第20話 フラッシュバック
秀矢の人生は、小学校高学年から中学三年の一学期辺りまでは充実していた。
これは、ゲームのプレイを動画や配信で公開することで、利益を得られる時代に生まれたためである。
小学生の頃は、ペイントゥーンというゲームの小学生部門で三年連続優勝を飾る。
おかげで小学生最強プレイヤーのトキヤという名前が広まり、チャンネル登録者数、動画視聴回数、ライブの同接が伸びた。
この頃は、趣味の一環としてライブ配信と動画投稿をするだけで、毎月のお小遣いや毎年のお年玉を遥かに上回る収入を得られたので、お金には不自由しなかった。
小学生という事もあり、配信機材以外の使い道なんて微々たるもの。
親の庇護下にいるので衣食住の心配も無用。
逆に、ゲームのプレイ時間を確保するために、利益の一部を妹の塾代として納めたほどだ。
それでも実際の収入は、一人暮らしなら郊外のワンルームですら切り詰めないと生活ができない程度。
とてもじゃないが、独り立ちには心許ない。
動画編集の時間込みだと時給換算したら、バイトの求人に応募したくなるほどだ。
そこで中学生になった時、主戦場を世界中で人気を博してたランペイジに変えた。
2年に進級する頃には、最上位帯のランクにいることが当たり前となった。
ゲームの知名度も相まって、小学生の頃よりも収入が増えた。
普通の中学生よりも先んじて『自分の腕だけで大金を稼いでる』という自負と実績が高じて内心、優越感に浸っていた。
そんな中、秀矢はアイに、亜由美に出会った。
ライブ配信で、現役女子中学生ランペイジに挑む、というタイトルがたまたま目に入ったので、興味本位で視聴した。
当時から顔出し配信をしてた彼女は、持ち前の美貌と明るい性格のおかげで、ライブの同接を伸ばした。
プレイ中は喜怒哀楽をハッキリと表に出し、愛嬌は抜群で、大人顔負けのトーク力によって、瞬く間に多くのファンを獲得。
秀矢も、そんな彼女に惹かれて、動画サイトのサブアカウントで何度かスパチャを送った。
ゲームの腕前も相当な物で、低ランク帯と中ランク帯はあっさりと抜け、上位ランク帯には少し留まったが最終的には、最上位帯まで昇りつめた。
上位ランク帯で苦労してた頃は、多少の驕りもあるが素直な気持ちで応援していた。
しかし、最上位帯のランクに到達した頃から、妬心が芽生えた。
その理由は、秀矢のチャンネルが、後続のアイに追い抜かれたからだ。
アイが最上位ランク帯に昇格してからしばらくすると、秀矢のチャンネルの動画視聴回数とライブ配信の視聴者数が急激に落ち込んだ。
別にアイが悪いわけじゃない。
頭では理解してても、心はそうはいかなかった。
それは、プロゲーマーになって世界大会で優勝しても変わらなかった。
ランペイジの頂点まで昇りつめて数か月した時、ようやく理解した。
否、向き合ったと言うべきであろう。
それは自分には、ストリーマーとして稼ぎ続けることができない、という現実に。
プロゲーマーになる腕前があっても、ストリーマーとして人気がなければ収益にならない。
最初は、人気コンテンツにあやかって視聴者数を伸ばせる。
大人顔負けの腕前を持つ小学生、中学生という看板が人目を引くことは今でも変わらない。
しかし、令和も十年を過ぎれば配信環境を有する、ゲームが上手いだけの小中学生の希少性は低い。
十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人、という言葉すら温く思えるほど、プロゲーマーに対する若さの価値は無い。
結局のところ、最後にものを言うのは、ストリーマーのキャラクターであり、ゲームの腕前は大した問題ではない。
それなら、腕前を活用してゲームの賞金を稼げば良いのでは? と思うが海外ならともかく日本では望み薄。
テコ入れも試みた。
しかし、どうしても受け入れがたかった。
動画ですら必要最低限の言葉で済ませるし、そういう性分なので苦では無かった。
ライブ配信なんて数十分、無言であることが日常茶飯事。
そこから、いきなり喜怒哀楽を大袈裟に表現しろ、と言われても、急には無理というもの。
顔出しも考えたが、将来への影響に対してリスクが高い、と判断して止めた。
詰まるところ、秀矢はエンターテイナーの才能が無いのだ。
中学三年になるころには、収益はピーク時のおよそ三分の一。
同年代では比較にならないほどの預貯金を以てしても、不安は募るばかり。
所属してるプロゲーミングチームの大人達にアドバイスを求めたが返ってくる言葉は、的確だが非情な現実。
――学歴は、あるに越したことはない。
――人生の選択肢は、多い方がいい。
――今は良いかもしれないが、この先ストリーマーで食っていける保障はどこにもないし、誰もしない。
大人達の助言では、ゲーム以外に何もない秀矢の焦燥感は、拭えなかった。
そして、中学生最後の夏休みの終わりと同時に、学業に専念する、という名目でプロゲーマーとストリーマーの活動休止を発表した。
以降、全ての時間を不得意な勉強に注いだ。
その甲斐もあってか、どうにか徒歩圏内にある偏差値50程の公立高校に合格。
合格発表後、活動再開の準備をしてる最中、法龍院家に仕えるシノビ衆からサムライの勧誘を受けた。
そして、将来の不安を解消するため、サムライになることを決心した。
刹那に満たない時間を以って、生涯を振り返った直後、胸元に強い衝撃が走る。
そのまま地面に叩きつけられた。
痛みを堪え、仰向けの状態から視界を注視する。
そこには、満面の笑みを浮かべる亜由美の姿があった。
疑問、謝辞、自責――咄嗟に浮かぶ言葉を声にする間もなく、亜由美の笑顔は、無情にも黒く塗り潰され――跡形もなく消えた。
それが何を意味するのか。
残酷な答えを導き出した瞬間、体の内から悲嘆と憤慨が急速に膨れて……弾けた。
「うわああああああああああああああああああああ――」
喚く。
喚き散らす。
止め処なく溢れる涙を拭う事なく、言葉にならない感情を思いのままに吐き出した。
ひとしきり吐き出した後におとずれたのは、静穏だった。
ベッドから起き上がるように、仰向け状態からスッと立ち上がり刃機を構える。
不思議な感覚に囚われていた。
胸中は既に、推しの死を嘆くでもなく、悲しむのでもなく、憤るのでもなく……極めて冷静に、仇を討つことを定めてる。
自覚できるほど頭の中がクリアで、死神の騎士を前にしても、取り乱すことはなかった。
――後は頼んだわよ、秀矢。
推しの――亜由美の声が聞こえた気がした。
(ああ、やってやるさ!)
死神の騎士と相まみえることへの恐れはなかった。
それどころか負ける気がしなかった。
根拠はないのに、何故か確信めいたものはある。
久方ぶりの心境。
それは、初めてから数時間プレイした対戦ゲームの試合中に起こる事象に似ていた。
ゲーム側で同じ腕前と判断され、マッチングしたにも関わらず、敵の挙動が手に取るようにわかり、自分自身がまるでヒーローにでもなったかのように試合を制する感覚。
そして視界の端には、アルティメイトアビリティの解除、という文字が映し出された。




