サムライのご案内
「あなたが社長の知人ですか?」
「そそ。ちょっと彼と個人的な契約のお話があってね」
「案件でしたらマネージャーの僕も一緒に居た方が――」
「個人的な契約って言ったでしょ? この会社でもなく、トキヤ選手でもなく、時田秀矢という個人との契約。社長にも話つけてるからさ~」
「承知しました」
「物分かりがよくて助かるよ。君は、長生きするタイプだね」
竹田は浮かない顔をしたまま会議室を出て行った。
置き去りにされたみたいで心細くなる。
見知らぬ男と二人きり。面談の詳細は不明。不安が増すばかり。
「さて、時田くん。本題に入る前に、スマホをテーブルに置いてくれないか」
「え? 何故ですか?」
「後、ボイスレコーダーとかビデオカメラ等の録音録画をする機材を持ってたら、そいつらも俺の目の届くところに出してくれ」
「全く、意味がわからないんですが――」
「これから俺が話すことがもし記録されてたら、それらを消去しないと行けないから」
口調は冗談のように軽いが、内容は穏やかではない。
急に、目の前にいる男が得体のしれない恐ろしい物のように思えた。
秀矢は苛立ちながらも、男の言う通りスマホをテーブルの上に出した。
「録音、録画はしてないようだね。うん、感心感心。さてさて、この部屋はどうかな」
男はビジネスバッグからアイスモナカほどの大きさの端末を出した。
(あれ。持ってる人いたのか)
男の持つ端末は、ナーガグループの傘下で総合電機メーカーミズチが販売してる純国産スマホのスケールシリーズ。
常識外れの価格と性能に対し、あまりの非対応アプリの多さに、ごく一部のガジェット狂信者しかユーザーしか所有してないスマホ。
他のスマホと一線を画してる特徴に、超高性能AIを有するアバターを搭載したアイボーの存在。
国内に流通してるのか怪しい台数しか売れてないのに外部企業とのコラボが多く、豊富な専用アバターとボイスがマニアを惹きつけてる代物。
「アイボー、周辺に盗聴、盗撮の機器が無いか調べてくれ」
《わかりましたにゃん、ご主人様》
端末からは、芝居がかったアニメ調のボイスが流れる。
男とアイボーのギャップで緊張感は解けたが、男への懸念は深まるばかり。
《悪い機械を見つける、おまじないをかけちゃうよ~》
「は~い」
男の猫なで声に、頭が痛くなる。
サングラスをかけてるのに、蕩けてる表情が容易に想像できる。
《いけない機械は~どこかな~? ……サーチ完了しました~。ご主人様。異常はありませんでした~》
「ご苦労様、アイボー」
《ありがとうございます~。お仕事がんばってくださいね。ご主人様》
男は秀矢の方へ向き直る。
同時にサングラスを外した。
秀矢は、その素顔を見た瞬間、男の正体に気づいた。
「バキさん!? お久しぶりです!」
「俺の事、覚えてたか。トキヤ」
「リアルで会うのは、5年ぶりくらいですかね」
「そうだな。ペイントゥーンのオフ大会でトキヤが小学生部門。俺が一般部門で出場した時だったな」
「そういえば、あの噂は本当なんですか? 癌と糖尿病が併発したとか――」
「見ての通り、健康そのものだけど?」
「だって5年前の時に比べて、シェイプアップというかトリミングというか……ここ数年は、公式大会で見なくなりましたし、配信ペースもまちまちでしたので――」
「その辺りも含めて、今日は面白い案件を持ってきたからさ」
秀矢がバキと呼んだ男は、アラハバキという名前で活動してる元プロゲーマー。
現在は、個人勢で趣味の一環で配信活動をしてる。
名前の由来は、秋葉原のアナグラムにアラハバキという神の名をこじつけたダブルミーニング。
ペイントゥーンだけでなく、パズルと格闘ゲームもプロ級の腕前を持ち、それぞれの界隈を活気づけた立役者でもある。
リアルで会う以前から、アキバ系に傾倒してることを前面に出しており、体型は今と違って肥満型。
ただ秀矢が小学5年生に進級すると同時に、無期限のプロゲーマー活動休止と配信活動を抑えることを発表。
以降、配信の度に、やせ細っていく彼の姿を見た視聴者がネット上に、急激な体重減少は癌や糖尿病の可能性がある、と投稿。
それに対し、アラハバキは一切の肯定も否定もしなかったので、真相は今の今まで闇の中だった。
こうして画面越しではなく、リアルで対面して確信したことは、少なくとも病魔には冒されてないという事。
肌の色艶もよく、声は張っており、生き生きとした顔つきは健康そのもの。
年齢はいってるはずだけど、自分より元気なのでは? とすら思う。
「トキヤ。これを見てくれ」
アラハバキは言いながら、ビジネスバッグから一枚の紙を取り出した。
秀矢は紙を受け取り、題目を確認する。
その瞬間、正気を疑った。自覚できるくらいに眉が動く。
「サムライのご案内……バキさん。何の冗談ですか?」
「嘘じゃないよ」
アラハバキは真顔で言った。




