不具合だらけの無駄話
「俺のだって、スケールシリーズの最新型で、時田のと同じ機種なのに、試供品ってだけで、こんなに違うんだな」
「カタログスペックは同じだよ。違うのは、アイボーだけだ」
「ワイバーンゲーミング主導の、プロゲーマー兼ストリーマー『アイ』のアバターコラボ……のはずだよな?」
「そうそうガワだけ。試供品だから、もしかするとアイボーもバージョンアップしてるかもしれないけど、俺にはよくわからん」
「まあ、いいか。何はともあれ、貴重なスケールユーザーだ。おかげで、うちのアイボーの成長が捗るよ」
このクソバカデカスマホは、独自の通信機能で少し離れた位置の同系統機種とコンタクト取る事ができるらしい。
だから亜由美は、まさかのスケールユーザーの発見に驚いて声を上げたのだ。
――で、声を聞いた百瀬が自分のスマホを見て、同士がいることを察知したらしい。
しかも、旧世代の携帯ゲーム機のように双方向通信することで、アイボーが裏で色々と学習できるようだ。
亜由美によると、百瀬のスマホのおかげで授業中もあまり退屈しないようだ。
最初は、AIと真面目にコミュニケーションを取ることに抵抗を感じたけど、ゲームのCPUみたいなもの、と考えるようにしてから抵抗感が消えたらしい。
バックグラウンドで、百瀬のアイボーとゲームで遊んだり、色々な画像や動画を見せて、おちょくってるようだ。
百瀬と会話してる中、ピーピー、とケトルの電源プレートから音が鳴る。
百瀬は、紙コップにインスタントコーヒーの粉末を入れ、湯を注いだ。
俺は棚の中に存在する唯一ノンカフェインである、ルイボスティーを選択した。
俺と百瀬は、お茶の準備が終わると、示し合わせたかのように椅子に座り、弁当を広げた。
そして、百瀬はポケットから、普通のスマホを取り出した。
「しっかし、あの会社が試供品ね……未だに信じられないよ」
「元々、ドマイナーな機種だからな」
「そうじゃなくてさ。俺、自分で言うのも何だけど、ガジェットの類には目が無くてさ」
自腹でクソバカデカスマホを買うくらいだからな。
こんなの普段使いのメイン機種で選ぶ奴は、いないだろう。
「だから、ただでさえ珍しい機種の試供品イベントなら、事前情報は無理でも、事後ならアンテナに引っかかるはずなんだよ。だけど、そんな情報、未だにネット上には噂の欠片も見当たらない」
「そもそも今の時代、商品モニターなんて大々的にやらないだろ。俺が選ばれたのは偶然だよ。たまたま、ワイバーンゲーミングのファンミーティングに行った時、声をかけられたんだ。そこで、人気絶頂のアイとのアバターコラボのモニターになってくれって言われたんだ。それで、お小遣い稼ぎに丁度いいかな、と思って引き受けたんだが……」
「何だよ時田、その不服そうな顔は。俺への当てつけか?」
「代償がな……3年間、SIMカードの新規契約を禁じられてるんだ」
「マジかよ。だから普通のスマホを持ってないのか」
「おまけに、ブラックリストに登録という徹底ぶり。オーバーキルもいいところだよ」
「ふーん。まあ、いいや。そんな事より――試供品の件、動画のネタにしていいか?」
「……動画? 百瀬、チャンネル持ってるのか?」
「おう。ガジェットとアプリの紹介チャンネルを運営してる。割のいいバイト代には、なってるぜ」
「チャンネル運営はともかく、大っぴらに収益の話をするのは関心しないな」
「だから個室で、お前に話してんだよ」
「言っておくが、俺はチャンネル運営なんてしてねえぞ」
「でも、金持ちって噂だぜ? 小学校の頃から毎年スマホを機種変して、オマケ付きの菓子を大人買いしてたって中学の時、友人から聞いたぞ」
お小遣い制の小学生から見たら十分、金持ちに映るか。
ただ、プロゲーマー兼ストリーマーで活動してたことは伏せておきたい。
だから将来のリスクヘッジの一環として、顔バレを避けるために、嘘のディテールを準備してきた。
「親が倹約家だから、お小遣いが多かっただけ。その代わり、物心がついた時から家族旅行には一度も行った事がないよ」
「何にせよ、お前なら人の金を当てにしない。……違うか?」
「なるたけ、自制心を保つようにがんばるよ」
「大袈裟だな。――で、話は戻すが、試供品の件、動画のネタにしていいか?」
「ダメだ。守秘義務ってものがある」
これは、本当だしな。
それに、人工知能で誤魔化せるとはいえ、アバター化した亜由美を無闇に晒したくない。
《秀矢。今、百瀬のチャンネル見てみたけど結構いい感じよ。すぐ本題に入るし、要点を端的にわかりやすく解説してるし、動画の尺も短いから、飽きずに観られるわ》
「へぇ~、ありがと。AIなのはわかってるけど、そんな風に言われると嬉しいよ」
なんか腹立たしいな。
《合間の与太話も良いアクセントね。――結構スベってるけど、それも愛嬌かな》
「精進します……って、やっぱり時田のアイボーはいいなぁ。キーフレーズを口にしてないのに、人間並にレスが早いし……実は、ビデオ通話してるとか?」
「試供品だからな。色々と試行錯誤してるんだろ」
「でもなぁ……アイボーというより、ゲーム配信者のアイと話をしてる、って言われた方が納得感があるんだよなぁ」
「おいおい、俺が亜由……じゃなくて、アイと知り合いとでも言うつもりか? それこそ、天地がひっくり返ってもあり得ねえよ」
ちなみに学校では、本名ではなくハンドルネームで呼ぶようにしてる。
これは亜由美本人から、他人から名前で呼ばれたくない、と強い要望があったからだ。
「うーん、でも……彼女が活動の休止を発表した日と、入学式の日が一致してるしなぁ」
「別に不思議じゃないだろ。大抵の会社は、4月から会計が始まるんだし、活動の区切りとしても丁度いい。公式声明が遅いのが気掛かりだけどさ」
何せ、発表した日と活動休止の開始日が同日だからな。
1リスナーだったら、引っかかる箇所だ。
「あー、でも……活動休止が本当なら、そもそも自社製品のビデオ通話なんてやらないか」
「そうそう。登録者100万人超えのアイと、しがない高校生の俺に接点があるわけないだろ」
《えー、散々コラボしたのに~》
「コラボ?」
「ただの不具合だろ。AIなら所属タレントの個人情報、性格、口調、活動経歴を履修して、なりすます事くらいはできるさ」
「……それも、そうか。AIがおかしな回答するのは、昔からよくある事だしな」
「そうそう」
我ながら素晴らしい詭弁だ。
今後、亜由美がおかしな事を言ったら全て不具合という事にしよう。
《ひどいわ! 先輩に向かって、なんてこと言うのよ!》
「ひどい不具合だな」
「確かに。まるでリアルの知人みたいな素振り。感情がないAIが、人間の真似をするのは痛々しいな」
《うぅ……一緒に、お風呂に入った仲のに》
「深刻な不具合だな。公共の場で、持ち主の人格を貶める発言はダメだぞ。こういうのは開発者にフィードバックしないとな」
「時田、ついでに試供品を俺にまわすようにフォローしといて」
《秀矢、大好き!》
「……」
「時田がバグって、どうすんだよ」
「これは、あれだ……フリーズだ」
「フリーズも不具合の一種だろ」
仕方ないだろ。
推しからの好意的な言葉は、ガチ勢には効果抜群なんだから……。
《私の悩み、その6。学校では、不具合扱いされること》




