第18話 死者を蘇生する秘宝
「そうですわ。私、ここで、もたついてる暇がありませんの。えっと――」
「私の名前は、アイ。よろしくね」
「はい! アイ様! 本当なら助けて頂いたお礼を差し上げたいところですが――」
「死者を蘇生する秘宝? 何それ?」
「言葉の通り、死んだものを現世に呼び戻す杖です」
「どんな見た目なの?」
「杖に蛇が巻き付いておりますわ」
「蛇かぁ……そんなので死者を蘇らせるなんて、大それたこと出来るの?」
亜由美が訊ねると、先ほどまでのぼせてたフローラが真顔になる。
凛とした表情は、見てる側にも程よい緊張感をもたらす。
「はい。杖の効力は確かなものです」
ゆっくりと、そしてハッキリとした口調で言った。
先ほどまでとは打って変わって、フローラの毅然とした態度に圧倒された。
「すみません、アイお姉様。私、先を急いでおりますので、またお会いする事がありましたら、お食事とお寝るをご一緒いたしましょう。それでは失礼致します」
「そ、そうね……あはは」
フローラの態度に身の危険を感じたのか、亜由美の笑顔が引きつってる。
しかし、フローラは亜由美にたっぷりと愛嬌を振りまいてから、踵を返すと、軽快な足取りでダンジョンの闇の中に消えていった。
まるでフローラに置き去りにされたかのように、三人はその場で立ち尽くしてる。
程なくして、緊急クエストクリアの文字が視界に映し出された。
緊張が解けたのか長光は、大きく深呼吸をした。
「二人とも緊急クエストご苦労様」
「何と言うか、色々と癖のあるエルフでしたね。男はお呼びじゃない、というか俺に対する当たりがきつかったような」
「そうかな? 僕に対しても似たような感じだったけど――」
長光と秀矢、二人同時に亜由美に目を向ける。
「空閑さん。偽名を名乗ったのは賢明な判断だったね」
「でしょ、でしょ? さっすが私」
「おかげでフローラが僕たちとは、異なる生き物である信憑性が増した。無論、皆が皆、ストリーマーとしての君を知ってるとは限らないけど――」
「それは言わないでくださいよ~、傷つくなぁ」
「それはそれとして――」
嫌な予感を察知したのか、亜由美の顔が引きつる。
「空閑さん。万が一、さっきの知的生命体が地上に出た場合、日本の平和のために、その身を捧げてもらうかもしれないね」
「先輩。私に一体、何を期待してるんですか!? 私はノーマルですよ!」
「今から趣向を変えればいいじゃないか。ワンチャン、その手の活動家に受けて、スポンサーになってくれるかもしれないよ」
「勘弁してくださいよ~」
「ははは。でも、彼女が僕たちと敵対した場合は、頼りにさせてもらうよ。アイお姉様」
長光の語尾には、嫌味ったらしい悪意がこもっていた。
「でも、大事にならなくてよかったよ」
「そうですね。いくら私でも、可愛い子を撃つのは――」
「ついでに、収穫もあったからね。もしかするとボーナスが出るかもしれないよ」
「収穫って、さっきの杖の話ですか?」
「違うよ」
長光は、内ポケットから名刺入れを彷彿とさせる金属製の箱を取り出した。
箱を開けると、長光は指先を押し付けた。
「先輩……まさかフローラの手を握った時に?」
「ご明察。緊急クエストを確実に終わらせたかったからね。血液、毛髪、衣服の繊維を失敬したよ……って、何でそんな目で僕を見るのかな」
「――ハッキリ言って、キモいです」
「相手は、未確認の知的生命体なんだけどな」
「だからと言って、女の子相手にやるのはどうかと思いますよ。完全にストーカーの所業ですよ」
「人聞きが悪いなぁ。せめて探偵と言ってくれ」
「あまり変わらないですよ」
「それにエチケットとして、透明の手袋はつけたのに」
「そういう問題じゃないと思います。なんかこう、生理的に受け付けないというか――」
「君の言いたい事は何となく理解できるけど、普段は女性相手にこんな事しないからね」
長光は、亜由美の言い分に、釈然としない様子。
亜由美は、女性として長光の取った手法を本能的に嫌悪感を抱いてるのだろう。
丁度、会話が途切れたので、秀矢は先ほどの戦闘について気になったことがあったので、それを訊ねることにした。
「俺の勘違いなら申し訳ないですけど、モンスターを燃やしたのって長光さんのスキルですか?」
「ああ。僕は、こう見えて超能力者なんだ。といっても僕が使えるのはパイロキネシス、サイコキネシス、テレパシーの三つくらいだけどね」
「そんな便利な力があるのに、今の今まで温存してたんですね」
「意外と不便なんだよ。超能力って、脳に負担がかかるんだ。それで普段は、極力セーブしてる。先ほどのような有事に備えてね」
「先輩、いい加減、帰りましょうよ~」
「ゴメンゴメン、空閑さん。残業も終わったし、地上に帰ろうか。僕も力を使ってヘトヘトだし」
再び歩き始めてから数分後。
緊急クエストを終えた解放感が嘘のように消えた。
直後、心臓を握りつぶすような禍々しい殺気が全身にのしかかる。
その元凶は、進行方向の先。フローラとは、真逆の方向。
コンマ遅れて、視界にはアンノウンの警告メッセージが映し出された。
数は1体。
ダンジョンの暗がりから伝わってくる圧は、これまで倒してきたモンスター達とは比較にならないほど重い。
そう断言できるほどの脅威が迫っている。
まだ敵の姿が見えないのに、亜由美が銃を構えた。
神妙な顔つきが緊張感をもたらす。
臨戦体制のようだ。




