと、戦いの邪魔だから切っちゃったんだよね」
「あと……その……」
「ん?」
「ファッションセンスが大人っぽいというか大胆というか……」
「――!?」
日下部の顔が一瞬で真っ赤に染まる。
そして逃げるように、背を向けてから着席した。
自分を小さく見せるためかセンシティブな局部を隠すためか、首をすくめて大きな背中を懸命に丸めてる。
隠そうとしても隠しきれない恵体がぷるぷると震えてる。
「これは好きでこんな服着てるんじゃなくて……私の戦闘スタイルの都合で……そう、お仕事。……お仕事のために仕方なく、はしたない格好してるだけなのよ~」
羞恥心のためか、日下部の口調はとても儚げで、ところどころ吃音が混じってる。
サロンには、何とも言い難い微妙な空気が流れる。
長光は、呆れてるのか短い嘆息を吐いた。
荒川は、興味がない素振りのためか、両目を閉じる。
《まったく、これだから男子は》
服の内ポケットに詰め込んだスマホから亜由美の呆れ声がした。
そのおかげで、サロンの空気が一変し、皆の注目が秀矢に集まる。
特に日下部と荒川は初めてのためか、目を丸くしてる。
「今のが、リーダーの報告にあったやつか。空閑が、新人のアイボーになったっていう」
荒川が不思議そうに言う。
「確かに今の感じは、あみちゃんっぽいわね」
日下部は半信半疑と言った感じだ。
「時田くん。せっかくだし、二人に見せたらどうだい?」
「わかりました」
秀矢は内ポケットからスマホを取り出し、テーブルの上に置いた。
《私の名前は、空閑亜由美。ひょんなことから秀矢のアイボーになった現役女子高校生アンド超人気ゲーム配信者アイよ》
画面に映る亜由美は、精一杯のアイドルらしい仕草を披露してる。
ただサロンにいる視聴者には、受けがよくないみたいだ。
日下部、荒川の二人は、あからさまな疑いの眼を向けてる。
「この、人を食ったような言い回しだけなら、間違いなく空閑なんだが……」
「見てる方が気の毒になるような痛々しい所作は、ストリーマーっぽいところはあるわね。あみちゃんみたいに――」
《私は正真正銘、この世に二人といない空閑亜由美よ》
亜由美の主張も虚しく、二人の疑惑は晴れてないようだ。
「リーダー。アイボーって、つまるところAIだろ? AIなら、ある程度、人間を真似ることはできそうだよな?」
「そうちゃん。いくら私でも、死んだ人がスマホの中に入り込むのは、ちょっと信じられないかも。一昨年、先輩が殉職した時は何もなかったし」
「二人の言い分はもっともだ。しかし、時田くんのスマホに、空閑さんの魂が入ってることを認めたのは、他ならぬお館様だ」
《そうそう。こう見えて、じっちゃんのお墨付きなのよ。だから荒川、奈央姉。今後は、秀矢共々よろしくね》
「師匠、少しスマホを借りてもいい?」
「別にいいけど」
日下部は、テーブルの上にあるスマホを掴み取った。
特に何をするわけでもなく縦型動画を視聴するように、じーっと秀矢のスマホを見つめてる。
《奈央姉、前々から思ってたけど、間近で見ると迫力がありますね》
日下部は咄嗟に、左腕で自身の胸部を覆う仕草をする。
仕草となる理由は、日下部が隠したい物の表面積に対し、左腕の面積が圧倒的に不足してるためだ。
本人にその気はないかもしれないが、その仕草は秀矢の心を悪戯に刺激しただけにすぎない。
「何で男の子がいる前で、そういう事を言うのかな?」
《はぁ、私も胸が盛れたらな~。秀矢の視線を独り占めできたのに》
「え!? 師匠!?」
「何で、俺なんだよ!?」
《いい? 秀矢! 女の子はね、そういう視線には敏感なんだからね。気を付けてよ!》
秀矢は思わず首を縦に振った。
亜由美の言葉に同意してるのか、日下部も「うん、うん」といいながら首を縦に動かしてる。
《――ったく、こんなの乳でけーだけだろ。ホルスタインがよぉ》
「あみちゃん。一生懸命、小声で言ってるつもりだと思うけど聞こえてるからね」
「リーダー、こいつが空閑なのは十分、理解した。少なくともアイボーのAIは、こんなアホみたいなこと言わねえ」
「そうか。奇遇だな。実は、僕も今の今まで半信半疑だったけど、これで確信した。あのアイボーは間違いなく空閑さんだ」




