第16話 エルフ
「長光先輩、過去に第1階層で未確認生物が現れたのは何時ですか?」
「今、検索中……直近は10年前。その時は、今でいうで4階で頻出するソードマン、メイジ、プリースト、ナイトの人型モンスターの一群らしい。当時は、3層攻略中だから未確認生物なのも頷けるけど……」
「10年前か……あー、よりにもよって、こんなタイミングで来なくてもいいのに」
亜由美は心底、残念がってる。
想定外のアクシデントで、げんなりしてる模様。
「長光さん。未確認生物が近くにいると何かあるんですか?」
「僕たちの任務は基本的に、未踏エリアの探索に――」
将さんが言いかけたところで、耳障りなブザーの音が鳴り響いた。
「何ですか!? この音は!?」
「緊急クエストの発注音だよ」
騒音が鳴り響く中、長光は平然と答えた。
「攻略済みの階層に、不測の事態が発生した場合、今みたいに調査依頼が出る。その中でも緊急クエストは、階層の難易度とダンジョンに潜ってるメンバーの戦力を比較してAIが問題なしと判断を下せば、先ほどの警告音と共に緊急クエストが発注される」
「クエストを受注しないと言う選択肢はありますか?」
「残念ながら緊急クエストは拒否できないよ。少しでも危険と判断されたら撤退命令が出るけど」
「出る……けど?」
「撤退命令が出る前に逃げた場合『士道不覚悟』と見なされ、僕たちの体にあるナノマシンが生命活動停止信号を出して、この世から撤退することになる」
「これから帰宅と言うタイミングで、まさかの緊急クエストですか。つくづく恵まれてますね」
「時田くんは、ここで待機。空閑さん、偵察を頼む」
「了解」
亜由美は承諾すると同時に、ショットガンを構えた。
仕事のためか顔つきが鋭い。
「モンスターと交戦してるとはいえ、未確認生物が僕らの味方とは限らないから、油断は禁物だよ」
「わかってます。現場についたらチャットを送ります」
亜由美は秀矢達を置き去りにするように、ダンジョンの闇の中に消えた。
「未確認生物だけならいいけど、モンスターと交戦中か……嫌な予感がするな」
「そんなに変ですか? モンスター同士でも縄張り争いがあるだけかと」
「少なくとも記録上、モンスター同士の争いという前例はない。僕も何度か攻略済みの階層の異変調査で新種のモンスターを発見したことがあるけど、新種と在来種が群れを成すことはあっても、仲違いしてるのは見たことがない」
「そこまで異例づくしなら、亜由美一人に行かせるのは危険な気がしますが――」
「彼女の実力と判断力なら問題無い。一人で手が余るようなら、すぐ引き返してくるさ」
「それでも――」
「どちらかと言えば、彼女を一人で行かせた、というより君を孤立させないようにするためだよ」
「どういう意味ですか?」
「君は初心者で、彼女はベテラン。もし、現場にいるモンスターが僕たち二人の手に余る場合、君をかばいながらの戦闘は困難となる恐れがある」
「お気遣いありがとうございます。要するに、俺は足手まといってことですね」
「気を悪くないでほしい。犠牲者を出したくないんだ」
「これも仕事の内ってことですね」
「しかし、異変を早急に調査し、危険を排除するのもサムライの仕事。だから彼女一人にお願いした。特に、ここは第1階層。地上は目前。モンスターを地上に出すわけにはいかないからね……っと、空閑さんから連絡が入ったよ」
秀矢の視界にも亜由美から届いたチャットが映し出された。
内容は『戦闘を目視で確認。こっちに来て』と短い文。
発信源と思しきフロアの座標。
最後に戦闘のワンシーンと思われる動画が添付されてる。
動画の内容は、一人の人間とモンスターの群れが対峙していた。
モンスターの群れは、先ほど俺が相手した連中と差して変わらない。
そんな中でも女性の出立ちは一際、目を引いた。
長い金髪に碧い瞳。
金髪碧眼という言葉がぴったりだ。
しかも不自然さが一切ない。
髪は、光に照らせばキラキラと輝きそうなほどの白とも金とも言える色合い。
瞳は、サファイアのように透き通ってる。
カラーコンタクトとは、大違いだ。
それと一点、気になる箇所がある。
頭部の横、耳の位置に、髪に隠れがちだけど何か肌色の突起物が見える。
女性は、得物を所持してない。
代わりに手の先から炎の玉を出して応戦してるが、多勢の無勢のためかモンスター達を相手に苦々しい顔をしてる。
(これは、エルフか? というか手の先から火が出てたぞ)
動画の女性をまじまじと眺めてると長光の声が聞こえた。
「この動画の女性。モンスター図鑑に検索をかけてもヒットしないな。それにローグと違って、苦しそうな表情をしてる。もしかすると知的生命体なのかもしれない」
「そんな宇宙人みたいに――というか、これエルフですよね。空想上の生物かと思ってましたけど――」
「時田くん、すまないが地上に出るのはもう少し後だ。今は、空閑さんと合流しよう」
「わかりました」
「こんなことなら手ぶらでこなければよかったよ」




