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プロゲーマー『トキヤ』

 高校受験の合格発表日から間もない、3月上旬。


 中学卒業を控える中、配信業とプロ活動の再開に向けて準備に勤しんでた時、事務所から急に呼び出された。


 内容は要約すると、日時調整は不可、服装は自由、遅刻は厳禁、詳細は事務所で直接説明、の4点。


 妙な話だと思った。


 通信インフラが整った令和の時代に、わざわざ遠方に住む所属選手と直接対面で打合せなんて、費用と時間の浪費でしかない。


 秀矢は、すぐ折り返しの連絡をした。


 返信は、驚くほど早かった。


 ただ返信の内容は『申し訳ありませんが本件については、事務所までご足労願いします。交通費は後日、清算致します』だった。


 今までにない事務所の対応に、不信感が募る。


 同時に、プロ契約打ち切りの可能性が浮上した。


 秀矢は、若手プロゲーマーとして瞬間最大風速は強かったが、その人気を維持することは、かなわなかった。


 どのエンターテイメントの世界も例外なく、集客力イコール人の魅力であり、その他の要因は魅力の添え物に過ぎない。


 プロゲーマー隆盛の時代。


 普通の世界王者では、無個性と同義。


 腕前を売りにするなら、他を寄せ付けない圧倒的な強さを魅せつけなければならない。


 秀矢には、それが出来なかった。


 それはすなわち、事務所にとって秀矢は一介のプロゲーマーに過ぎず、経営不振になれば真っ先に斬り捨てられる存在。


 それは、秀矢も自覚してる。


 だから、契約打ち切りが頭に過ぎった時のショックは思いの外、小さかった。


 代わりに、収入源が減ることを憂いた。


 打合せ当日、事務所に向かう秀矢の足取りは重かった。


 詳細が契約打ち切りなのか仕事なのかがハッキリしてないためだ。


 事務所のドアがやたらと重く感じる。緊張で心臓が痛い。


 秀矢は、深呼吸をしてからドアを開けた。


 事務所のレイアウトは、フィクションでよくみかける典型的なオフィスの一室。


 整然と並ぶ机と椅子。ノートパソコンを前に仕事に打ち込んでると思われるスタッフの姿が散見される。


 秀矢は一言「おはようございます」と挨拶を済ませると、集合場所である会議室に向かった。


 ドアをノックする。


 中から「どうぞ~」と緊張感の無い男性が返事をしたので、秀矢は「失礼します」と言いながらドアを開けた。


 会議室にはマネージャーが一人、幅広いソファーにポツンと座っている。


 マネージャーは頭髪は短く、恰幅がよい中年男性。


 スーツを着用してるが、穏やかな顔つきとふくよかな体格のおかげで威圧感は微塵もない。


 もし、この人に契約打ち切りを告げられても、笑って済ませてしまいそうだ。


「ごめんね、トキヤくん。突然、こんな遠くに呼び出しちゃってさ。ささ、座って座って」


 毒気を抜かれた秀矢は、マネージャーに促されるまま対面のソファーに座る。


 ソファーの柔らかさに呑まれぬよう、上半身を前のめりの姿勢にする。


 このままだと無駄話で時間を潰すかもしれない、と思ったので、危惧してた件について切り出す事にした。


「竹田さん。話って、契約打ち切りの件ですか?」


 マネージャー――竹田は、目が点になった。


 そこから数秒もしない内に、大袈裟に右手を振りはじめた。


「違う、違う。そんなんじゃないよ~」


 その言葉に、秀矢は安堵した。緊張が解けたので、背中をソファーにゆだねる。


「それじゃあ、俺を事務所に呼びつけた理由は何ですか?」


「社長命令」


「それって、やっぱり――」


「契約打ち切りは無いって。それだけは、社長に確認とったからさ」


「はぁ……」


「うちとしても、業界的にも、不安要素がない若手選手って貴重だから、そう簡単に契約は切らないよ~」


「それなら尚の事、ここに呼び出された理由が想像つかないのですが――」


「僕が聞いたのは、社長の知人と面談するため、だそうだよ」


 秀矢の頭に大きなクエスチョンマークが浮かぶ。


 あることないこと想像してる間に、竹田はスマホを取り出し、軽く操作をしてから耳にあてた。


「社長。今、トキヤくん、会議室におります。――はい、わかりました」


 通話が終わったのだろう。竹田はスマホをポケットにしまった。


「社長の知人、今からここに来るってさ」


「わかりました」


 それから5分ほど竹田と適当に雑談してるとドアが開いた。


 そこには、見覚えのない男が立っていた。


 髪は明るめに染めており、目元はサングラスで隠れている。


 肩幅、胸囲はやや膨れており、ピシッと着用してるスーツと手にもつ黒いビジネスバッグのおかげで空気が張り詰める。


 男は何も言わずに会議室に入ってからドアを閉めた。


 そして、口元を緩めた。


「マネージャーさん。悪いけど、席を外してくれないかな。彼と二人きりで話がしたいんだ」


 男は堅苦しい佇まいにそぐわない、軽薄な口調で言った。

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