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アラハバキ

「モンスターと戦うのは、あくまで仕事の一面でしかねえ。基本的には、怪異空間――つまりダンジョンの攻略だ。当然、中身はモンスターだけでなくお宝もあるわけよ。だから、モンスター討伐以外にも、未踏エリアの、資源の調査と採取、それに伴う安全な経路の確保も立派な任務だ。ダンジョンだけあって、地球にない鉱物資源も多数存在。無論、地球にある宝石、レアメタル、レアアースの鉱脈もある。何故あるのかは、現在究明中だ」


「それを聞いて、安心しました」


「それはよかった。そうだ、スマホ借りるぜ」


 言いながら、アラハバキはテーブルの上に置いてた秀矢のスマホを取り上げると、アラハバキのスマホの裏面にピタリとくっ付けた。


「アイボー、こいつの中身を全部、読み取ってくれ」


《かしこまりました~、ご主人様~》


「バキさん!? 俺のスマホをどうするつもりですか?」


「監視するって言っただろ? 当然、スマホの通信も監視対象だ。無論、家の固定回線もな」


「ここ日本ですよね?」


「ああ。日本だよ」


(つうか、あんなのでスマホの情報、抜き取れるのかよ!?)


《ご主人様~、スマホの情報を全て取り出しましたよ~》


「それじゃあ、抜き取った情報は全て、時田秀矢に紐づけておいてくれるかな~?」


《は~い》


「……マジで、今ので全部抜き取ったんですか?」


「こいつは、見た目こそ市販品と同じだけど、中身は特別製だ。国外への持ち出しを禁じてるほどのトンデモテクノロジーがてんこ盛りなんだ。木の葉を隠すなら森の中っていうだろ?」


「そうですね。あまり欲しいとは、思いませんが」


「何、言ってんだ? サムライの任期中は、ずーっと、こいつを使うことになるんだぜ」


「そんなデカいの持ち歩きたくないです」


「安心しろ。初仕事の時に貸与されるから。費用は全部こっちで負担するよ」


「そういう問題じゃないです」


「アイボー、時田秀矢を各通信会社のブラックリストに登録するように通達を出しておいて~」


《は~い》


「ちょ!? ちょっと、何を言ってんですか!?」


「初任務までに、このスマホが無くなってもいいように準備だけはしておけよ。チェインの連絡先とかな」


「……つまり任期中は、SIMの新規契約は不可能で、バカデカスマホで我慢しろ、ってことですか?」


「そういう事だ。他人名義のものを借りようなんて考えるなよ。さっきの怖~い人達が出張ってくるからな」


「そんなところまで見張ってるんですか!?」


「だから、俺達の力が表沙汰にならなんだよ」


「……わかりました」


「お前は、若いけど事務所預かりのプロゲーマーだ。秘密保持規約は、知ってるだろ? それと全く同じだ。意図的に機密を漏らそうとしなければ、プライベートは好き勝手にして構わん。海外渡航、スマホの新規契約、土曜日のイベントとか少しだけ制約はあるけど、意外と日常生活には影響はない。普通に青春を謳歌したり、配信に注力することもできる。国内なら友人知人と遊びに出かけたり、異性とデートしてもいい。勉学に打ち込むなら塾や予備校に通っても構わないさ。そうそう、1月の大学受験の日だけは、例外的に土曜日がお休みだ」


「高校生活をどうやり過ごすかは決めかねてますが、今のうちに土曜日の無い過ごし方を考えておきます」


「そうだ。高校デビューに失敗したら、人生の先輩である俺から有難い助言をしてやろう。グレーな青春の過ごし方ならお手の物さ」


「それは、遠慮します」


「そこまで、ハッキリと言われると切なくなるな」


「そういえば、やたらと監視に固執してるみたいですが、他にも何か規約はありますか?」


「あー、あるある。アイボー、時田秀矢のスマホにサムライの手引書を転送してくれ」


《かしこまりました。ご主人様~》


 程なくして、秀矢のスマホにファイル受信の通知が出てきた。


「トキヤ。時間が押してるから、細かい説明はマニュアルを見てくれ」


「ありがとうございます。それじゃ、バキさん。最後に一つ質問いいですか?」


「どうした?」


「サムライは、人道に配慮してるかどうかです。……俺は、捨て駒じゃないですよね?」


「そんなわけないだろ。若者は、日本の宝だ。無闇に捨てるようなマネはしねえよ。……それに、人死には、無い方がいい」


「……」


「さっきも言ったが、サムライの仕事はバトル一辺倒じゃない。今の俺が言っても、身内びいきに聞こえるかもしれないが、少なくともサムライの仕事は、1億円に見合う内容だとは思う」


「わかりました。俺からは、以上です」


「それじゃ、俺も最後に、相談に乗ってもらおうかな」


「え? 俺にですか? 俺に答えられることなら――」


「ほら、俺の『アラハバキ』って呼び名。最近、変えようと思ってさ」


「何故です?」


「今の秋葉原の惨状が俺のセンスに合わないんだよ。このままだと将来、俺の名前の由来が理解できるリスナーがいなくなりそうでさ」


「別にいいんじゃないですか? 昔の秋葉原を知る、ろうが――じゃなくて、重鎮的な感じで――」


「俺は、まだ20代だよ? 老害、扱いされたくないのよ~。それでさ、最近一番熱い池袋に(ちな)んだ名前にしようと思ってるんだけど、なかなか良い名前が思い浮かばなくてさ~」


 アラハバキは今日一番、深刻そうな顔をしてる。


 どうやら真剣に悩んでいるようだ。


 しかし、自分には解決できそうにない、と判断した秀矢は、一緒に悩む素振りを見せつつ時間を潰した。

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