第25話 ヒロインは死ぬもの
報告を終えた二人は、屋敷内にある転移装置を使い、各々帰宅した。
転移後、寄り道せずに自宅に帰った秀矢は、真っ先にスマホを自室のワイヤレス充電器の上に置き、亜由美には静かにするよう釘を刺す。
程なくして、妹の芽衣が帰ってきたので、父母を含む家族四人全員で食卓を囲み、夕食の済ませた。
昨今の家庭では、スマホを始めとする様々な動画を再生する端末の普及により、リビングに家族が集まっても、視聴する映像は一人一人異なる。
時田家も例外ではない。
ただ秀矢は基本的に、ゲームをプレイする事が多いので自室にこもりがち。
そのため、食後は自室に戻るのが習慣で、家族もそれを当たり前と思ってるので、怪しまれる事なく自室に戻れた。
時折、虚しさを感じたこともあるが、今後の事を考えれば非常に都合がいい。
自室のドアを閉めると、スマホから亜由美の声がした。
《秀矢、大変よ!》
「何かあったのか!?」
亜由美の迫真の声に緊張感が走る。
胃に内容物があるにも関わらず、脈拍が強くなるのを感じる。
《秀矢のスキルツリー、何か増えてるのよ》
「……何だ、そんなことか」
《そんなことって、一大事よ! 任期中にスキルツリーが増えることなんて、あり得ないんだから!》
「――というより、何でそんな事わかったんだ? 俺だって知らないのに」
《ほら私、アイボーになったから、色々とスマホをいじくりまわしてるのよ》
「そうなんだ。ちなみに、何が増えたの?」
《火と雷の属性付与とエーテル弾が使えるようになってるわ》
画面がスキルツリーに切り替わる。
亜由美のいう通り、見覚えのないスキルツリーがあった。
《まあ、ポイントを割り振ればの話だけど》
「そこが一番の問題だよな」
《ポイントの方は追々、考えるとして――》
「こればっかりは、仕方ないよな。成長の余地が増えたことは、ありがたいけど――」
《そんな事よりも、もっと大事な話があるのよ!》
「今度は、何だ?」
《めっちゃ課金したのに、私のスリーサイズが変えられないの!》
「……何を言ってんだ?」
《ほら私、3Dのアバターになったから、これを機に、ちょっと胸を盛ろうと思ったわけよ》
(亜由美は、もうアイボーとしての生活に順応してるのか)
《それでね、アイボーのアバターって体型や髪型だけでなく目鼻立ちとか細かい部位まで調整できるのよ。最近のゲームみたいに》
「ふーん、それで」
《それで、課金したわけよ。各パーツを自由自在に調整するために》
「ちなみに、お値段は?」
《ざっと2百万ほど》
「はあああああああああああ!?」
《大丈夫よ! 円だから》
「ドルであってたまるか! つうか、そんなところで、ぼってるから、このクソバカデカスマホは、売れないんじゃないのか?」
《こんなものを買うくらいだから、金持ちでしょ》
「それもそうか……待てよ? 亜由美、課金した2百万って……」
《――私の口座から課金したから大丈夫よ》
「なら、いいか。……それはそれとして、アバターの調整ができないのは、いい事だと思うけど」
《何で?》
「亜由美がアバターではなく、人間であることを証明してくれたみたいだから」
亜由美は面食らったのか、きょとんした顔つきになってる。
その直後、頬にわずかに赤みがさす。
「何か、変な事言ったか?》
《へへ、ありがと。そんなことよりさ、今日、投稿されてた私たちの動画。凄くバズってわよ》
「何でそんなに嬉しそうなんだよ。死んだの亜由美なのに――」
《え? 知らないの? ヒロインが死ぬのは、定番じゃない》
「……死んだ本人に、そう言われたら返す言葉がないよ」
《死んじゃったものは、仕方ないからね。まさか秀矢のアイボーになるなんて、夢にも思わなかったけど》
「誰も思わねえよ」
推しが自分のために死んだ。
本来なら、秀矢の心を容易に引き裂き、暗い影を落とす事態であるにも関わらず、こうして軽口を叩けるのは、他ならぬ亜由美のおかげである。
当の本人がライブ配信でいつも見せてる姿と変わらない事と、自分の死に対し、負の感情を微塵も出してないからだ。
もしかして強がりなのかもしれない。
しかし、当の本人がそれを表に出さない以上、詮索は止めた。
それに根本的な問題として、自分が死んだことを気にしない素振りをする死人の相手なんて、皆目見当がつかない。
精神科、心療内科、カウンセラー、セラピストでも取り扱った事がない案件だろう。
だから、何かしらの感情を吐露した時は、正面から受け止める覚悟だけは決めた。




