第17話 知的生命体との邂逅
秀矢と長光は、亜由美が送ってきた座標に到着した。
そこには、エルフとモンスターの戦いを見守る亜由美の姿があった。
「二人とも、こっちよ」
「空閑さん、戦いの様子はどう?」
「見た感じでは拮抗状態ですけど、モンスターの方が数的有利だから、戦いが長引けば、いずれ女の子の方が――」
「わかった。今、周辺の大気を調べてるから待ってて」
大気、ということはウイルスや細菌の感染リスクのことを指してるのだろう。
「うん。空気感染の心配はない。空閑さん、大至急、未確認生物への加勢と保護を! 時田くんは、ここで待機を」
「待ってください。あいつらなら俺でも――」
「相手がモンスターだけなら構わないけど、未確認生物が僕たちに牙を向く可能性がある。その時、君は彼女と戦えるかい?」
「……」
秀矢は、即答できなかった。
今日、初めて実戦経験したばかりの男が、人間に酷似する生命体を倒す覚悟を決めるには、圧倒的に実力と時間が足りないのだ。
「気にすることはない。休むのも仕事の内だよ」
長光はヘッドホン型刃機の右耳付近にはスマホを差し込んだ。
二人の戦いぶりは、圧倒の一言。
エルフの前に立つやいなや、亜由美がショットガンを数発打ち込む。
爆音と共にドス黒い血飛沫と肉片が吹き上がる。
原型を大きく崩したオーク、コボルド、ローグ、アンデッドコボルドの群れが次々と地に伏せる。
続いて、武器を持たない長光は、何もない空間に手をかざした。
「刃機、抜刀――」
囁くように小さな声で音声認証を終えた瞬間、生き残ってたモンスター達が突然、燃え出した。
動画で見た炎の玉はおろか、火の気すらないのに、表皮の一点に火が点くと、瞬く間に全身に燃え広がったのだ。
色々と諸説ある人体発火現象がもし現実にあるならば、眼前で繰り広げられてる光景のことを指すに違いないと納得せざるを得ない光景。
火だるまとなったモンスター達が苦悶と思しき低い声を上げる。
声を切らした者から順に倒れてく様は、さながら地獄絵図。
程なくして、灼熱地獄が終わりを迎えた。
辺りから炎が消え、灰となったモンスターの亡骸が風に乗って暗闇の彼方に消えていく。
秀矢は、自分と二人の間には一朝一夕では埋められない実力の差があることを思い知らされた。
狩場のモンスター数匹をソロで相手した経験など一笑に伏すほどの大きな隔てり。
多少の実戦経験でいい気になってた自分を恥じた。
引け目を感じつつ、エルフの様子を眺めてると長光から合流するようにチャットが送られてきた。
早足で二人の元に向かう。
エルフは、困惑した様子で秀矢達を見ている。
少なくとも友好的とは言い難い感情を抱いてるに違いない。
モンスターという共通の外敵を倒したにも関わらず、秀矢達とエルフの間には、とてつもなく大きな心の壁があるようだ。
誰もが口を閉ざす中、最初に切り出したのは長光だった。
「怪我はないかな。お嬢さん」
そう言いながらエルフの前に詰め寄ると、淀みない所作でエルフの手首に手をかけた。
ロマンスものなら、かしずいて手の甲に口づけする貴族のような所作。
エルフは、突然の出来事に戸惑ったのか、目を丸くする。
邪な気持ちがないのか、長光は手相占い師のようにか細いエルフの手をまじまじを見つめてる。
しかし、エルフの方はそうもいかないようで、その表情は驚きから嫌悪へと変貌した。
終いには、長光の手を振り払い、その手を守るように胸元に寄せた。
その様子がおかしかったのか、亜由美はクスッと小さく笑った。
「先輩、セクハラはダメですよ」
「そんなつもりは無いんだけどね」
「さすがに初対面でイケメンムーブは、ハードル高すぎですよ。……ほら彼女、怖がってるじゃないですか」
「敵愾心より、いいじゃないか」
長光はエルフの方に振り返った。
「さて、お嬢さん。言葉は、わかるかな?」
エルフはこくりと小さく頷いた。だが視線は亜由美の方に向いてる。
呆けた表情で意識がハッキリしてるのか定かではない。
「なら話は、早い。助けた見返り……と言ってはなんですが、僕の質問に答えていただけないでしょうか」
(本当に俺達の言葉をわかってるのか)
秀矢が訝しんでると、いきなりエルフの表情が険しくなり視線が鋭くなる。
「短命一族の男に話すことは、何もありません!」
拒絶の意思を表すように、エルフは語気強めに言った。
刃物のように鋭く冷たい視線は、容赦なく秀矢に向けられた。
長光もエルフに、とりつく島が無い、と判断したのか、疲れた声で「空閑さん、後は頼んだ」と言った。
亜由美は一瞬だけ顔をしかめた後、ぎこちない笑顔でエルフに訊ねた。
「ハ、ハロー。私の言葉は、わかるかな?」
「はい! わかります!」
男性陣達への対応とは打って変わって、嬉しそうに答える。
心なしか白い頬に赤みが差してる気がする。
(日本語、通じるのかよ)
「お姉さん、聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「はい! 何なりと!」
「あなたのお名前を教えて欲しいな」
「私の名前は、フローラです」
「それじゃ、何でこんな所にいるのかな?」
「死者を蘇生する秘宝――アスクレピオスの杖を探し求めて、やってまいりました……ハッ!?」
口を滑らせてしまったのか、フローラは目が覚めたような顔つきになる。




