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第19話 死神の騎士

「一気に仕留める」


 亜由美が静かに呟く。


 同時に、視界には新たな警告メッセージが出てきた。


 内容は、『アルティメイトアビリティ発動。至急、射程外に避難せよ』


 アルティメイトアビリティ――ヒーローシューター系でキャラクターが所持するユニークスキルの通称。日本ではスペルの先頭三文字を取って、ウルトとも呼ばれてる。


 平たく言えば、超必殺技、切り札、奥義、奥の手。


 ちなみに秀矢のウルトは、解放されてない。


 解放条件は、レベルやステータス、特定スキルの保有ではなく、個人の資質によるところが大半を占めてる。


 そのため初期化の直後から使える者もいれば、レベル30から使えたり、緊急クエストを一定数クリアなど、解放条件は個人差がある。


 ウルトの射程は、ご丁寧に視界のある部分を赤く塗りつぶしてる。


 この赤く塗られた範囲から離れれば巻き込まれないようだ。


 こうやって視覚で味方の射程範囲が伝わるのもフレンドリーファイア防止の一機能なのだろう。


 また範囲だけでなく、使用者とウルトの名称まで表示してる。


 使用者は亜由美。


 ウルトの名前、不可避の弾幕(モータルバースト)


 射範囲は、亜由美の前方の大きな円陣。


 名前と射程範囲からして、円の内部にいる敵に致命傷を与えるものなのだろうか。


「空閑さん、僕の方も準備ができた。時田くん、君はアンノウンの攻撃を避けることだけに集中するんだ。手出しは無用。いいね?」


 長光の口調は、普段と同じように思えるがどことなく圧を感じる。


 それは助言や注意ではなく、拒否権のない命令を下してる様だ。


 秀矢は、思い浮かんだ数々の言葉をかき消すように頭を振ると、刃機を両手で握りしめた。


 次の瞬間、アンノウンが姿を現した。


 それは、死神の騎士と表現するのが相応しい出立ち。


 漆黒の巨大な馬にまたがる騎士は、黒い鎧に身を包み、外気に晒された頭部は剥き出しの頭蓋骨。


 右手に持つ、いびつで大きな刃を備えた鎌は、生きとし生けるもの全てを刈り取る形を成してる。


 死神の騎士が凄まじい速さで、こちらに迫ってる。


 馬が、鎧が、鎌が、頭蓋が、地を蹴る蹄の音が次第に大きくなる。


不可避の弾幕(モータルバースト)!!」


 同時に、亜由美の周囲に無数の銃――亜由美の刃機を模した銃が出現した。


 銃は当たり前のように宙に浮いており、銃口は全て死神の騎士に向けられてる。


 次の瞬間、地と腹に響く轟音と共に視界が無数の黒い点で覆われた。


 ダンジョンの通路を隙間なく塗り潰す弾幕。


 逃げ場も避ける隙もない尋常ならざる密度の弾丸は、ネズミはおろか小虫すら撃ち漏らす事はない、正に不可避の弾幕の名に相応しい必殺技。


 弾丸が視界を埋め尽くした、と認識した直後、無数の弾丸が一時停止から倍速再生するかの如く、死神の騎士に襲い掛かる。


 音速で飛来する弾丸は、瞬く間に視界から消えた。


 黒い馬の前足が上げる。


 少し遅れて、甲高い馬の鳴き声が聞こえた。


「マジかぁ……これでも私の最高火力を叩き込んだのに」


 言葉とは裏腹に、亜由美の声には余裕がなかった。


「それなら、もう一度だ」


 長光が右手を上げて、パチンと指を鳴らす。


 直後、地面と壁と暗がりから無数の黒く小さな塊が出てきた。


 亜由美が放った弾丸を長光がサイコキネシスで動かしてるのだろう。


 それらは、飛行する虫のように動き、死神の騎士を取り囲んで、第二射となった。


 しかし、全ての弾が地に、壁に、鎧に、めり込んでも尚、死神の騎士は微動すらしなかった。


 死神の頭蓋が亜由美に向く。


 下顎がカタカタと小刻みに震えてる。


「冥府に踏み入る侵入者には、死を……」


 魂に訴えかけてくるような低い唸り声が紡ぐ言葉には、明確な殺意があった。


 亜由美は少しだけ口端を釣り上げてから「今更、そんなこと言われても……ここには何度も足を踏み入れちゃってるしねぇ」と言った。


「問答無用!」


 馬が大きく前足を上げて、いななく。


 死神の騎士が大鎌を振り上げた。


 大鎌の刃に黒い妖気が立ち昇る。


 あからさまな攻撃の予兆。


 秀矢は、飛び退く体勢に入った。


 亜由美達の足手纏いにならぬよう、余裕を持って死神の大鎌を回避するために。


 高く上がった漆黒の蹄が地につく。


 秀矢は、死神の騎士が動く前に、亜由美から離れるように大きく飛び退いた。


 刹那、漆黒の馬が地を蹴り、死神の大鎌が亜由美に襲いかかる。


 黒い妖気が大鎌の軌跡を記す。それはさながら宙に墨で描かれた炎。


 黒い炎は一瞬だけ燃え上がり、余韻も残さず霧散する。


 次の瞬間、脳に何かが流し込まれる感覚に襲われた。


 視界がモノクロに染まる。


 それだけじゃない。


 そこには、三人目の人間が居た。


 後ろ姿だけど、見覚えのある服を着て、見覚えのある刃機を両手でしっかりと握りしめてる。


 何かが引っかかる。いや、そう考える方が自然と言うべきだろう。


 ここに至るまで、いくつもの常識を覆された秀矢でも、その事実を受け入れるのに時間を要した。


(こいつは、俺……なのか?)


