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第30話 敵対勢力の排除

 今日は、4月第1週の土曜日。


 本来は、初仕事の日であるが、秀矢にとっては二度目の出勤。


 法龍院家の廊下を歩く、秀矢の足取りは重い。


 その理由は空閑亜由美の死が、既存のメンバーにどこまで影響を与えてるのかが未知数のためだ。


《秀矢、緊張してる? 心音が凄いけど》


「まあな。今日は、先輩方が勢揃いなんだろ? 今日で2度目とは言え、初対面の人がいると思うと気が重いよ」


《あっはっはっ。そんなに身構えなくても大丈夫よ。二人とも良い人達よ》


「――だと、いいんだけどな……」


 秀矢は、ゆっくりとふすまを開けた。





 その部屋は以前、法龍院家当主の蛟牙から刃機を受け取った広大な和室。


 毎週土曜日、任務開始前に、この和室に集まるのが慣例とのこと。


 和室には、蛟牙と長光。


 そして初任務の時には見なかった、2名のサムライの姿があった。


 長光を含む三人のサムライは歓談にふけってたのか、和室にも関わらず立っている。


 蛟牙は初対面の時と同様、部屋の最奥の少し高い位置であぐらをかいてる。


 秀矢は、勇気をもって一歩足を踏み入れた。


 和室にいる四名の視線が秀矢に集まる。


 授業中の教室に、遅刻して入室するのは、こういう感じなのだろうと思った。


 秀矢は三人の所に行く前に、初めて顔を合わせる二人の様子をうかがう事にした。


 一人は、とてもガタイがよく、日焼けした肌が印象的な男性。


 背丈は、三人の中では、おそらく一番高いと思われる。


 ボディビルダーを彷彿とさせる筋骨隆々の体型に、すっきりとした短い黒い髪と精悍な顔だち。


 半袖のTシャツにジーンズという装いから、ファッションに関心が薄いことがうかがえる。


 袖から伸びた太い腕、人差し指と中指の第三関節が異様な膨らみ――拳ダコがある。


 こんもりと盛り上がってる胸、腰よりも圧倒的に太い逆三角形の上半身が男らしさを十二分に演出してる。


 もし彼が笑顔を浮かべながら晴天下のビーチを歩けば、人目を引くのは想像に難くない。


 だが今は、せっかくの顔立ちが台無しになるくらい物凄い剣幕で秀矢を睨みつけてる。


 早々に危惧してたことが現実になったことを思い知らされた。


 もう一人は、一目見ただけでわかる非常にグラマーな体形をしてる女性。


 背丈は、側にいるガタイのよい男性並にある。


 男女関係なく長身に分類されるだろう。


 豊満なバスト、括れた腰、程よく肉付きのよい長い脚。


 どこを切り取っても、本人の意志とは無関係に、女性を強調するフォルム。


 丸みのあるショートヘア、ぱっちりと開いた瞳だが目尻は鋭く、長身なのも相まって、大人っぽい印象を受ける。


 だが、秀矢を惹きつけてるのは、それだけではない。


 彼女のファッションが、より女性らしさに拍車をかけてるためだ。


 長身でグラマラスなのに、タイトなTシャツにホットパンツのため、豊かで蠱惑的なボディラインがくっきりと浮かび上がる。


 そこに、ニーハイソックスと白い太腿が織り成す、扇情的なストライプも加わる。


 彼女の風貌そのものが、思春期の男子には刺激的で、目の毒といっても過言ではない。


 そんな彼女は、ガタイのいい男性とは対称的に、興味津々といった様子でこちらを見てる。


 二人の温度差に、開けたふすまを閉じるのが精一杯で、輪に入ることに躊躇した。


「これで全員揃ったな」


 蛟牙の声が広い和室を駆け抜ける。


「時田、そんなところでぼーっと突っ立ってないで、早くこっちに来い」


 秀矢は言われるがまま、三人のもとに向かって歩いた。


 近づくにつれて、ガタイのいい男性の視線が鋭く、痛くなる。


「今日の任務だが」と蛟牙が切り出すと、三人の目が蛟牙に向く。


「既に連絡は行ってると思うが先週、殉職者が出た。従って、今日の任務は前回に引き続き、新人の時田秀矢の育成に注力してほしい。任務の詳細は伝達してるが、口頭でも説明しておく。一つは、第一階層の安全確認。二つ目は、長光、日下部(くさかべ)荒川(あらかわ)、時田の4名で、第4階層の敵対勢力を一定数駆除すること。以上だ」


(日下部?)


 秀矢は、日下部という名前に引っかかるものを感じた。


 三人の方を見る。


 長身の女性は、凛々しい顔をしてる。


 きっと蛟牙の話を真剣に聞いてるのだろう。


 ガタイのいい男性は、何か物言いたげに、苦々しく唇を噛み締めてる。


「お前達、何か質問はあるか?」


「お館様、よろしいですか?」


「言ってみな。長光」


「第1階層の安全確認とは、先日遭遇した死神の存否確認、という認識でよろしいですか?」


「そうだ。こっちでも入口から採掘ポイントまでの安全は確認できたが、ルートの外までは見れてねぇ。だから、第1階層を隅々まで探索してもらいたい」


「承知しました。2つ目ですが、先日の任務終了後に申請した戦力補充の件はどうなってますか?」


「ご覧の通り、空閑の代替はまだいない。だから今日の任務は、新人育成の続きだ」


「では最後の質問です。もし死神に再び遭遇した場合、どうすればよろしいですか?」


「リーダーに一任する。駆除出来ると判断したなら応戦してもいいし、不可と思うなら撤退してもいい」


「無茶をしなくてもいい、という事でよろしいですね?」


「ああ。わしとて、犠牲者を出すのは本意ではない」


「ありがとうございます。僕からの質問は以上です」


 蛟牙は、辺りを一瞥する。


「他には……いないようだな。よし、話はこれで終わりだ。武運を祈る」

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