第23話 撃破……視点変更
戦いは新たな局面を迎えようとしていた。
聖属性を帯びた刃機を携え、死神と相対する秀矢は、長きにわたり幾重も斬り結んだ大鎌をついに断ち切った。
死神は驚愕したのか、上半身がビクリと僅かに反る。
秀矢は畳みかけるように、馬の首をはねた。
黒い馬の首は、宙に弧を描くき、地に落ちると、黒い煙となって消えた。
頭部を失くした胴体は、追いかけるように死神をのせたまま雲散霧消する。
死神は何事も無かったかのように、地に降り立つ。
秀矢は刃機の切っ先を、死神の喉元に向けた。
死神の周りが風景ごとゆらめく。
無言の圧力。
傍目から見てる長光ですら、内臓がヤスリで削られてるかのような痛みがする。
そんな死神の前に立つ秀矢は、毅然としてる。
顔色一つ変えず、射るような眼差しで死神を見据える。
迎え撃つためか、死神が腰に帯びてる剣を抜く。
それは、死神の装いとは異なり、特別な装飾も意匠もない普通の剣。
ただ刃渡りは、秀矢の刃機よりも長いようだ。
視線が交差し、互いの剣を切っ先が向き合う。
そこからは時が止まったかのように、二人は動かなかった。
静寂。
一切の音はなく、時間だけが過ぎてゆく。
2人をとりまく空間がぐにゃりと歪曲する。
死神の周りに、黒く薄い霧がたちこめる。
それに呼応するかのように、秀矢が動いた。
金属と金属が強い力で衝突する音が鳴る。
刃機と剣が交わった証。
秀矢はすぐに飛び退いた。
力では押し負けると判断したのか、鍔迫り合いを拒否したようだ。
死神の周りの地面からは、いくつもの黒い煙が立ち昇る。
亜由美の命を奪った瘴気は、大鎌の時とは違い、剣には集束はしてない。
代わりに、ゆらめく瘴気がピンと真っ直ぐになる。
そして、細く伸びた瘴気の柱一つ一つが、レーザーのように、秀矢に目掛けて襲い掛かる。
秀矢は、迫りくる無数の黒いレーザーをいともたやすく避けた。
それは最小限の動作で、まるで誰にでも真似できそうな振舞いに見えた。
対戦ゲームの指南動画でよく見かける、弱キャラや弱武器による攻略方法という名のリップサービス。
黒いレーザーを難なく掻い潜り、死神の懐に飛び込んだ秀矢は、目にも止まらぬ速さで死神の鎧を斬りつけた。
音速の銃弾をものともしなかった黒き鎧に、無数の切り傷が刻まれる。
その時、秀矢の背後に無数の黒いレーザーが姿を現す。
死神が放った瘴気である以上、自在に操れるものなのだろう。
だけど不安は一切なかった。
今の秀矢に、死角からの攻撃が当たるとは微塵も考えられなかった。
事実、秀矢は真後ろから迫りくる瘴気を振り向かずに、真横に飛んだ。
ターゲットを外した瘴気が死神に触れようとした時、死神の持つ剣の刀身に巻き付く。
巨大な瘴気をもう一度、放つつもりだろうか。
長光は身の体を守るサイコキネシスを切らさないよう神経を尖らせる。
死神が秀矢に斬りかかる。
秀矢は、迎え撃つつもりか刃機を両手で握りしめた。
死神は体格と装備に見合わぬ速さで詰め寄ると、黒い瘴気をまとう剣で袈裟斬りを放つ。
それは斬撃というより、黒い炎の塊を振り下ろしてるようだ。
上から下ろした瞬間、剣にまとわりつく瘴気が爆ぜて……秀矢を飲み込んだ。
そんなシーンを見ても、長光は焦りを感じなかった。
次の瞬間、秀矢を飲み込んだ瘴気が霧消する。
しかし、秀矢の姿はなかった。
「所詮は人の子。いくら力を付けても、どんなに技を磨こうとも、死神には決して及ばぬ」
「死神がどんな奴かは知らねえが、お前になら勝てるさ」
「何!?」
瘴気が飲み込んだのは、立体映像のデコイ。
実体は、忽然と死神の側にあらわれた。
光学迷彩で身を隠して近づいたのだろう。
死神が怯んだ一瞬の隙を突いて、刃機の切っ先が髑髏の眉間を捉えた。
「浄化の光!!」
秀矢の叫びと共に、刃機が目が眩むほどの輝きを放つ。
死神の中から無数の光の線が溢れる。
そして、髑髏が砕け散った。
「ぐああああああああああ」
悍ましい断末魔がダンジョン内に響きわたる。
声が途切れると同時に、死神の大鎌と鎧が砂になった。
視覚に映る情報に目を通す。
モンスターの反応はない。
(僕らの……いや、彼の勝利だ)
確証を得た瞬間、興奮と驚きで蓋をしてた悲しみがどっと噴き出す。
(はぁ……こればっかりは慣れないな)
心臓が締め付けられる。
仲間を亡くした悲しみは、いつだって自信を喪失させ、積み上げてきた経験と実績を粉みじんにする。
《さっすが秀矢。あんな趣味の悪い骸骨野郎なんて、敵じゃなかったね》
(……ん?)
微かに女性の声が聞こえる。
直後、秀矢が刃機からスマホを取り出すと、こちらに向きなおる。
その顔は憂いや悲痛さはなく、愕然というのがぴったりの驚きに満ちていた。
事態を把握するため、長光は急いで秀矢の元に駆け寄った。




