第26話 ヒロインは生き返るもの
《それより、ちゃんとご飯食べた? リミッター解除した後ってカロリーの消費が凄いから、しっかり食べないともたないわよ》
「ああ。母さんがビックリしてたよ」
《ちなみに、ダイエットに利用するのはオススメしないわ。私、死にかけたもの》
「今の亜由美が『死にかけた』って言うと心臓に悪いな」
《あはは。そうだ秀矢、せっかくだしネザーの新着動画、一緒に見よっか》
「凄いな。亜由美のメンタルは、鋼より硬そうだ。少し羨ましい」
《豆腐メンタルで配信なんて、できないわよ》
「それもそうだな……で、スマホとPC。どっちで見る?」
《秀矢の好きな方でいいわよ。色々と試したんだけど、アイボーになってるとデータそのものが理解できるから、動画を見る時も画面の表示、非表示はあまり関係無いの。何て言えばいいかな……目で見るというより、頭の中に映像が流れるイメージ。頭の中の映像のオン、オフの切り替えも自由自在》
「それじゃ画面ではネザーの動画を再生してても、アイボーである亜由美は、裏で違うタスクをこなすことも出来るわけか」
《そうそう。だから秀矢がエッチな動画を見てる時に、私は目を瞑ることもできるわ》
「ななななななな、何、言ってんだ!?」
《まあ秀矢も年頃の男の子だし、そういうのに興味津々なのは仕方ないけど――》
「勝手な事を言ってんじゃねええ! 俺は、そういうの見ないぞ!」
但し、スマホでは視聴しない、という注釈が入る。
《安心して。閲覧しようとしたら、全力でブロックするから》
スマホに映るアバターの表情は笑顔そのものだが、音声には含みを感じる。
「そうか。それは、安心だな」
《まっかせなさい》
「それじゃネザーの動画を、スマホで見るか」
《オーケー。すぐに開くわ》
「横向きにするぞ」
秀矢はスマホを横向きにした。
立てかけるためのスタンドを探そうと思ったが、支給されたスマホはアイスモナカみたいなサイズなので、試しに支え無しで横向きで置いたら自立した。
重心も安定してそうなので、そのまま視聴することにした。
動画を開く。
亜由美は、邪魔にならないよう配慮してるのか、アバター配信者のように画面の右端で小さくなってる。
視聴した動画は全部で3本。
1本目は、秀矢のデビュー戦。
2本目は、フローラに助太刀した時に相手した、モンスターの群れとの戦い。
3本目は、死神の騎士との戦い。
3本とも亜由美の言った通り、音声は別人に、姿形はゲームらしいアバターに加工されてた。
見覚えのある構図が多いと思ってたら、秀矢の主観視点を加工したもののようだ。
反対に見栄覚えのない構図は、亜由美と長光、それぞれの主観視点なのだろう。
また動画には、多数のコメントがついてた。
1本目と2本目は、チュートリアルは充実してそう、初心者でも遊べそう、等のゲームバランスへのコメントが寄せられてた。
3本目、亜由美の死亡シーンと秀矢がウルトを使って死神の騎士に逆転勝利するシーンへのコメントが多かった。
(やはり3本目は、きついな)
如何なる加工を施しても当時の構図、表情、言葉は紛れもない事実。
悔しさと怒りがこみ上げてくる。
《えへへ、秀矢。私、ヒロインだって》
「だろうな」
《どしたの? 何か思いつめたような顔してるけど》
3本目の動画を見た後だからか、明るく振舞う亜由美の声を聞くと胸が痛む。
(あの時の俺に、もっと力があれば……いや、力が無くても状況判断を見誤らず、亜由美の言う通り逃げていたら……)
《私なら大丈夫。後輩を守るのは、先輩の役目。これは、名誉の戦死って奴よ》
亜由美の気遣いが余計に重く圧し掛かる。
気落ちしてる最中、不意にある言葉を思い出した。
――死者を蘇生する秘宝、アスクレピオスの杖を探し求めてやってまいりました。
それは、フローラが発した言葉。
彼女がダンジョンに潜る理由。
死者を蘇生する秘宝。
秀矢の心に、一筋の光を差し込む。
心地よい動悸。
体が熱くなる。
「ありがとう、亜由美」
《まっかせなさい。視聴者のお悩み相談は、お手の物だからね》
「君の死について、あれこれ考えるのは止めだ」
《そうハッキリ言われると、何だか物足りないというか――》
「大丈夫だよ。何たって近々、ヒロインの復活シーンが投稿されるからな」
《え? それってどういう意味?》
「そのまんまの意味だよ」
《まさか!? あのエルフ……フローラが言ってた秘宝の事!? いくら何でも死んだ人間を蘇らせるなんて――》
「だけど……あの時、死んだはずの君の魂は、今もアイボーになって、この世に留まってる」
夢物語に等しいが望みはある。
今日という日は、秀矢の中の常識をことごとく塗り替えた。
モンスターだけでなく異種族の存在に、スキルやステータスによって人間がゲームのキャラクターのように強くなれること。
挙句の果てには、死んだ人間の魂がスマホに憑りつく始末。
こんな超常現象が当然のように実在する『あの場所』なら死者を蘇らせることも可能なのでは、と……。
「俺は……君を生き返らせる。そして、ネザーレイドというゲームが、ご都合主義てんこ盛りの王道ストーリーってところを見せてやるよ!」
《……ありがと》
亜由美が小さく呟いた言葉は、秀矢の耳には届かなかった。




