第22話 時田秀矢の正体……視点変更
「長光先輩、これ見てください」
秀矢がソロでレベリングしてるのを尻目に、亜由美はスマホの画面を長光に向けた。
そこには、亜由美のアイボーの姿が映ってる。
「えへへ、このアバター。実は、秀矢に似せて作ったんですよ」
「これが時田くん? 美化しすぎてないかい?」
「似ても似つかないのは当然ですよ。だって、こっちの姿はオフイベント用に、スタイリストの方が相当がんばったみたいですから。大体、学生の内に顔出しするなら、身バレ防止のために、人相をリアルと配信用に分けるのは常識ですよ?」
(空閑さんの言い分は理解できるけど、こうまで言われる筋合いは無い気がする)
亜由美が秀矢に対し、並々ならぬ感情を抱いてることは、嫌と言うほど見せつけられたので言い返すのを止めた。
代わりに退屈しのぎも兼ねて、疑問をぶつけることにした。
「オフイベント? ということは時田くんもプロゲーマーなの?」
「そうですよ。だって秀矢は、ランペイジの世界1位の日本チームに所属する最強の前衛ですよ。常識じゃないですか」
「少なくとも一般常識の範疇ではないよ」
「リーダーなんだから、それくらい把握してくださいよ」
「明日になったら予習しておくよ」
リーダー権限が有効になるのは、年度が切り替わる4月1日以降のため、現時点では各メンバーの詳細を閲覧することができない。
「それにしても時田くんはレベル、ステータス、スキルのように明文化されたスペックでは計り知れない、卓越した戦いのセンスを持ってるみたいだね。ゲームとは言え、世界最強の前衛は伊達じゃないってことか」
「当然じゃないですか」
「敵との間合いを冷静に見極め、チャンスをうかがう周到さを持ちながらも、攻め時となれば先ほどまでの冷静さが嘘のように苛烈に攻める。あえて違う点を上げるとするなら、彼は徹底的に意味のないアクションを起こさないところかな。無意味な威嚇、揺さぶりもしない。それにひきかえ空閑さんは、攻めっ気が強いからね。去年の事を思うと――」
「去年の事は、いいじゃないですか」
「君達二人は、レベルが上がる度に血気にはやって、先陣を突っ走ってたからね。その度に、先輩方の胃がキリキリしてたのを昨日のように覚えてるよ」
「ああ~、やだやだ。年寄りは、すぐ昔の事でマウント取りに来るんだから」
「はやる気持ちを嗜めるのは、新人育成の一環だ。それはともかくとして、もう一つ気になる事がある。君達はリアルで顔を合わせた事があるのに、時田くんは空閑さんに対して、余所余所しいような気がするけど」
「当然、私も変装してましたよ。念入りにヘリウムガスも吸って、声色も変えましたし」
「お互い、素顔を隠してたのか。それじゃあ気づかないわけだ」
「ちなみにネット上では、何度かコラボしたこともあるんですよ。ほら、対戦ゲームって配信映えするから、有名ストリーマーを集めた非公式の大会が頻繁に開かれますよね? だから、そういう所で、敵同士だったり、時には一緒のチームだったり……。まあ、味方の時は、秀矢にキャリーしてもらってばかりなんですけど。でね、リアルで初めて秀矢と会ったのは昨年で、彼が所属してるプロゲーミングチーム主催のファンミーティングの時なんです」
(これは、あれだな。オタク特有の得意分野の事になると饒舌になる、あの状態か)
長光は、ストリーマーやプロゲーマー界隈には疎いため、適当に相槌を打つことにした。
「あれは、自分の人生の中でも一番の衝撃でした。あのイベントで、秀矢と握手した時のことは、今でも鮮明に覚えてます。もう凄かったんですよ。何と言うか、普通のドキドキじゃなかったんです。握手した瞬間、嬉しさとか懐かしさとか尊さとか、色々な感情が胸の内側からぶわぁって広がって、そのまま私達二人だけの世界に入り込んだ感じがしたんです。もう、がんばってください、って無難な言葉すら口に出せないほどエモかったんですよ。何せ、警備の方に声をかけてもらうまで、お互い手を離さなかったんですから」
(こういうのを確か、強火ファンって言うんだっけ)
亜由美の熱弁に対し、聞いてるだけの長光が何故か胸いっぱいになって羞恥心を覚えるくらい、二人の間には温度差がある。
「そこからですね。もう居てもたっても居られなくなって、秀矢の事を色々と調べちゃいました」
「……待った。調べたって、まさか――」
辺りの空気が冷たくなったような気がした。
薄っぺらい不快感が、長光の肌を粟立たせる。
「そんな深刻そうな顔しないでくださいよ。ちょっとだけですよ」
「何か聞きたいような、聞きたくないような――」
「本名と素顔と住所と通ってる学校ですよ」
「とりあえず僕を危ない事に巻き込むようなことは止めてくれ」
「当たり前じゃないですか。これらの情報だってシノビ衆に頼んで、調査してもらったんですよ。そしたら、サムライ候補者のデータベースを教えてもらったんです。ほら私、じっちゃんの系列会社のプロゲーミングチームに所属してるから。――で、運良くデータベースに秀矢の情報があったから、ちょっと覗いたり、メモったり、画像を保存したりしました」
亜由美は、悪びれる様子もなく、いつもの軽い口調で言い切った。
サムライ候補者のデータベース――2年間、サムライの仕事を通じて、法龍院家のやり口を間近で見てきた長光にとって、個人情報保護法の無力さを嫌と言うほど見せつけられてきた。
「ちなみに、おたか……じゃなくて、彼の素顔は、誓ってネットに上げてませんから!」
「そ、そうか……前々から、思っていたことだけど、この際だから言っておこう」
「何ですか?」
「万が一、プライベートで鉢合わせした場合、他人のフリをしてほしい。本来、空閑さんは有名人だから、面識ある事がバレたら、僕の人生設計に支障が出る、と思ってたけど――」
「思ってたけど?」
「正直、今の君には、それ以上に恐怖を抱いてる。ハッキリ言うと、プライベートでは関わりたくない」
「奇遇ですね。私も、同じことを考えてました」
話に一区切りついたので、秀矢に目をやる。
狩りの方は順調のようだ。
アラートも鳴らないし、モンスター相手に苦戦してる様子も見られない。
「あーあ、何かつまんない」
「嬉しくないのかい? 君の推しがあんなに頑張ってるのに――」
「推しだからこそですよ。こう、認知してもらいたいというか、頼って欲しいというか――」
「手がかからなくていいじゃないか。何が不満なんだい?」
「はぁ、サムライなら先輩風吹かせられるかな、って思ったんですけどね……こうも才能の差を見せつけられちゃうと、嬉しいを通り越して、もはや悔しいんですよね。……せっかくだし、愚痴、聞いてくれます?」
「不義でなければね」
「実はですね、私。ただの一度も秀矢に、トキヤに勝ったことがないんです」
「ふーん」
「あー、バカにした」
「だって、ゲームの話だろ」
「ゲームだからこそですよ! もう公式、非公式関係無く、何故か秀矢に、トキヤに勝てないの。もう悔しいったらありゃしない。ああ、もう! ゲームでダメなら、せめてサムライのお仕事ならって思ってたのにー」
「……とりあえず、つまらない嫉妬心で時田くんに意地悪するのだけは止めてね」
「わかってますよー」




