第31話 荒川大樹と日下部奈央
4人は、広大な和室を出た。
直後、長光の提案で自己紹介をするためサロンに寄ることとなった。
サロンは初任務の時、長光が待機してた場所。
部屋に入るなり各人、好きな席に腰をおろす。
ガタイのいい男性の鋭い眼光が突き刺さる。
「うーん、柔らかい椅子に座れば、ささくれ立った心が軟化すると思ったんだけど」
長光が言った。
すると、ガタイのいい男性が口を開いた。
「こいつがリーダーの話にあった新人だろ? 死神をぶっ倒して……空閑を死なせた――」
「荒川くん、仲間が死んで怒り心頭になる気持ちは理解できるけど、彼は敵じゃない」
「わかってるけどよ――」
「敵じゃない事が理解できるなら落ち着いてくれ」
「……ッ!」
ガタイのいい男性――荒川は、観念するかのように息を整えた。
「それじゃ日下部さん、荒川くん。二人とも簡単に自己紹介を頼むよ」
長光が二人に促す。
長身の女性――日下部と荒川の視線が交差する。どちらが先に切り出すのか、決めかねてるのだろう。
待つ事、数秒。
立ち上がったのは、荒川だった。
ただでさえ、威圧感のある巨体に険しい顔つき。
同じ職場の仲間でなければ、関りを持ちたくない人種だ。
「俺の名前は、荒川大幹。空閑の同期だ」
荒川は、他人行儀な口調で簡潔な自己紹介をすませた。
「俺は、時田秀矢と言います。よろしくお願いします」
当たり障りのない返事をすると、荒川は自分の席に座った。
着席した途端、顔を長光の方に向けた。
次いで、日下部が起立した。
彼女の出で立ちに、何故か懐かしさを感じる。
「私の名前は、日下部奈央です」
日下部の大きな瞳と目が合う。
言葉が詰まってるのか、薄紅の唇がもごもごと動いてる。
《自己紹介なのに、この意味深な沈黙は何なのよ》
亜由美が小さな声でぼやく。
日下部に注目が集まってる中、意を決したかのように、日下部の口が開いた。
「あのー……『サクナ』って言えば、わかるかな?」
日下部、サクナ、長身の女性……秀矢の中で、この3つのワードが符合する。
直後、「思い出した! サクナ!」と、咄嗟に声を張り上げた。
「へえ~、日下部さんと時田くんは、知り合いなの?」
「はい。6年前に出場したペイントゥーン大会、小学生部門でチームを組んだことがあります」
長光の質問に秀矢が返答した。
すると、日下部が秀矢の後に続いた。
「当時、私がチャットアプリで大会出場メンバーを募集した時、師匠が応募してくれたんです」
「師匠? 時田くんのこと?」
「うん。大会に向けて練習を重ねてく中で、私に色々と教えてくれたから、何となく師匠って呼ぶようになったんですよ」
「まあ、こちらとしては二人が顔見知りなのは、ありがたい。今後も仲良くやってくれると助かるよ」
そう言って、長光は話を打ち切った。
「それにしても、酷いなぁ師匠は」
「え? 何が?」
「私は、師匠の顔を一目見ただけで思い出したのに、師匠ったら私を見ても、ピンと来てなさそうな顔してたし」
「それには、ちょっとした事情があって――」
「それって、どういう意味?」
日下部がぐいっと顔を寄せてくる。
可愛らしい顔は、眉が吊り上がって、頬はぷっくらと膨らんでる。
ただ秀矢がすぐに思い出せなかったのは、相応の理由がある。
それは、秀矢の記憶に残ってる大会当日の日下部の容姿にある。
そもそも秀矢と日下部がリアルで対面したのは、大会当日の1日のみというのもあるが、それ以外にもオフの大会には日本特有の文化がある。
それは身バレ防止のために、大会参加者はマスクを着用する風習があり、特に学生には多くみられる。
秀矢と日下部も例にもれず、二人ともマスクを着用して大会に臨んだ。
さらに当時の日下部は、今と同様に長身ではあるが、髪はロングヘアだったため、秀矢の中で日下部は『年上のお姉さん』という印象が強く残っていた。
つまり、今と昔とで印象が大きく異なるため、記憶から掘り起こすのに苦労したのだ。




