第21話 英雄叙事詩(ヒーローモード)……視点変更
長光は耳を疑った。
気のせいかもしれない。それほどまでに小さいけど、確かに亜由美の声を聞いたから。
パーティメンバーのコンディションを確認する。
リストにある空閑亜由美という名前の隣には、DEADのスペルが刻まれてる。
いくら目を凝らしても変わらない。
約2年ぶりに見た文字。
当然、その文字が意味することは、空閑亜由美の死である。
耳の次は心を疑った。
パーティメンバーの死を目の当たりにしたばかりなのに、心中には一片も悲哀がないから。
人の死に慣れたつもりはない。
悲しみにくれる余裕がないと言うわけでもない。
2年前、初めて人の死に直面した時は、筆舌に尽くしがたい苦痛と恐怖で絶望し、戦いの最中にも関わらず呆然自失となった。
スマートナノテクノロジーの作用による脳内麻薬でも緩和できない程のショッキングな出来事は今でも時々、夢に出てくるほどである。
しかし、今は違う。
目の前の光景に、驚嘆と高揚感を抱いてるためだった。
そして、目を疑った。
何故なら、長光と亜由美の二人がかりで傷一つつけられなかった死神を相手に、秀矢が善戦してる現実に。
自分よりも圧倒的にレベル、ステータスが低いはずなのに、死神に引けを取らない大立ち回りを披露してる事に驚きを禁じ得ない。
要因は、理解してる。
亜由美の死によって、秀矢のアルティメイトアビリティの解放条件を満たし、それを行使したこと。
長光は、秀矢のウルトを確認した。
名前は、英雄叙事詩。
解放条件は、戦闘でパーティーメンバーが1名以上DEADになること。
任意で発動可能で、発動の制約もない。
効果時間は、ゲージの残量に依存。
(稼働時間がゲージの残量に依存ということは、ゲージが空の場合は、発動できないと考えるべきだろう)
アビリティの内容は、効果時間中は未修得のスキルを全て解放。
但し、使用条件を満たさないスキルは依然、使用不可。
残り効果時間を上回るディレイがあるスキルも使用不可。
ゲージを消費するスキルは、消費ゼロで使用可。
文面から察するに、切り札系であることは明白。
無慈悲な解放条件は、それだけ強大なアビリティであることの証左。
その中身は、使用者の全スキルの解放。
一見、シンプルで脆弱に思える内容。
しかし、卓越した戦闘のセンスと常人の倍以上のスキルが掛け合わさることで、一騎当千に相応しい快進撃を見せる英雄と言っても過言ではない。
現に、秀矢は属性付与スキル、聖なる力で聖属性を付与した刃機で死神と切り結んでる。
長光はと言うと、サイコキネシスで身を守ってるだけ。
チャットで助力を申し出るも、秀矢からの返答はノーだった。
秀矢と死神が激闘を繰り広げてる中、長光は2年前のことを振り返った。
今の秀矢と同じく新人育成の一環で、フルパで何時でもカバーが入る中でのレベリング。
そんな中、レベルが低い長光では太刀打ちが出来ないモンスターに対し、目上のサムライ達は圧倒的な強さでモンスターを葬った。
あの時のサムライ達が戦う姿は、2年前の長光には、ヒーローに見えた。
あの時の自分は、とても非力で、無力で、弱いことをまざまざと思い知らされた。
そして、2年前と今の長光の心境が寸分も違わずに重なってる。
2年前ならわかる。
新人と目上のサムライでは、ステータスだけでなく実戦経験も大きな開きがあるからだ。
だけど、この2年間、地道に積み重ねてきた実戦経験とステータスを有してるはずなのに、実戦経験もステータスも自分より劣る秀矢に対し、2年前と同様に羨望を抱くとは思いもよらなかった。
助力を断られた時、味方にも関わらず、なんて浅はかで傲慢なのだろうと不満を募らせた。
しかし、秀矢の戦いぶりを見て、溜飲が下がり、今では仇を打つべく奮戦する秀矢の意志を尊重することにした。
さらに、気掛かりなこともあった。
否、嬉しい誤算とでもいうべき表記。
それは、秀矢のウルトには、もう一つの空きがあること。
歴代のサムライでも屈指の多彩なスキルだけでなく、まだまだ底の見えない秀矢の力に、長光はヒーローに憧れる子供のように大きな期待を寄せていた。




