表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/183

第26話 ヒロインは生き返るもの

《それより、ちゃんとご飯食べた? リミッター解除した後ってカロリーの消費が凄いから、しっかり食べないともたないわよ》


「ああ。母さんがビックリしてたよ」


《ちなみに、ダイエットに利用するのはオススメしないわ。私、死にかけたもの》


「今の亜由美が『死にかけた』って言うと心臓に悪いな」


《あはは。そうだ秀矢、せっかくだしネザーの新着動画、一緒に見よっか》


「凄いな。亜由美のメンタルは、鋼より硬そうだ。少し羨ましい」


《豆腐メンタルで配信なんて、できないわよ》


「それもそうだな……で、スマホとPC。どっちで見る?」


《秀矢の好きな方でいいわよ。色々と試したんだけど、アイボーになってるとデータそのものが理解できるから、動画を見る時も画面の表示、非表示はあまり関係無いの。何て言えばいいかな……目で見るというより、頭の中に映像が流れるイメージ。頭の中の映像のオン、オフの切り替えも自由自在》


「それじゃ画面ではネザーの動画を再生してても、アイボーである亜由美は、裏で違うタスクをこなすことも出来るわけか」


《そうそう。だから秀矢がエッチな動画を見てる時に、私は目を瞑ることもできるわ》


「ななななななな、何、言ってんだ!?」


《まあ秀矢も年頃の男の子だし、そういうのに興味津々なのは仕方ないけど――》


「勝手な事を言ってんじゃねええ! 俺は、そういうの見ないぞ!」


 但し、スマホでは視聴しない、という注釈が入る。


《安心して。閲覧しようとしたら、全力でブロックするから》


 スマホに映るアバターの表情は笑顔そのものだが、音声には含みを感じる。


「そうか。それは、安心だな」


《まっかせなさい》


「それじゃネザーの動画を、スマホで見るか」


《オーケー。すぐに開くわ》


「横向きにするぞ」


 秀矢はスマホを横向きにした。


 立てかけるためのスタンドを探そうと思ったが、支給されたスマホはアイスモナカみたいなサイズなので、試しに支え無しで横向きで置いたら自立した。


 重心も安定してそうなので、そのまま視聴することにした。


 動画を開く。


 亜由美は、邪魔にならないよう配慮してるのか、アバター配信者のように画面の右端で小さくなってる。


 視聴した動画は全部で3本。


 1本目は、秀矢のデビュー戦。


 2本目は、フローラに助太刀した時に相手した、モンスターの群れとの戦い。


 3本目は、死神の騎士との戦い。


 3本とも亜由美の言った通り、音声は別人に、姿形はゲームらしいアバターに加工されてた。


 見覚えのある構図が多いと思ってたら、秀矢の主観視点を加工したもののようだ。


 反対に見栄覚えのない構図は、亜由美と長光、それぞれの主観視点なのだろう。


 また動画には、多数のコメントがついてた。


 1本目と2本目は、チュートリアルは充実してそう、初心者でも遊べそう、等のゲームバランスへのコメントが寄せられてた。


 3本目、亜由美の死亡シーンと秀矢がウルトを使って死神の騎士に逆転勝利するシーンへのコメントが多かった。


(やはり3本目は、きついな)


 如何なる加工を施しても当時の構図、表情、言葉は紛れもない事実。


 悔しさと怒りがこみ上げてくる。


《えへへ、秀矢。私、ヒロインだって》


「だろうな」


《どしたの? 何か思いつめたような顔してるけど》


 3本目の動画を見た後だからか、明るく振舞う亜由美の声を聞くと胸が痛む。


(あの時の俺に、もっと力があれば……いや、力が無くても状況判断を見誤らず、亜由美の言う通り逃げていたら……)


《私なら大丈夫。後輩を守るのは、先輩の役目。これは、名誉の戦死って奴よ》


 亜由美の気遣いが余計に重く圧し掛かる。


 気落ちしてる最中、不意にある言葉を思い出した。


 ――死者を蘇生する秘宝、アスクレピオスの杖を探し求めてやってまいりました。


 それは、フローラが発した言葉。


 彼女がダンジョンに潜る理由。


 死者を蘇生する秘宝。


 秀矢の心に、一筋の光を差し込む。


 心地よい動悸。


 体が熱くなる。


「ありがとう、亜由美」


《まっかせなさい。視聴者のお悩み相談は、お手の物だからね》


「君の死について、あれこれ考えるのは止めだ」


《そうハッキリ言われると、何だか物足りないというか――》


「大丈夫だよ。何たって近々、ヒロインの復活シーンが投稿されるからな」


《え? それってどういう意味?》


「そのまんまの意味だよ」


《まさか!? あのエルフ……フローラが言ってた秘宝の事!? いくら何でも死んだ人間を蘇らせるなんて――》


「だけど……あの時、死んだはずの君の魂は、今もアイボーになって、この世に留まってる」


 夢物語に等しいが望みはある。


 今日という日は、秀矢の中の常識をことごとく塗り替えた。


 モンスターだけでなく異種族の存在に、スキルやステータスによって人間がゲームのキャラクターのように強くなれること。


 挙句の果てには、死んだ人間の魂がスマホに憑りつく始末。


 こんな超常現象が当然のように実在する『あの場所』なら死者を蘇らせることも可能なのでは、と……。


「俺は……君を生き返らせる。そして、ネザーレイドというゲームが、ご都合主義てんこ盛りの王道ストーリーってところを見せてやるよ!」


《……ありがと》


 亜由美が小さく呟いた言葉は、秀矢の耳には届かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