 まるでサードパーションシューターのイベントシーンのような映像。


 視点を変えることも自分と思しき人間を操作することもできない。


 相対してるのは、死神の騎士。


 モノクロの映像でもリアルとさして変わらない風体。


 心身に刻み込まれた戦慄が呼び起こされる。


 大鎌を振り上げる死神の騎士。刃機で応じる秀矢。


 両者互角に見える撃ち合い……しかし、態勢を崩してしまう秀矢。


 容赦なく振り下ろされる大鎌。


 大きく鋭い刃は、秀矢の心臓を貫いた。


 大鎌の切っ先から墨汁のような血が滴り、衣服を黒く染める。


 幸いにも映像なので、痛みはない。意識もある。


 ただ感受性と共感力の高い人がホラーやクライムサスペンスでよくある、人が虐げられるシーンを見た時のむず痒さが身に染みる。


 嫌な物を見てしまった。


 そう思った瞬間、モノクロの映像がリアルに切り替わった。


 ダンジョンの床と壁が色づいてることに気づいた時、秀矢は亜由美の存命を確かめるべく視線を巡らせる。


 その時、視界に「秀矢、逃げて」と短いメッセージが視界に映し出された。


 今の状況下で、その言葉が意味することを想像しただけで戦慄する。


 ゲームなら戦線を下げることに躊躇しないが、今は違う。


 ここで戦線離脱した後の絶望感は、バカでもわかる。


 それが、推しの言葉なら尚の事。


 たとえ推しの願いでも、ここで退いたら二度と顔向けできない。


 秀矢は、敵前逃亡を拒絶した。


 理性と本能が同じ結論を弾き出す。


 本来なら退くべき局面で――亜由美の前に出る事を選択した。→ここから下は、大幅修正箇所


 たとえそれが、判断力の欠如ゆえの過ちだとしても、今の秀矢に退却の二文字はない。


 死神の騎士を注視する。


 今は、亜由美にヘイトが向いてるようだ。


 亜由美が銃を向けた。


 死神の騎士が大鎌を振り上げる。


 直後、死神の騎士から火の手が上がった。


 長光のパイロキネシスだろう。


 頭蓋の鼻腔、口腔、眼窩から体を覆う鎧の隙間から勢いよく炎が噴き出す。


 だが、火だるまになっても尚、死神の騎士は止まらなかった。


 炎、念動力、音速の銃弾。


 考え得る限りの手札をきっても、死神の騎士にはダメージどころか怯ませることも叶わない様子。


「笑止! 斯様な児戯で我の相手が務まると思うたか!」


 死神の騎士を焼き続けた炎が大呼と共に消える。


 直後、大鎌を振り上げた。


 それだけで周囲の大気が震える。


 鎌の刃線にゆらめく妖気が柄から手に、肘、肩、そして死神の騎士の全身を包み込む。


 攻撃の予兆ですらない、取るに足らぬ所作。


 それだけで、かつてない恐怖が悪寒となり、全身を駆け巡る。


 後追いで募る焦燥感。


 馬の周囲の地面から、黒く細い煙上のものがいくつも立ち昇る。


「散れい!」


 死神の騎士の一喝と共に、細く立ち昇る黒い煙が妖気を帯びたかのように色濃くなると大鎌の刃に集束する。


 秀矢は出来るだけ離れつつも、予想だにしない挙動に備え、何時でも飛び退けるよう神経を張り巡らせる。


 死神の騎士が大鎌を振るう。


 直後、刃に集束した黒い妖気が爆ぜた。


 大鎌から黒く巨大な斬撃が放たれる。


 視覚が斬撃をとらえた瞬間、秀矢は後ろに飛んだ。


 黒い斬撃は大鎌の軌跡よりも遥かに大きく、そして早い。


 刃の間合いだけでなく、あらゆる飛び道具にも対応できるよう、十分すぎるほどの距離も確保――したつもりだった。


 距離を大きく開けたにも関わらず、黒く巨大な斬撃は想定よりも早く、間近に迫る。


 斬撃はダンジョンの横幅いっぱい広がっており、避けるには、伏せるか飛び越えるしかない。


 斬撃の特性を認識した時点で、後方に飛ぶ、という回避行動が悪手となる。


 秀矢は生まれて初めて、死を意識した。


 拙くも自分なりに懸命に生きた15年間が、瞬きをも上回る速さで脳裏を過ぎる。

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