とある日の昼休憩
数日後。
4時限の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「今日は、ここまでです」
続いて、数学担当且つ担任の女性教師が冷淡に言うと、黒板消しを手にした。
ちなみに担任は、レディススーツがビシッと決まったシゴデキって感じの大人の女性だ。
「時田、飯でもどうだ?」
教科書とノートを机の中に放り込むと同時に、百瀬に声をかけられた。
頭髪は短く、顔は程々に整っており、自己肯定感が高いのか表情は生き生きとしてる。
中背中肉で、如何にもな好青年という感じで、あふれ出る陽キャオーラが微妙に妬ましい。
「いいぜ」と返事をする。
俺は、カバンから弁当を取り出す。
包みの結び目に手をかけた時、「今日は、違う場所で食べないか?」と百瀬が言った。
「ん? 何か、いい場所でもあるのか? 先に言っておくが、外は嫌だぜ」
「教室を1つ、確保してる」
百瀬はキーホルダーの輪っかに人差し指を通して、くるくると回した。
「――何故だ?」
ちなみに、百瀬との付き合いは、高校に入ってからだ。
たまたま同じ中学の同じクラスで……ある意味で『同士』というだけで高校初日に、百瀬から声をかけられてた。
いや、まあ……感謝は、してる。
ぼっちでも何とかなるかな、と高を括ってたけど、ぼっちを回避できるなら、それに越したことはない。
しかし、それ以上に――。
《それって、部室?》
カバンから亜由美の声がした。
入学前の俺だったら、ここで狼狽えるが今は違う。
「そうだよ、アイ」と百瀬が答えた。
《どんな部なの?》
「行ってみてのお楽しみさ。――ということで、ちょっと歩くけど、いいよな? 周りが静かな方が、何かと都合がいいだろ。俺達にとっては」
「部室は構わないけど、部活に入るつもりはないぜ」
「勧誘するつもりはないよ」
ちなみに周りの生徒達は、まだ慣れてないのか、こちらに目配せする者もいるが、大半はアイボーの声に慣れてないだけ。
もう1週間もすれば、慣れて雑音と大差なくなるに違いない。
一部、妙に熱烈な視線も感じるが放置してる。
俺は、カバンに弁当箱を仕舞ってから、百瀬の後について行った。
目的地は、自分の教室から少し離れた場所にあった。
百瀬が鍵を使って、ドアを開ける。
当たり前だが中に人はいない。
端にいくつか棚が置いてあり、真ん中には長テーブルがある。
「ちょっと水を汲んでくるよ」
「ああ。……でも俺、コップ持ってきてないけど」
「ケトルに入れてくるだけだ。あと紙コップとお茶類なら、そこの棚にあるから、好きなの選びな。インスタントとティーバッグだから、味は保障しないけどな」
「それはありがたいけど、入学4日目で、部室の私物化かよ」
百瀬は弁当を長机に置くとケトルを片手に、部室を出て行った。
俺はというと、カバンから弁当箱とスマホを取り出した。
《私、紅茶がいい》
「そもそも飲めないだろ……あるにはあるけどさ」
《秀矢が飲めばいいじゃん》
「俺はカフェインは、本番の時にしか摂取しない主義なの」
《なるほど、なるほど……うん、ちゃんとメモしたわよ》
「何か、個人情報を握られてるみたいで怖いな」
《大丈夫よ。スターバッドは、デカフェのコーヒーとか、ノンカフェインのドリンクも充実してるし》
「……そうだな。亜由美が生き返ったら行くか?」
《もちろん。へへ~、楽しみだなぁ》
……ん? 俺、今、何気にとんでもない約束をしたんじゃないか?
まあ『生き返らせたら』って条件だけど、推しとスタバって……。
「生き返ったら? 何の話だ? 時田」
「いやいやいや、何でもないよ」
「何、焦ってんだよ……あー、どうせ、あれだろ? アイボーとゲームの話をしてたんじゃないのか?」
《そうそう。最近、発売したヘロブレイドの攻略サイトを閲覧してたのよ》
「いやあ……しかし、時田のアイボーは、ほんと人間と話してる感じだよなぁ」
(死人の魂だからな……と言っても、信じてもらえないだろうけど)
百瀬は、ケトルを電源プレートにセットすると長机に座る。
そして、カバンから――クソバカデカスマホを取り出した。




